56 ~やり残したこと~
スクランブル交差点のように、三人を取り囲む人々の往来が途切れることなく目線の端へときえていく。
「質問の答えが曖昧なままだったね。ルートはまちがいなく一度消滅したよ。ハアトの計画通りにね。でも、君たちが創りなおした。今在るルートは二人の時計が生んだものさ」
機関の中央に機関長室も復元された。先ほどまで広がっていた空間には、人垣についで区画も形成されていき、今まさに広大なデータを読み込むようにルートが生まれ変わっていった。
「ハアトがまだサクマの管理下で保留者だったころ、何度か機関に侵入しようとしてエイジアに追いかえされていたんだよね。あまりに素行が悪くて機関での仕事を与えたけど……あれが失敗だったな。まさかあんな恐ろしい時計を手にいれるなんて」
ひとり溢すランディは二人を連れ、自室の扉を開きながら「ほかに質問は?」と問い、懐かしむように書斎机を愛でている。
「ハアトがそんなに悪い人だと思えません……」
以前、目的をともにハアトと同行していたサヤカは、彼の背中を思い出しながらそう告げた。この場において件の男を擁護するような言い分は、口にするだけでも勇気がいるはずだった。
「それは主観によるものだから否定はしないけど、彼はもともと宗教団体のトップにいた男だよ。どこかの国の怒りに触れて、無惨に処されて、サクマがここに連れてきたんだ」
落ちつきのない音をたて、何やら一枚の紙を取り出して二人の前に置いた。それはハアトの生前の経歴書であった。そこに記載されている情報が外国語のため、二人の代わりにランディが抜粋して伝えると、誰もが教科書で習う遥か昔の事件の首謀者だった。
「ただ、ハアトのやり方には反対だけど、結論には賛成だな。ルートは大きくなりすぎた。しかし必要な機関でもある。だから……元に戻した方が良いだろう」
彼は胸もとから、今はガラクタに成り果てた懐中時計をとりだした。
「オリジナルの機能と、エイジアの時計を、僕に渡してくれないか?」
青々としたランディの眼が、無彩色の世界のなかでただ一点のひかりを放ち二人へと向けられた。
「……まだ駄目です。お姉ちゃんともう一度会ってお別れがしたい。それが済んだらきちんと返します」
異議をとなえたのはダイチだった。サヤカの顔が再び不安の色をうかべ、温度を奪われるような悪寒を携えていた。
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