29 ~二人のルート変更~
「さ、そろそろ進みましょうか」
ハアトは呆けているサヤカの肩に腕をまわし、門とは反対側、果ての見えない彼方へと促す。先を示す彼の右手には、開かれた懐中時計が握られていた。
「あてはあるんですか?」
あくまで自然に、嫌みなく肩の腕を払いのけるサヤカは、ダイチにたどり着ける根拠に飢えていた。この道の先に目的があるのか……。彼の示す進路は淀みなく明快な道が続いているにも関わらず、いびつな、呑み込まれるような恐怖が同居していたのだ。
「なかなか鋭い……いや、落ち着いていますね」
役を持たない左手を弄びながら、ハアトの目は狭い文字盤の上を凝視している。
「相方の……ええっと。――――ランディさん?」
「ダイチです。誰のことですか?」
おっと――と口をつぐみ、時計を改める。よく見ると彼の時計は淡く発光しているようだ。
「そうそうダイチさん。ご安心を、彼の居場所なら把握しています。ただ、少々厄介な人物が同行していますね」
文字盤を睨みながら考え込むハアトの傍までサヤカは近づいた。彼が何を見ているか気になり、隣で覗きこもうとしたのだ。が、彼女の意図に気がついたハアトは咄嗟に時計に蓋をする。もっとも、二人の身長差を考えると、どのみちサヤカに文字盤を見ることは叶わなかったが。
「アイビイもそうやって時計を使っていました。それを使えば何でも見えるんですか?」
「そう――――」
答えかけてやめた。ハアトの脳裏に口止めをするアイビイの姿がよぎったのだ。
「――――答える必要はありません。とだけお答えしておきます」
一瞬むっとした表情を見せたサヤカだったが、二の句を告げさせまいと遮ったのはハアトの方だった。
「提案ですが、ダイチさん達はお姉さんを探すために町をうろついているのですね? であれば、我々が先にお姉さんを見つけて、彼らの到着を待つ、もしくは彼らを迎えにいっては如何でしょう?」
サヤカは彼の提案を咀嚼するようにあごに手を添え、方々へ目を動かしながら唸り声をあげる。よく考えているようだ。ハアトの印象通り、彼女はここにきて落ち着きを取り戻しつつある。
「ダイチのお姉さん? ……どうしてそんなことを知ってるんですか? 私も知らないのに」
「僕はね、なんでも知っているんですよ」
再び頭を抱えたサヤカだったが、先ほどよりも幾らか早く両目に意思が宿っていた。
「それが本当だとして……そっちの方が大変じゃないですか?」
「そうとも言えませんよ。何故なら彼らはあてのない人探しをしています。そんな人たちを追いかけるのは疲れるだけです。一方、お姉さんのような保留者は一所に留まっていることが多いはずです」
そらきたと言わんばかりのハアトの返答の早さ。ダイチとサクマでは人探しが難航することが容易に想像できているのだ。
「……」
「……決まりですね」
少しの間をおいた後、サヤカは首を縦にふった。
「では、サヤカさんの知っている限りで結構ですので、お姉さんのことを教えてください。さすがの僕も、名も知らぬ人を探すことはできませんから」
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