25 ~・・・~

「先日、久々に機関長の部屋にお邪魔しました。ハアトの時計に不具合がありまして、過去にもそういった事例が無いかを調べるために」


「雑多とした資料を漁っているとき妙なものを発見しました……。ぽつぽつと数ヶ所、水滴が乾いた跡のような染みが紙面に残っておりましてね。普段なら気にもしませんが、そこはあの几帳面な機関長の部屋ですから。それに入室できる人物も限られています」


「機関長の部屋で時計を使用すること及び時計を利用しての部屋への干渉は厳禁です。これは悪用を防ぐためですね。元々悪の道を進んだ果てが我々なのですから、機関長が警戒するのも無理はありません。ですから、私もその染みの正体を見ることはしておりません」


「もっとも、あの部屋で私が時計を使用したからといって痕跡が残るわけでもありません。機関長の部屋を時計で調べない――――これは私の誠意です。例えば時計を使った事実を誰も憶えていなければ、私的な理由で時計を使用し、資料を視ることも可能です。そうしますと、入室の権限があり、かつ時計を使用しても機関長に痕跡が残らない人物は……あなただけなのです」


 機関の末端である門の傍。アイビイはエイジアの執務室を訪れていた。ぽっかり開いた壁の穴から、門を見つめ背後で手を組んでいる。


「しかし気になるのは、汗を滴らせるほど必死に探していたものはなんでしょうか? 機関長の許可を取らずに調べたいほどのものとはなんなのでしょうか? 私にはわかりませんでした」


「すぐにでも私の時計であなたの過去を見たいところですが……日本にあなたを行かせたのは失敗でしたね。ハアトと共に帰還したところで過去が途絶えています」


「ご安心を。周囲の方々には黙っています。もちろんサクマにも……彼の存在がありながら危険を冒したものですね。もっとも、彼はあなたと犬猿の仲ですから、あなたに違和感を持つ機会はなさそうですがね」


 自室の椅子に座ったまま、じっと言葉の主の背を見つめるエイジア。室内に充満する抑揚のない声色は、彼女の瞳の色によく似ていた。


「とはいえ、厄介事の引き金になりそうだと判断した場合、あなたの時計と権限を回収することになります。これは警告です。重々お気をつけください」


 アイビイは彼女の言葉を聞くことなく部屋をあとにした。

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