24 ~限り有る無限の国~

「なるほど。ではアイビイもエイジアも承知のことでしたか。私をのけ者にするなんてひどい話です」


 自分の口との闘いに疲れ果てたダイチはその場に腰を置いてしまった。


「とはいえ、大した隠し事ではありませんでしたね。ダイチさんが生きていようが構いませんよ。お姉さまを探しているというのも本当でしたし」


 一方のサクマは「姉を探す」という目的が嘘でなかったことに満足していた。


「それにしてもハアトの時計を拾ったとはどういう経緯でしょう。落とした? 置き忘れた? なんにせよ彼の時計は特別ですからね。無事にアイビイが回収したようで安心しました」


 そして顎を撫でながらうわ言を繰り返し、天を仰ぎ見ている。


「このことは……言っちゃだめだと思ってました。これから僕はどうなるんですか?」


 ダイチはひどくうろたえていた。アイビイから逃げてきたこと、置いてきたサヤカに危害が加わる恐れ、門を挟んでいても分かった姉の異変。全てが悪い方向に転がっているように思えてしまったのだ。


「どうもこうも……ひきつづき協力しますよ。よく見てください、この国の有り様を」


 対照にあっけらかんとしたサクマは素早くダイチの背後にまわり、彼の肩口から手を差し出し、「あれも、あれも」と周囲の様子を断片的に指をさしていった。


「どこを見ても偽物の充実です。だってそうでしょう。経済も生命活動も困ることが一切ない、時間の概念がないから急ぐこともない。もう死んでいるから死ぬこともない」


 手を離したかと思えば、今度は芝居がかった声量と仕草で、ダイチの目の前でうやうやしく首を垂れる。


「人は……限りがあるからこそ、今を充実させることが出来るのです。苦があるからこそ、瞬間に宿る灯火を認めることが出来るのです」


 面を上げたサクマは、ダイチの頭を撫でながら慈愛に満ちた目をみせた。


「私にも大事な目的があります。ですから気持ちは分かるつもりです。あなたの大事な人を探しましょう。きっとすぐに見つかりますよ」


 ――――厳密には、彼らの今にも限りはありますがね。


 ダイチは頭に乗っている手の主が、明後日の方を向いて放った最後の言葉の意味が分からなかった。そして文字通り口を割られ、これまた文字通り割りに合わないようで、なにやら納得がいかない様子だ。


 そんなダイチに合図を送るように、掴みどころのない背中は歩き始めた。

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