23 ~真実の時を刻むもの~
案内係のサクマと現世の人間であるダイチ。なんとも奇妙な組合せが出来あがってしまったが、思いの外サクマは国のことを親切に教えてくれていた。
「まったく手掛かりのない状態ですからね。しらみつぶしに探すほかありませんが……そもそもどうしてお姉さまがこの国にいると分かったのですか?」
ダイチはすぐに答えられなかった。今ここにいること自体アイビイの言いつけを破ったことに他ならないからだ。そして自分が生きているということも、なんとなく口にすることが憚られた。
「たまたま、見かけまして……」
「そしてはぐれてしまったと。なるほど」
サクマは器用なもので、ダイチに耳を傾けつつ、時折すれ違う機関の人たちとも軽快に挨拶を交わしていく。
「この国で姉弟が出会うとは、無いこともないのですが。今後はこういうケースも増えていくんでしょうね……」
真実を告げられなかったことに後ろめたさを感じたダイチは、サクマの目から逃れるように顔を背けていた。泳ぎだした焦点はどこにも合っていないが、サクマにはこの国に興味を持つ少年の姿に見えたらしい。
「こちらには来たばかりですか? だとすれば奇妙な光景でしょう。淡白な天に生気のない人々……なのにわざとらしい活気はある。全てが造りものですよ」
サクマの喉を鳴らすような笑い声を聞いて、ダイチの脳裏をよぎったものは中学時代の英語の先生だ。その先生は曲がったことが大嫌いで、嘘をつく人を制圧するが如く問い詰める性格だった。にもかかわらず自分は卑屈な笑い方をするものだから、どうにも人気が出ないどころか嫌われていたくらいだ。
「――――さて、突然ですが質問です」
サクマは大きくステップを踏むように、ダイチの正面へと回り込み、数十センチほどの身長差を補うため腰を曲げ、いま互いの顔は近距離で目を合わせている。
「あなたは先ほどから何か隠し事をしているようですね。何を隠していますか?」
朗らかだった空気は一変、国を覆う白濁とした光を乗せた重みが、ダイチの肩にもたれかかった。アイビイに出会ったときと同じく、またも幼きダイチは答えられない。サクマは相手が閉口する展開をあらかじめ分かっていたかのように、スムーズな動きで背筋を伸ばし、懐中時計を取り出した。
「時間の概念がない国で、どういうわけか我々の懐中時計だけが時間を持っています。そして私の時計は真実の時を刻むことが出来るのです。どういうことかは、実際に使えばわかりますよ」
サクマの時計は文字盤の縁から光を零すように煌めきだす。光がしずくとなり、ぽたぽたと足もとに落ちては消えていく。
「改めて質問です。あなたの名前はなんですか?」
「堂森ダイチです」
声の主は咄嗟に口をおさえた。
「あなたの担当は誰ですか?」
「わかりません」
しかし、どうしても口が独りでに動き出す。
「ほお、それはどうしてですか?」
「まだ死んでいないからです」
――――自由を与えられないまま、ダイチはその後もこれまでの経緯を洗いざらい吐き出した。二人の間には、無機質な質疑応答と、サクマの下卑た笑い声だけが鳴っていた。
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