34 ~もうすぐ再会しそうです。~
「あなたは度々機関の人に恩を売っては見返りを求めているようですね。まあ、計らってみましょう。しかし我々案内係にそんな権限はありません。それだけはご理解いただきたい」
「確かに。これまでに店を訪れた有象無象に、そんな力は無いでしょうね。でもあなたは――――あなたがたは違うでしょう? 元判決官のエリートさん」
そう言ってマスターは、シズエが先ほどまでここにいたこと、胸の内に出来たしこりを不快に感じていたこと、そしてその違和感を知るためにとある場所に向かったことを告げた。
「時計を使えば楽だろうに」
「使うと、吐き気がするんですよ」
シズエが向かったであろう場所、そして他、目星をつけている場所を手帳に記入し、ハアトは店を出た。まだ意識を失っているサヤカを背負って。
――――以前のあなたなら……。
扉が閉まる直前、マスターが静かに、でもはっきりと発した言葉。しかしハアトが振りかえることはなく、扉は無情の音で口を閉じた。
・・・
「ん、あれ、え……」
目を覚ましたサヤカは、霧が濃い山の中で寝ていたのかと思ったが、すぐにここはルートであることを思い出す。だが彼女が一瞬でも思い違いをしてしまうのも無理はない。目の前には黒く若干のツヤを含ませた背中があるだけで、その周囲では白い世界が二人を包んでいたからだ。
「おはようございます」
サヤカの意識が戻ったことを背中で感じたハアトは、彼女をそっと地面に降ろす。地に足をつけ、ここはどこかと頭と目を働かせているが、どうにも状況がつかめていない様子。なにせ視界が悪く、遠近なにも見通せないのだから。
「もうすぐ目的地です。はぐれないでくださいね」
ハアトは両手をそれぞれポケットに入れたまま、どんどん先を行く。拒絶とも取れる歩幅と姿勢。サヤカは邪念を抱きながらも、この不明瞭な檻に捕らわれないように付いて歩いた。
「そういえば、いま向かっている所は留守のはずでしたね……。シズエさんも諦めて移動しているかもしれません」
しばらく歩き続けたとき、ハアトは思い出したかのように言った。声色から、サヤカに向けて言ったわけではなさそうだ。
「……留守?」
ハアトは肩越しに目をサヤカに向け、独り言を会話に変え、それでも歩みを止めぬままに続ける。
「ええ、今ダイチさんに同行している人が、この先に持ち場を構えています。そしてシズエさんはその彼を訪ねている可能性が高いのです」
いまいち要領を得ないサヤカ。
ダイチに同行している人――サクマ――とシズエにどのような関係があるというのか。
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