44 ~アイビイはともかく、エイジアにはファンがいるから、そろそろ出しとかなあかんなぁっていう作者の魂胆が見え見えです。もちろん無理やりではなく本筋に超からみます。~

「のこのこやってきて、どういう神経をしているんですか? ……なんて、いまさらでしたね」


 部屋の扉をノックし、返事もまたずに開けたのはアイビイだった。応対するエイジアは椅子にすわり、開口から門を見ていたところだった。動きも抑揚もない、門扉もなければ鍵もない。人がただ通過するだけにしては大きすぎる門だ。


「ずいぶんな物言いですね。なにか気にさわることでも?」


 馴染み深い口調で言ったアイビイは、部屋の主を見向きもせずに扉を閉め、神経質な手つきで眼鏡をはずした。その細く白い指がつめたく細いフレームを磨いていく。彼の繊細さをそのまま象るような細線の流れ。それを磨く行為は、自らを整理する際にみせる彼のくせだった。


「先日の宣告は脅しですよね。正直、あなたの顔も見たくないのですが」


 エイジアが悪態をついたとき、門の付近から荒っぽい男の叫び声がきこえた。また仕事かと、倦怠感を隠しもしない目線の先で、手を後ろに回しもがいている男と共に入場する一団がいた。男がまな板にのせられた鯛のようであること以外、列に乱れはない。滞りなく保留者が機関に連行されたようだ。もっとも、あの男はまもなく服役者として再び門を通過することになるのだが。


「嗚呼、あの忠告を脅しととるかはあなたに任せます」


 サクマも目線を戻し、ほっと安堵したエイジアに向けてか、それとも誰に向けてか「そんなことより」と話しに基点を設け――。


「逃げ出した鼠を見つけました。サクマのところに行きますよ。あなたもついてきてください」


 サクマの名を聞いた途端、エイジアの顔は紅ショウガを噛みつぶしたように険しくなった。持ち主同士の仲が悪いのだから、彼女らの時計がかみ合わないのは偶然ではなく必然だったのかもしれない。


「サクマの……断ります」


「エイジア」


 アイビイの細い体から出てきたとは思えない、背を這うような芯のある声に、エイジアはおもわず睨みかえしていた。声の主は鼻柱をわたる眼鏡をそっと上げ、もう一度、次は凛々しくもやわらかい調子で告げた。


「これは仕事です」


 

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