12 ~垣間見るエイジアの懐中時計~

 エイジアと名乗る案内係に連れられ、二人は門を目指していた。どうやら彼女は二人を保留者と勘違いしているようだ。二人も「保留」という言葉の意味がわからないため口数少なに素直に付き従っている。アイビイの言いつけを守らなかったと知られたら事だと踏んだからだ。


「それにしても珍しいですね。案内係があなたがたを放置していることもそうですし、保留者が二人仲良くなっている状況もお目にかかれないことです」


 二人は案内係というのがエイジアやアイビイを指している事は会話の流れからわかるものの、いまだ保留者の意味を見出せないでいる。そのため、何を言われても愛想笑いで返すしかなかった。


 それに二人にとって気がかりなことが他にもあった。


「この人、私たちが生きていることに気づいていないのかな?」


 先ほどよりも慎重に、ダイチも耳を寄せなければ聞こえないほどの声量で疑問を口にした。


「たぶん。気づいてたらもっと面倒なことになってるよ」


 しばらく歩いたところで、大きな口を開けたアーチ型の開口が現れた。大きいなんてものじゃない、都庁が丸々通過できそうなスケールに、二人の目と口は塞がらなかった。


「もうご存じかと思いますが、この門を通過すれば戻ることができません。次回ここを通過する際は判決後になります。いいですね?」


「勝手に入れないってことですか?」


 二人の顔色は途端に険しさを増していく。ほんのちょっと散策をしようとした結果、なにかの間違いがべつの間違いを呼び、二人は機関から追い出されようとしているのだから。


「そうです。説明はありませんでしたか? 担当は誰ですか?」


 ダイチはこの場は誤魔化そうと次の手を試案するも、なかなか良い文句が出てこない様子。幼馴染の困り顔を見たサヤカはたまらず先手を打ってでた。


「そういえば担当さんから待っているように言われていました。ちょっとトイレに行こうとして迷っちゃったんですよ」


 彼女の台詞には嘘と事実が肩を寄せ合っていた。


 アイビイには待つように言われていた。彼が担当であるかといわれれば明確に違うが、門の内側にいる今ならまだ引き返せる。でも今ここでアイビイの名前を出すことは躊躇われた。


「そうですか。担当外のことにこれ以上首をつっこむつもりはありません。……ちなみに、ここにはトイレがありません。今は催すことがあるかもしれませんが、いつの間にか無くなっていますので我慢してください」


 そう言いながらもエイジアは二人を不審に思ったのか、懐から懐中時計を取り出した。ダイチが拾ったもの、そしてアイビイが持っていたものと同じデザインの時計だ。


「それは……」


 二人の目に映る天の色が変わり始めた。


「案内係なら誰もが持っています。勝手ながら、あなたたちをこれ以上自由にしてはいけないと判断しました。そして私の時計なら、あなたたちを先ほどまで居た場所へ導くことができます。どうか悪く思わないでください」


 墓前と同じ現象。エイジアの手もとで時計が光をまとい始めた。――かに見えたが、唐突に光は燃え尽き、エイジアの視線が門へと切り替わる。


「なにやらトラブルのようですね。あなたたちはここで待っていてください」


 エイジアは二人を置いて目と鼻の先にある門へと歩いていった。ダイチとサヤカは気が抜けてその場にしゃがみ込んでしまい、ふとエイジアの行方を見ると黒づくめの人たちが騒めき集まっていた。その喧噪の中心にいるのは、今しがた向かったエイジアと……私服の人間だった。

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