第3話 製紙工業の準備
ソル118
――ほとんど動きたくないから、知的労働をするべきだという結論に達した。
現代医療を受けられない未開の地で本気なんか出したら体を壊してしまう。
非労働こそ生き抜くコツってやつよ。
だから昨日のアイデアを計画としてリストアップするという低労働高生産な活動をしようと思った。
ところが紙も鉛筆もないからできることは少ない。
つまり――今日もヒマってことだ。
紙なんていくらでも作れるのになぜ今まで作らなかった?
――腰が痛いからだ。
オーケー治ったら紙を作ろう。
何か忘れてると思ったらこれだったか。
これは紙需要が増加しているという【紙】のお達しに違いない。
明日、痛みがひいたら【紙】を作ろう大量にな。
ソル119
――まだまだ農地開発は時間がかかる。
そこでいろいろ先送りにしてたが天からの啓示……否、【紙】からの啓示に従い量産することにした。
紙の製法は――もちろん知っている。
なぜなら製紙産業とは大量生産学にとって中心といってもよい重要な学問だからだ。
紙の大量生産が無かったら科学の発展は数十年から数百年は遅れるといっても間違いではない。
さあペーパーレスなんていう時代遅れの中世から、ペーパーモアいやペーパーモストの現代に移ろうじゃないか。
やりたいことの宣言はいいとして、残念ながらまだ動くことができない。
ということでここは体を動かさなくてもできること――紙の仕様を決めてしまおう。
まずは種類から――。
紙の製法は和紙と洋紙があってどちらも歴史と因縁と、あといろいろある。
採用するのは大量生産に適している洋紙だ。
和紙の手すきなんて高度な職人技は不器用な私とゴーレムにはできない。
技とか腕前とか必要ないのなら生産を検討してもよかったんだけどね。
未経験者歓迎! 体力不要! 腰痛持病問題なし!
ボタンを押すだけの簡単なお仕事です!!
――このぐらい吹っ切れていれば和紙にも興味が湧くんだけどな~。
残念だ。非常に残念だ。
ということで比較すると量産性がよい洋紙の開発だ。
次にどのレベルの紙質が欲しいか?
――まったくいらない。
ようはエンドユーザーたる私が満足できればそれでいいのだ。
そして私はモンスタークレーマーではない。
やりたいことができればいいのだ。
図面を書けて読めればいい。
指示書をゴーレムが読めればいい。
記録できればいい。
要求するものが低いと助かるね。
では具体的に必要な材料を今のうちに揃えておこう。
木材から紙を作るには?
――化学的に【リグニン】を除去する。
化学薬品として必要なモノは?
――【苛性ソーダ水溶液】がいる。
【苛性ソーダ水溶液】を得るには?
――【
【塩水】を手に入れるには?
――【岩塩】の掘削だ!
つまり!
「ゴーレム達よ、私はナトリウムが欲しい!」
「くっころですね! ヒャッハー!!」
「そうだ掘削だ! 岩塩の大量掘削だ!! ……あと【石灰石】と【蛇紋岩】もヨロシク」
「岩塩だー! 岩塩を攫えー!! ヒャッハー!」「「ウェーイ!!」」
――あいつら岩塩を何だと思ってるんだ?
まあいいや。
うん――よし、これで岩塩はどうにかなる。
次は塩水の電気分解に必要な【発電機】だ。
この数十ソルで銅も永久磁石もそれなりにある。
ならばやることはひとつだろ?
そう! まきまきタイムだ!
「わーい。マキマキ楽しいなー」
ソル120
――しまった!!
アルタに次の工場建設の打ち合わせをしていなかった。
まだまだ腰は痛いが這ってでも製紙工場の件を伝えねば!
「アルえも~ん、生産力1トン/sol級の製紙工場が欲しいなー」
「はい? 製紙工場ですか――まずは腰を治してからにしてください」
「あ、はい……」
「…………紙、となると水が必要ですね。では水路の近くかつスモールハウスの近くに空き地を用意しておきます」
――さすがアルえもん!
とっても頼りになる!
ソル121
――紙の生産について計算しよう。
そういつもの計算だ。楽しい楽しい計算の時間がやってきた。
紙を1トン作るのに必要な木材は1.8トン程度といわれている。
1トン/solの生産にはたったの毎日1.8トンの木材消費で済むのはうれしき限りだ。
木炭や建築資材の消費に比べればとっても少なくて助かる。
1冊150gと仮定してマンガで換算するとこれだけで6666冊は刷れる。ひゃっほー!
ん~しかし木材を紙にするには大量の水を消費すると言われている。
1トン製造するのにその量はなんと150
さらに木の頑丈な繊維を解かすのに蒸気をあてる。
蒸解すること3トン分の蒸気を流し続けなければいけない。
それはつまりボイラーが必要になる。それも大きめの!
ほかにも温度管理として発電機と温度計も必要になる。
……またマキマキか~。
この水路には別件で農地20ha、将来的には100haにも水が必要になる。
おっと水の消費が激しいから上流にあった貯水池を復活させといたほうがいいかもしれない。
ほかにもあれの計算と……あっちの原材料の……それから――。
――夜遅くまで検討は続く。
ソル122
――今日は温度計と発電機の製作。
相変わらず外には出れない。というか出たくない。
ベッドでゴロゴロしながらコイルをマキマキ。
他にはゴーレムとバネを飛ばして打ち合ったり、アルタさんに怒られたり。
何をやっているんだ? ……ダメだ。精神が退行している!?
これ以上ゴロゴロしていたらナマケモノになる。
仕事を……何か生産的なことを……。
ソル123
「――ということで脳内設計してたら糸……いや網が必要だと気付いた」
「イートー巻き巻き?」
「それもただの糸ではない鉄の糸を作るぞ――」
――それも大量にな。
糸といえば雑草の糸とロープだが、ほとんど使ってしまい手元にはない。
銅線ならば定期的に作っているが、貴重な銅を使いたくない。
そこで鉄の糸、その名もご存じ【ワイヤー】を製造する――しかし成分比がわからない……。
というか規格として決まってないから、ありものの鉄で炭素量が0.1%ぐらいでいいと思う。
さらにぶっちゃけてしまうと線材ならなんでもいい。
「ということでアルタ君、ちょっと鉄と炉と燃料と線材を作れる装置が欲しいから材料を持ってきて」
「……ハァ、いいですけどまだ安静にしてくださいね」メ
――よし、歩く亜空間ポケットの了承を得た。
鉄を溶かして出てきた鉄を圧延で線材にする。
やることは銅線と同じだ。
/◆/
「アルタさんアルタさん、品質をそろえたいから錬金術で修正してくれる」
「…………少々お待ちください」メメ
――よし、さすが歩く修正機械は最高だ!
欲しいのは2種類の丸材で鉄の棒と鋼線だ。
棒のほうは1m程度の長さで、太さ20mmをいっぱい。
【ワイヤー】は太さは2mm程度が同じくいっぱい必要になる。
この【ワイヤー】を文明的な加工機械で曲げて両端に輪っかを作る。
そう、この小さいハンマーの柄の部分だ――たまたま20mmで助かった!
この輪っかは20mmの棒が通るぐらいにできていればオーケーってことだ。
あとは大量に並べた棒にワイヤーの輪を通して反対側の輪にも隣の棒を通していく。
ここで互い違いになるように交互にうまく通していく。
そして幅1mの棒すべてをワイヤーで埋め尽くす。
見た目は鉄でできた【すだれ】のようなモノができるはずだ。
む、手作業だとなかなか大変だな。
引っかかっるし、…………うげ、1か所間違ってる!
重すぎて、コイツ動かないぞ!?
そんな…………うまくいかない……だと。
むむ、最終的に作りたかったのは【ワイヤーコンベア】これで上に紙を乗せて移動させたかったのだがどうしよう……。
「アルタアルタアルタ、そういうことだから【ワイヤーコンベア】製造装置ちょうだい。あと労働ゴーレム少々」
「………………もう、仕方がありませんね。私も手伝いましょう。ある程度完成していれば組み立てはすぐです」メメメ
――よしよし、歩く組み立て機は便利すぎる!!
これで【ワイヤーコンベア】ができる!
ソル124
――ちょっと腰が痛くなりながらもついにできた。
【ワイヤーコンベア】ができた!
なんてすばらしいんだ!!
よし、ここまで来たらもう止まるわけにはいかない。
次の行程に移るとしよう。
「アルタんアルタんアルタんアルタん――」
「……工場長………………仕方がありません。
「待ってました!」
「ほーい!!」
「まて……なぜだ! う、裏切るのか!」
「絶対安静です。良くなるまで寝ていてくださいね」
「い、いやだーベッドに括り付けられるなんて……殺生なー!!!」
「ご安心ください。残りは全部やっておきますから――そうですね2ソル後、ソル126までは安静にしていてください」
――くぅ……しまった、失念していた。
アルタが【歩くお母さん】だったことを忘れてた!
ちょっと腰痛無視して動き回っただけじゃないか!
他人に迷惑かけてないんだからいいじゃん!!
ほとんど治ってるんだし……ダメなの?
ヒマなんだよ! チクショーめー!!
「そのあいだ。ちゃんとすべてのお世話をしますから動かないでくださいね」
――え? なに!? ぜんぶ世話するってヤダなんか怖い……。
え!? 何をしようとしてるんですか? 待ってくれ!
「大人しくするから、お、落ち着こう」
「ご安心ください。食事も耳かきも……それ以外もすべてお任せください」
「ママアァァァァァァァァァァァァ…………」
――――――――――――――――――――
製造工程
鉄 → ワイヤー
鉄 → 鉄棒
ワイヤー + 鉄棒 → ワイヤーコンベア
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