第3話 コークス炉
ソル98
――とても素晴らしい朗報だ!
石炭の硬さはどこも鉄鉱石と比べて柔らかい。
つまりゴーレムの損耗率が思ってたより低いってことだ!
だがしかし、そこで満足はしない。
今日はゴーレムの脆弱な構造の見直し、生産性の向上を図ろうと思う。
「アルタ君、石と木のゴーレムから鉄のゴーレムに変えられないだろうか?」
「不可能ではないと思いますが、量産性が低下しますよ」
「工作機械で木の加工はできるから、木と鉄のゴーレムならどう?」
物は試しと言うことで石の胴体などを鉄板とサビ防止にスズを使ったブリキの胴体にした。
――うーん、まるでオモチャのような見た目だがまあいいや。
「腕の腕力はどんな感じ?」
「まったく変わりませんせん!」
「――まあ、わかってたさ。じゃあ次は……」
――結果は少し丈夫になった。
あとは石の厚み分は軽くなったので早歩きできるようになった!
面白かったのは肩関節で
それ以上は遠心力で腕がぶっ飛んでわからなかった。
rpmか……懐かしい表現だ。
回転数/分という意味で、1分間に何回転しているのかを表す単位。
残念ながら原始人には正確な1分なんてわからない――時計の作り方もわからん。
こんなことなら時計を持ってくればよかった!
しかたがないので1ソルの砂時計とその半分の12時間砂時計、1時間、30分、3分、1分、という感じの砂時計を大量に作ってやった――精度? そんなものはない!
スマホに充電できれば高性能の時計を使えるんだが、今の不安定な発電機に直に付けたら爆発するのがオチだ。
それにしても、あの回転数を数えられるとはアルタめ、なかなかやるな。
それはいいとして――。
「――面白かったので、肩を歯車にし腕をピッケルに変えて見た」
「わーい、たのしー、けどくっころしにくいオブオブね」
「直接の回転じゃインパクトが足りないか……それじゃあ回転を振動にするパ……ごほん、とにかく改造しよう」
道路補修でガタガタする機械、またの名をランマー。
こいつは回転をクランクで往復運動に変えてさらに機械が壊れないようにバネで間接的に力を伝達するそんな機械。
ではその構造をゴーレムの腕にしたらどうだろうか?
「パイルバンガガガガ…………あ、壊れた。工場長こわれました!」
「やっぱ無理かー」
「工場長わかっいて、この娘達で遊んでますね」
――うぅ、アルタ君の批難の目が痛い。
多分問題はクランクが磨耗しやすいのと関節部の強度不足、そしてインパクトの反動に耐えられないのが原因だろう。
哺乳類みたいに筋肉というバネが無いから仕方がない。
四脚にして積載量を上げてバネを大量に乗せようとしたが……。
お母さん的には我が子を人型以外にするのはダメらしい。
そのせいで遺跡に朽ちていた大型ゴーレムとか作ってくれない。
なんでも古代に派閥争いと技術の秘匿といろいろあったそうな。
「お次は最初の歯車の腕にバネとラチェットを追加してみました」
「カチカチカチカチ、ドーンだYo~」
「じ~~……見た目がカマキリですが…………まだマシですね」
――お母さん的にギリギリオーケーみたいだ。
ブリキの胴体に鉄のピッケルと木タール仕上げの木の腕。
肩パットには歯車とラチェット機構そしてバネが仕込んである。
頭にはタール調の木のヘルメットそして目の役割も果すゴーレムコアに粉塵が付かないように天然クリスタルの輪切りのゴーグル。
縁はもちろん銅製だ。
なんというかスチム香が漂う見た目に変貌したが
「掘削に行ってきまーす」
「アルタ君あの掘削ゴーレム製作するのにどのくらいかかる?」
「おおよそ2時間ですね」
――ヒャッハー製造時間が倍に伸びたぜ!
どうしよう……。
性能が上がるということはコストが増加するということだ。
これを覆すには大量生産しかないが――まだ供給するための仕組みがない。
仕方ないので新ゴーレムはほどほどにしてアルタにはコークス炉の建設準備をしてもらう。
アルタ無しの私はできることが少ないのでスモールハウス作りに勤しむことにしよう。
明日のコークス炉の計画を練りながら……。
あ、この調子なら今日中には家は完成だ!
ソル99
「それなりに【石炭】が集まったな」
「はい、工場長。そろそろ工場建設ですか?」
「その通りまずは破砕機だ」
――目指すのはコークス炉の建設。
そのための最初の工程は【石炭】の破砕。
相変わらずやることは一緒ってことだ。
だが破砕して分離したところで、【石炭】はいろいろな化学物質が混じってるから、そのままでは使いづらい。
だから通常は扱いやすくするためにコークス炉に入れて
ちょうど木材を木炭にするのと一緒だ。
だから副産物も大体一緒。
木タールの石炭版【コールタール】が大量に手に入る。
だがコイツは木タールとは比較にならないほど危険だ。
つまり発がん性物質に分類されている。
だから注意しないといけない。
いつものように、まずは石炭を破砕機にかけて小石程度に砕く。
粉にする必要がないのは加工しやすくていい。
ある程度の大きさになったら一ヶ所に集めて仮置きしておく。
「工場長コレ濡れ濡れオブオブですです。燃やす?」
「燃やさない燃やさない。うーんそうだな、乾燥させたいからボイラーで熱風を供給して乾燥させよう」
――どうやら取り出した石炭は水分を有しているみたいだ。
まあ地層から取り出した新鮮な【石炭】なんだから当たり前か。
というわけで破砕工程の次に乾燥工程を入れて熱風を当てて乾燥させることにする。
「工場長、乾燥のために燃料を投入するのは無駄じゃありませんか?」
「最初はそうだけど、すぐに次の行程の排熱を利用できるようになるから問題ない」
――だから次の設備をすぐに作らねば。
/◆/
コークス炉は耐火レンガを並べて、炭化炉と燃焼炉を交互に配置する。
ちょうどサンドイッチを重ねた感じにある。
炭化炉は両隣の燃焼室で加熱され、石炭を乾留しコークスにかえていく。
燃焼炉は常に燃料を供給して炭化炉に乾留に必要な熱量を供給する。
燃料――本来は可燃性のガスがいいんだけど……いいのが無いから最初は木材を投入する。
ポンプが無いからそこはフイゴで酸素を供給して石炭と薪そして乾留時に出てくるガスを循環させて燃焼室に送る。
「乾留ガス……工場長! それは爆発オブね!」
「まあ、言ってしまえばその通りだ。だが爆発はさせない。常に燃焼させれるのだ」
――この燃焼で今度は燃焼室からは排ガスが出てくる。
この排ガスを循環させてもう一度燃焼室に送る。
つまりコークス炉から可燃性ガス、それを燃焼室で燃やして排ガスにし、循環させて燃焼室に送る。
すんごいバカげてるように見えるけど排ガスを循環させることで燃焼を遅らせて長くじ~~~くり加熱するのがコークス炉の重要なところ。
燃料の消費を減らしたいのさ。
このコークス炉の設計で一番の問題はガスの配分や流れ供給の理論がよくわからないことだ。
とにかく長炎化を計るためにできることを手探りで試行錯誤していかないといけない。
だが我々にはこの問題を解決する優れた方法がある――。
「――そう我らがアルタさんに稼働させながら最適な状態になるまで再構築をし続けてもらうのだ」
「ふぇ!? 私ですか――はい工場長お任せください」
――もっとも私が計算して指示しなければいけないから…………今夜は眠れないぜ。
ソル100
――うう、やっと完成した。完徹とか何か月ぶりだ?
そうだ。今日でこっちに来て100ソルだ。
すばらしい、記念日にコークス炉が完成したのはいいことだ。
よし……寝よう、いいや動かそう――動かしてから寝よう。そうしよう。
「アルタ君、始めてくれ……」
「任せてください工場長」
――まずは上からカサカサに乾燥した石炭をドバドバっと放り込む。
横の燃焼室ではボウボウっと燃料を燃やして熱で乾留する。
24時間ほど蒸焼きにしたら横から押し出し棒でコークスを押し出す。
――この壁動くぞ!
反対側の出口から押し出されたら、待機してあるトロッコに落ちるようになっている。
アツアツのコークスを乗せたら消化倉庫へ! レッツゴー!!
ゆっくり数日かけて冷やしたらコークスの完成だ。
この消化倉庫のコークスは発熱しているので排熱する。
この排熱は本来はボイラー動かしたりして発電に使うけど、いまは電気的な需要が無い。
よってこの熱を昨日から始めた石炭の乾燥に回す。
これで排熱と乾燥は完璧だ。ひゃっひゃー。
忘れてはいけないのがコールタール。
乾留で発生するガスは燃焼室に送るけど10%ほどのコールタールはガスから分離する――そういつもの分離だ。
そしてコークス炉の上部についてるパイプを通って貯蓄タンク通称タールタンクに溜める。
このタールをえーと……?……タール……た…………スヤァ……。
「ふふ、おやすみなさい。工場長。ゴーレム達そっと寝室に運びなさい」
「はーい」
工場長はゴーレム達に運ばれて自らが作ったスモールハウスで深い眠りにつく。
――――――――――――――――――――
製造工程
石炭 → コークス + コークスガス + コールタール
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