第2話 ペーハーって今は言わないんだ
東の山脈は未調査、未開拓の土地のほうがはるかに多く存在する。 しかも奥に進むにつれて道のりは険しくなり、最後には崖のような岩山や雪山を越えていかなければならない。 雪山からは常に氷が解けて川になり湖へと流れやがて海へ出る。 雪解けの関係からこの時期に数日だけ東方への道が開けるが、その山道を知る者はいない。
/◆◆◆/
――数日前に農地がやられた報告は受けたが、さすがに汚染源たる石油工場を放置することはできなかった。
だから汚染処理所の稼働を確認してから次は自分の目で農地と湿地帯の水を確認した。
「やっぱり石油系の油が農地に染み込んでいるか――あ~あ、まだ芽が出たばかりなのに……」
「主に枯れているのは湖の水を使った10ヘクタール分ですね」
「そっちは全滅か、水路経由も枯れはじめてるな」
――土についてるこれはカビだろうか?
そうなると理由は水のやりすぎだろうか。
そう言えばここ最近は天気が曇りが多い気がする。
日照と散水量の条件を入れてないとは! これだからノーキーン農法は信用できない!
だが給水管の列にあわせてきれいに発育に差があるのはおもしろい。
連作障害をきにせず作付した最初の1
およそ2~3割マシであとはダメそうだな――3ha分ということは3トンは大豆のようなものが手に入る。
肥料代わりに使った木炭カス程度ではこんなものか。
「……ノーキーン農法はやはりダメだったか」
「土壌汚染で全滅するのは想定外でしたからね」
「ううむ、まあ問題は理解した。それでは次にどう改善するか――イキアタリバッタリ式はここからが本領だ!」
――さあ計画を立て直そう。
~~~~~~~~~~
・確認できている問題
――農地汚染
――連作障害
――水量の低下
・改善策
――汚染土の除去
――化学肥料の開発
~~~~~~~~~~
――おーけ、またまた途方もない計画を立ててやったぜ。
汚水処理施設は完成したが、湖の汚染水は完全にシャットアウトする。
そしてやることは汚染土の除去、これで作付けができるように汚染されてない土を持ってくる。
重機とチェストがあることだしこの辺はスムーズに進むだろう。
化学肥料の開発は次の開発技術と重なる部分があるからだ。
ついでにやってしまおうということだ。
二回目の作付けの時にやればよかった。
それなのに最初の1haの成功体験が足かせとなり、水やりすればいいという判断になってしまった。
これは反省するべき点だな。
最後の河川の水量低下はどうしようもないな……。
まあいざとなったら湖の水を平らげて、何とか農業用水として活用すればいいか。
/◆/
「工場長、キャベツが変なような感じっす?」
「? キャベツもやられたんじゃなかったか?」
「わからないので持ってきました! これがキャベツですです」
「これは……変色してる?」
――色とりどりに変色しているキャベツの山。
石油汚染でやられた部分は特に赤くなっているのがわかる……赤、あか?
コイツはもしかして赤キャベツか?
「……赤キャベツ、キャベツ……ムラサキキャベツ……ってこれはpH測定に使えるじゃないか!」
「ぺーぺー?」
「ペーハーな、そしてわるいわるい昔のドイツ読みだな――
――pHってのは水溶液中の水素イオン濃度を測定したものだ。
赤キャベツは夏休みの自由研究の時にお世話になった都合のいい植物だ。
その最大の特徴は酸性やアルカリ性という水素濃度に違いによって色が変化するところにある。
……あれ? もしかして前の収穫の時にマズそうに感じたのは土壌のpHを反映してたのかも?
……いや素人が少ない情報で結論を出すのは間違っている。
もっと研究してから結論を出そう。
――それでも色が変わったということはひとつの推論が可能だ。
石油の複雑な化合物が水中の水素イオンと結合したあるいは減らしたのかして、その影響で水が強酸性になった可能性がある。
減って酸性……そうなるとここら一帯はアルカリ性?
山脈からたえずアルカリ分豊富なミネラル土が供給されるからか?
…………。
はぁ~~~~私は植物学者じゃないんだぞ! 異世界の植生なんてわかるわけない!
よし、植物の研究やってやろうじゃないか!
まずはこいつの活用法を考えよう。
まず粉々に砕いて、プレスして液体を抽出して、紙に浸みこませればリトマス試験紙のように使えるはずだ。
色による違いが現状分からないが、酸性なら赤く、アルカリ性なら青くなるっていうのがセオリーだろう。
違っても特に問題はない――ようは視える化できればいいのだ。
これで農地のpHがおおよそ把握できる。
そして前日まで頑張っていた汚染水処理施設のいいかげんな中和剤投入が試験紙で適量投入に変わるのだ。
こいつはラッキーだ!
よろしい――いつものイキアタリバッタリ式で農地計画を修正しよう。
まず汚染土を除去する。
次にpHの違いをだした肥料土――強、弱、中性の5パターン用意する。
それとは別に化学肥料の配合比率を変えて数百パターンを投入する。
日照条件に水やりそれから日影まで数十パターンの栽培農法を試す。
これにより針山に刺さる無数の育生条件から、あるのかどうかすらわからない最適解を見つけ出すってことだ。
ふふん、なんて力業で探すノーキーンらしい農法なんだ。
すばらしい! さっそく行動に移ろう。
/◆/
「それでは改善案である土壌改良――つまり化学肥料の製造と試験パターンを試すための農地の拡大をおこなう」
「拡大は残りの70ヘクタールほど伐採をすればいいのですね」
「そのとおりだ、そして近代化の名の下に化学肥料を製造する」
――窒素はアンモニアだからガンバってつくれるはず。
リンは探すしかないな。
あとは…………N・P・K……か、カ、カルシウム?
いやKだからカリウムだな。
まあどっかにあるだろう。
「ほかにも安全な農薬は欲しいけど今は農地拡大を優先していこう」
「わかりました。それでは伐採をしていきますね」
「こっちはゴーレム達と汚染土を除去していく。さあ仕事の時間だ!」
「へーい――ワクワク」
――石油は可燃性である。
しかし常温で気化する物質はここ数ソルで抜けたから引火の心配はほとんどない。
残念だったなゴーレムたち、今回は爆発はなしだ。
「ところでゴーレムは臭いで石油に気づかなかったのか?」
「ニオイってなーに?」「工場長が信じてる迷信だよ」「なーんだフェイク情報か」
「……そう言えば君ら嗅覚ないんだったな」
――そうなると臭いで判断するってのは難しいな。
まあ作業中は防塵マスク着用しているから私も鼻は利かないんだけど。
/◆◆◆/
農地の拡大と汚染土除去が始まったが――私がいないほうが作業が捗る。
……うん、やることが無くなった。
仕方ないから別のことを考えよう。
そう化学肥料製造計画だ。
リンをどうやって入手するかこの難問を解決しなければならない。
リンが史上初めて見つかったのは錬金術師が実験として尿を煮沸して、その残留物から見つけたといわれている。
想像するだけで臭いが、うぇー。
残念ながら私の生体活動では十分な量を賄うことはできない。
基本的に生物のフンが堆積した場所に大量にありそうなのは想像しやすい。
それほど大量の生物はこの辺だと北の森の巨大昆虫群か、
そういえば愛しの石油工場を襲った憎きニョロニョロは湖の端っこにいた。
ということは排泄物が湖の底に沈殿しているかもしれない!
湖の底を調査する価値はありそうだ。
……いやいやダメだな、リンは水溶性で流されやすいはず――期待しない方がいいな。
昔ながらの取り方で有名なのは海鳥のフンあるいはコウモリのフンが堆積した土壌だろう。
どちらもありそうにないな。
コウモリぐらいならあの洞窟に居そうなものだが、忌々しい山脈ワーム…………。
ん? ……まてよ!
山脈ワームの巣はどうだろう?
思い出したくなかったがワームの洞窟で滑ったのはフンかなにかでぬかるんでたからじゃないのか?
ワームの糞が堆積してできた地層――やる価値はありそうだ。
「手の空いているゴーレムは居るか! 鉱山周辺のワームの巣でリンが採れるかもしれない。そこの土を採ってきてくれ」
「わっかりましたー、ウンコとってくればいいんですね! ヒャッホーウンコだー!!」
――はしゃぎ過ぎだろ。
……まあいいや。
カリウムはそれらしいのはもう見つけているからいいとして。
あとは窒素、というかアンモニアの生成工場だな。
明日からそのための設備を作るか。
上手くいけば生産力と掘削力が上がって、ついでに鉱山汚染を減らせる。
そう、なかなかすばらしい方法を思いついてしまったのだよ。
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