第2話 石炭鉱山の開発
工場長がこの世界に来てから遺跡以外にそれらしい拠点はなかった。鉱山では焚火の近くで寝るかテントの中で寝るぐらいである。だがここにきてついに家を作ることを決意したのだった。
「とりあえず……スモールハウスでもつくるか?」
「やっと寝所を作る気になったのですね。その……工場長は衣食住すべて適当でいろいろ心配していました」
「ハハハ……いやいや、そこまでひどくはないぞ……うん、あれ?」
――衣食住だと?
着るものは破けたら補修してあるし、汚れが勝手に無くなってたりする。あ、これ知らぬ間に錬金術で直してるな。
食事は野菜モドキと川魚を煮たスープ。ごちそうはたまにゴーレムが持ってくる果物!
コイツが唯一の糖質!
住居はあまり遺跡に居ないからテント暮らしだな。
…………うーん、電気を手に入れても相変わらずの原始人だ!
「…………」
「工場長、お気づきかもしれませんが衣服の補修を錬金術でおこなっています。それから作業用のマスクもついでに汚れを分解しています」
「いつもありがとうございます!」
――うん、生活力を上げねばいかんね。
とにかくまずは家を作ろう。
ここは遺跡の外、安全ではないのだから。
仕様はインベントリ収納前提で基礎なしの構造でいいだろう。
焚き火やめるためにもストーブ作って……ん?
アルタはゴーレムの予備の部品作りを始めたようだ。
邪魔しない為にも手作業でやるか。
「日曜大工を始めるためにもハンマーとクギと木材を用意せねば――」
「はい、こちらにあります。怪我をしないよう気を付けてください」
「もう用意してあるだと?」
――大抵の生産はアルタが率先して行う。
けど男の子の自主的な活動には一切手を貸さない。
後ろで見守るだけだ。
それよりもハンマーにクギ、そして2×4の角材と事前に用意してるのは何なんですか。
アルえもんかな? キミはアルえもんなのかな?
「――事前に工場用の建築資材を用意してあるだけですよ。別に工場長のために用意したわけではありませんからね」
――そうですか。どうやら顔に疑問符が書いてあったようだ。
/◆◆◆◆◆/
その後、日が傾くまでスモールハウスづくりをおこなった。工場長は職人芸的なセンスは皆無であったが、よりシステマチックな生産活動は得意だ。ただし、道具があればではあるが。
「あうち!! く~これだからハンマーなんて非文明的な道具は嫌いだ。自動くぎ打ち機が欲しい」
「工場長、報告に来ました!」「したっ」「たーー」
「遅かったじゃないか……」
「あ、もう夜だ。ワーム炭坑は6ヶ所候補がありありたったー」
「森に石炭露頭もあったオブオブね」
「森がじゃまー掘削前に切り開き必要ですです――かな?」
――やはりゴーレムに定時報告の文言とマナーを教えるべきか。
「アルタ君、前回はホウレンソウがしっかりしていなかったから爆発を未然に防げなかった。今回はホウレンソウを徹底してくれ」
「わかりました。教育を重点的におこないます」
「よし明日は炭坑の開発だ。森の伐採もすすめておいてくれ」
「アイアイサー」
「……さて寒くなってきたしストーブに火を着けて寝るか」
――さすがにハンマーでストーブを作る才能は無かったのでアルタに錬成してもらった。
唯一の手作業部分は途中で手に入れた
一切装飾が無い長方形のストーブは赤色の揺らめくマイカの窓だけがレトロな雰囲気を出している。
それっぽい枠組みはできた。
あとは明日の炭鉱開発後だな。
ソル97
――では炭坑の自動化について考えよう。
ボーリング調査の結果、石炭層はいくつもの層が重なっていて、
小型で高出力掘削機がないので今は人力で掘り進めるしかない。
だが都合が良いことにワームの穴があるから工事はしやすい。
「今日はワームの巣の探査と掘削を始める」
――ワームの巣は直径で1mほどの穴が空いている。
過去のデジカメで見た感じや今までの観察した結果から、洞窟に引き寄せて狩りをするタイプのようだ。
ウツボだなウツボ。
ワームの巣の中でもひと際大きく奥まで進めそうな巣から開発を進めることにした。
だが私は過去の経験から洞窟内には絶対に入らないと決めている。
開発はゴーレム達に任せるとしよう。
「炭鉱での掘削は気をつけるように、特に上を見ない、ヘルメット外さない、これは絶対に守るように」
「なんでー?」コツン!
「上からノックだよ? ッガ――!!」
目の前のゴーレムが上を見上げたとき崩落した岩盤の一部が顔面にめり込んだ。そして頭部に付いていたゴーレムコアが工場長の足元まで転がってきた。
「このように石炭は案外脆いから、新人が炭鉱で上見て大惨事になるケースがあるんだよ」
「わーボクの頭つぶれたー」
「アルタ君、予備の頭だして」
――体は無事なので頭を取り換えてコアを入れて元通りと。
「では次からは上を見ないように見上げていいのは外に出て月を見上げる時だけに」
「はいはーい」
「工場長、危険ですので安全対策ができるまで洞窟内には入らないでくださいね」
――私は体験から学習する人間だ。絶対に洞窟には入らない。絶対だ。
だがゴーレムは体験しても学ばない。
むしろ面白いことがあったと認識する。
現にさっきからチラチラとこちらを向いてから天井を見上げようとしている。
だから見上げるなって! まったく。
あいつらの不死身のコアがちょっと気になって、実験で1トンプレスしたことがある――結果はビクともしなかった。
ある意味、頑丈すぎるこいつらに現場の常識というのは通用しない。
とはいえいくら常識外の存在でも計画を立てて命令をすればちゃんと動いてくれるのがいいところ。
ならばいつものように計画を立てよう。
炭鉱掘削で最も重要なのは崩壊させないことになる。
現に崩落で1体頭が潰れて、全ゴーレムが次は自分が体験できるんじゃないかとワクワクしている――心臓に悪いからやめてくれ。
そこで崩壊させないためにまずは地層から見ていく。
都合がいいことにワームの巣は地層に合わせて緩やかな傾斜を付けながら東側に伸びている。
地質ってのは必ず層状になっている――それが魅力的でもあるんだけど。
だから現場では断層の斜面が地層の斜面と同じ方向にある場合、つまり地層に沿って掘ると斜め上へ進むことを【流れ盤】と言う――名前の通り地滑りで流れるからたちが悪い。
逆に今回の様に掘り進めると斜め下へ向かう場合は【受け盤】という。
この【受け盤】だとちょうど崖の上部を支える形になるので崩壊を防いでくれるってわけだ。
ほかに斜面崩壊が起きないようにあまり深くまで掘り進めないほうがいいだろう。
これなら地下水対策もそこまで考えなくていい。
ある程度採掘が終わったら、セメントを流し込んで埋めてしまえ!
そして隣に縦横2mの坑道を掘削すれば崩壊を阻止しながら掘り出すことができる。
やりたいことはとっても簡単。
石炭層を面で削って、削り終わった層をセメントに置き換える。
人力ロングウォールマイニングを基本掘削計画として採用する。
デメリットは地層の変化で掘削効率が極端に悪くなるのと現状の装備では奥の掘削は不可能ってとこだな。
ま、あとはノリでなんとかなるだろ。
いつものことさ問題が起きたら改善する。
動かなければ何も生産出来ない。
「よーしレールを敷いて、トロッコを背に掘削開始だ。採掘した石炭も岩石も全部トロッコに乗せてしまえ。分離など後でやればいい」
「掘削、掘削!」
「月がー出た出た、煙たいよー、ちょっとゴメンおぶー♪」
「炭坑節? ……まあいい、アルタ君! 木の支柱を準備してくれ」
「わかりました。入り口から補強していきます」
――ふふん、計画を立てて実行するのは楽しくていい。
だけど懸念はある。最近手を広げすぎて全容を把握できなくなってる。
規模も小さいし鉱山3つならまだしもこれ以上になると……。
なにか手を考えたほうがいいな。
巣は数百メートル間隔で6カ所あり、すべて同時に開発する。丸い巣穴を正方形に形を整えて、角材の支柱を立てて崩壊の抑制を図る。トロッコレールは入り口から敷設していき掘削ゴーレムのすぐ横にトロッコが置かれている。ゴーレム達はトロッコに石炭を乗せていき、満杯になると外へと押し出していく。掘り出した石炭はインベントリへとしまっていく。
――よし、手順通りに掘削できているな。
明日にはコークス炉に着手できるだろう。
洞窟禁止令があることだし家づくりをさっさと終わらせるか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます