第4章 石炭の時代

第1話 炭鉱どこでしょう


 ソル89


 朝日を浴びながら遺跡から南東の資源地帯を目指す。


 探し求めているのは黒いダイヤ。


 長い時間地面の下で圧力と地熱で作られた植物の化石。



 ――が、その前に準備をせねばならない。計画は大事だ。


 石炭が確認できた場所は南東に53㎞ほど進んだ山脈と森の境目に位置する。


 しかし、直進するとを横切らないといけない。


 さすがに魔物が徘徊する森を突っ切る勇気はない。


 そこでまずは東に30kmの山脈ワーム地帯まで進んでから、南に40㎞ほど進んで目的地に到着する――全70㎞の行程だ。


 これなら山脈ワームを恐れる魔物たちに襲われる心配はない。


 われわれには【木酢液】があるからこれが一番安全だ。


 そうつまりあの液体をドバドバっとゴーレム達に塗りたくってやるのだ。



 道中は安全だがそれでも問題は多い。


 自慢ではないが私は健脚ではない。


 日に20㎞でバテてしまう。


 だから翌日は休息日だ! これは絶対に曲げられない!!


 山沿いを歩くとなると更に遅くなる。


 毎日交互に歩きと休息しながら7ソル目に目的地に到着する予定だ。



 次にそこで何をするのか?


 石炭堀をするのだからツルハシが必要になる。掘削だ!


 残念ながらマグマダイバー掘削はできない。


 石炭層が燃えたら……考えただけでシャレにならない。


 ほかにもコークス炉の建設をするからレンガが大量に必要になる。


 あとは今まで生産した金属を全部もっていこう。



 移動に7ソルということは往復14ソル――あまりにも時間がかかるので休息日にトロッコレールをつくるつもりだ。


 ――生産活動をする休息とはいったい?


 まあいいや、楽しんだもの勝ちだ!


 山脈沿いに等高線に沿ってレールを敷いて人力シーソートロッコで移動できるようにすれば楽しそうだな。


 つまり東に30㎞坂のヘリまでレールを敷いて、次にほんの少し山登りをして森林限界線を越える。


 そしたら山脈沿いに南に40㎞レールを敷く。


 途中の坂は歩く!


「よしガバガバな計画が立ったし即実行や。アルタ君、材料集めに亜鉛と錫の鉱物も手に入れといて」


「わかりました。それでは材料を集めてきますね。工場長、それから食糧計画も考えてくださいね」


「忘れてた。まあ食糧は何とかするよ」


 ――食糧と言っても現状は野菜モドキと果物、川魚ぐらいだ。


 ……とりあえず川で魚でも釣るか。


 遺跡の都市には天然の川と人工の水路の2つがある。


 拠点から北に3㎞ほどに幅100mの河が横切っていて都市を南北で分断している。


 ちょっとした罠を設置して川魚を釣ろう。


 ほんの30ソル分釣れればいいだろう。



「工場長! 川真っ赤!!」

「ヒャッハー!」


「うーわ、なんじゃこりゃ!? 公害か? まさか公害か!? アルタを呼んできてくれ!」


「了解オブ」



 /◆/



 ――錬金術による成分分析の結果、なんとプランクトンの異常増殖が原因だった。


 そのせいで川魚がいなくなってしまった……これは季節性の現象なのだろうか?


 それに心なしか川の水位が下がっている気がする。


 心象的には苦労してまで真っ赤な川の魚を捕りたいとは思わないので、貯水池の魚を持っていくことにした――あそこの川は上流で分岐してるから赤くなっていないはず。


 しょうがないあとは現地調達だ。



 ソル90



 水路を上流に進んでため池に到着し、魚を捕ってからさらに東へと進んだ。


 鉄鉱山へはため池のほど近くにあるアーチ橋を渡って行けるが、南東の石炭地帯へは東のワーム地帯まで進んでから南下する。


 山脈近くまで進むと勾配が急になり川は長い年月が土地を削り、崖を形成している。


 そのせいで鉄鉱山や銅鉱山側から南下することは困難である。




 ――そういえば貯水池より東側を歩いて調査するのは初めてだな。


 いつもは鉄鉱山に川を渡って進むからしょうがない。


 ……ふぅ、もう暗くなるから今日はここで野宿だ。


 明日は休息日、三流山師として周辺に鉱床はあるのか調査だ。



 ソル91



 ――川沿いの森を伐採しながらの調査。


 岩塩のかけらとかマイカを拾うことができた。


 あとは特に何もない。


 トロッコレールは敷くことができたから順調ともいえる。


 うぇーい、ギコギコとシーソーを動かしながら来た道を戻ったり、進んだりたーのしー。


 ……ふぅ、休日は満喫したし明日は中途半端な登山の後、等高線沿いに少しだけ南下だ。



 ソル93



 昨日の山登りは実につかれた。


 「――だがすばらしい鉱床が見つかった!」


 「岩塩鉱床ですね」


 ――そう、拾えるのだから上流側に鉱床はありそうだと思っていたが――ほんとにあった。


 ストックが無くなったらいつでも採りに行ける。こいつはいいや!


 だが今日はもう疲れた。


 テントから出ないぞ絶対にな!


 ああ、それにしても木酢液が臭い。


 シャワー浴びたい。浴びたら襲われるけど。



 ソル94



 ――これは……この鉱物は!


「雲母の鉱床じゃないか!」


「たしかモーターの材料ですね」


「ああ、その通りだよアルタ君。さっそく採掘しよう。」


「わかりました工場長、ではゴーレムを数体ここでの掘削にあたらせます」


 ――いいね。鉱物の発見はうれしくなる。


 明日の休息日はもう少し周辺を調査するのはいいかもしれない。



 ソル95



 ――ひぇっ!!?


 「この赤い宝石は……もしや」


「錬金術で分解してみたら液状の金属になりました」


「ならこれは辰砂しんしゃだな――そして液体金属は【水銀】だ」


 ――花崗岩の山が見つかったから新たな採石所になるかと砕いてみたら、出てきたのは辰砂。


 もっとも結晶状態ならそこまで危険じゃないから少しだけ採取して、あとはトロッコレールを敷いて今日は終わりだ。



 ソル96



 ――今日中には石炭が見つかった場所に着く。


 山脈ワームの御威光のおかげで森の魔物は近づいてこないようだ。


 一応アルタとゴーレム4体が護衛として常時監視をしている。


 装備は木の棒の先端に鉄を付けた【鉄の槍】である。


 ついに鉄器時代に突入だ!



 戦力としては4体で剣道歴1年の高校生に負けるぐらいの強さだ。


 うん弱い。とっても弱い。不死身以外には取り柄が無いくらい弱い。


 ちなみに私はこの4体に負けるぐらい弱い。


 常識的に考えて4対1で勝てるわけないだろう。



 弓とクロスボウなんかも試してみたがノーコンだった。私もな!


 われわれの最大の武器は歩く武器庫であるアルタによるインベントリ攻撃のみだ。


 インベントリの出口を敵対者の頭上に作ってタライを落とす。


 怯まなかったら土砂と水をトン単位で落とす。


 燃え盛る薪や木炭をトン単位で落とす。


 硫酸銅をトン単位で落とす。


 溶けた銑鉄を……。



 ――とにかく、ある程度なら対処は可能だ。


 ゴーレム4体はただの安心感でしかない。


「――などと考えていたら着いたな。足がいたた……」


「工場長、ワームは逃げてもう居ないオブ。ワームの巣にいく?」


「うーん……一応手順通りに木酢液を投入してからにしよう」


 ――ではゴーレム人員も増えたことだし、ここは2正面作戦といこう。


 戦争では愚策かもしれないが、金融業界に素晴らしい格言がある。


『すべての卵を一つのカゴに入れるな』


 資源開発のコツは分散同時開発ってのはあながち間違いではないのだ。



「目標は2つ、露天掘りの掘削地点の発見と開発、もうひとつはワームの巣を基点とした炭坑堀りの候補地探しだ。一日に一度は報告するように」


「了解オブ! 全員ピッケルを持て~2手に分かれて進め~」

「おいっちに、おいっちに、おいっちに」



 ――ここはワーム地帯から数キロは離れている。相変わらず東の山脈は行く手を阻んでいてワーム地帯より先は行ける気がしない。


 木酢液の原液を持ったゴーレム達が山での液撒きが終わるまでは近づかないほういいだろう。


 山と反対側にはいつもの森が続いている。


 北の銅鉱山と違って森林限界がワーム地帯に近いな。


 石灰岩はこの辺にはないようだ。


 石炭層が露出していれば掘削しやすいがどうだろう?


 ワーム地帯に近いからこの森には魔物はいないようだが気軽に散策したいとは思わない。



 北を見るとここまで来るときに作ったトロッコレールが山の地形に合わせてウネウネと伸びている。


 ワーム地帯数キロ手前のラインだ。


 ワームは標高が低いところには巣をつくらない傾向のようなのでこのトロッコ線が安全ラインの目安になっている。


 つまり周囲の安全が確認できるまでこの等高線上以外には動けないのだ。



 さて疲れたことだし昼寝でもしようかな。


「アルタ君、テントを出してくれ」


「工場長? 工場だけでなく――たまにはご自身の家作りも考えてくださいね」


「…………アルタ君その通りだ。なんで今まで住居をつくってなかったんだ! 早速拠点をつくろう」


 ――インベントリというすばらしいものがあるんだから収納できる小さな家、スモールハウスを建てよう。


 ふふん、日曜大工に勤しむとしよう。

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