第4話 さよならハーバー・ボッシュ
液体酸素はあらゆる場面で活躍した。 鉱山の爆破と森林の伐採に液体酸素爆薬は重宝した。 木材需要が低い閉じた社会では木材の質に意味がなく、そのすべてを爆薬で粉々にする方がはるかに効率がいいからだ。 溶鉱炉ではフイゴ方式は終わりを迎え、酸素タンクから酸素を供給し続けている。 反応効率の向上は生産量と品質の向上につながった。
ソル170
――各地からグッドニュースがきている。
鉄鉱山の産出量が上がり1トン/solから8トン/solになった。
そのせいで木炭の消費量も上がっている。
もっとも総木材量からすると微増でしかない。
コークス高炉を作るほどではないってことだ。
銅の生産量は跳ね上がっている。
南東の新しい銅鉱山の銅含有量はなんと5%にもなる。
今では鉄鉱山の10倍のゴーレムと重機を投入して掘削に明け暮れている。
黄銅鉱から粗銅ができるまでに重油や軽油そして液体酸素をガスバーナーの様に噴射して化学反応を促している。
おかげでついに粗銅の産出量は0.1トン/solから2トン/solと20倍に増加した。
とてもすばらしい増加量だ。
だが足りないもっと大量に銅が無いといけない。
石炭の生産量も上がっているはず。
はずってのはこの辺の採掘量と消費量の把握があやしくなってくる。
配備できるゴーレムの数、つまりゴーレム的資源の都合により増減するからだ。
銅鉱山が拡大すれば増えるし、石油工場が復旧すれば減る。
あくまで余剰人員で回している状態だ。
紙の生産量は変わっていない。
1.4トン/solもの生産量は十分すぎてこれ以上に増産する理由がない。
石油は――残念ながらハーバーとボッシュに会いたいという私のわがままのせいで後回しになっている。
潤滑油は72ℓ/solでソル150から爆発したソル158まで生産していた。
つまり計算上は576ℓの潤滑油がある。
正確にはワセリンやその他の油も使っているからそれ以上に潤滑油はある。
そして液体空気だ。
もはやそこらじゅうで使用している影響から生産したすべての資源は液体空気の大規模化に費やされている。
私がフェノール樹脂の配合に悪戦苦闘している間に乱立状態になった。
最初の設備で液体窒素が手に入ったから、それ以降は多段式冷凍法は取りやめて液体窒素の熱交換で冷やして液体空気を手に入れている。
おおよその生産量は窒素が6トン/solで酸素が4トン/solだと思われる。
なにせでき次第すぐにチェストに投げ入れて現場で爆発させているのだから仕方がない。
ちなみに大部分の窒素は製品にならずにプラントの冷却に回っていると思われる。
さて液体酸素は人気者だから生産できたら現場に送って即爆発させている。
液体窒素はわたしの家の冷却にほんの少し使っているぐらいだ。
重装甲過ぎて蒸し蒸しするんだよあの家は!
おーけー窒素がかわいそうだからアンモニア合成に使ってあげよう。
/◆◆◆/
「ハーバーボッシュ法の原理を説明する。窒素と水素を混ぜる、高圧高熱下で鉄と反応させる、おわり!」
「はい! 高圧力ってどのくらい?」
「……20MPs……ぐらぃ」
「はい! 高温ってどのくらい?」
「……500℃……ぐらぃ」
「…………」「…………」「…………」
――というわけで本格的な耐熱高圧タンクが必要になる。
だがご安心、そのための冶金技術だ!
たぶん大丈夫、うん……ダイジョウブ。
頭が痛くなる気圧変換の計算をすると――。
ちょいと20の6乗
メートルだと分かりずらいので
この時の重力加速度はわかんなかったから約束値10m/s2を仮採用した。
……時計ないんだからしょうがない。
「あの、できる気がしないのですが……」
「そう言うなアルタ君 、なーにいつものようになんとかなるさ」
「それもそうですね!」
――反応炉は高圧に耐えられる分厚い鋼鉄を使うことにした。
というより合金は 研究が始まったばかりでこれ以外に選択肢はない。
今回は実証試験ということで インベントリーを使って 高圧 試験を行う
「集めた窒素と水素をタンクに満たしてくれ」
「わかりました」
「ワクワク」「ドキドキ」「バクハツ」
「コラそこのゴーレム達! 耐爆トーチカから出ないように!」
インベントリを応用し反応管に窒素と水素が混ざっていく。 反応管の圧力が高まり温度も上昇していく。 500℃の熱を出すために加熱炉から熱を取り出し熱交換で間接的に装置を温めていく。 徐々に500℃に達し触媒の鉄がアンモニアを生成しはじめる。 しかし反応管内部で管材である炭素鋼の炭素と水素が先に反応しメタンガスを生成していく。 20MPsに達したとき脆くなった反応管の一部が破裂した。
そして金属が破裂する独特な音が辺り一面に響きわたる。
「残念、破裂してしまったか」
「今期もっとも残念な爆発でした」
「液体酸素を下回る残念さは記録に残るでしょー」
「今後の爆発に期待オブね」
――そう何度も爆発してたまるか!
いやそれよりも問題点を洗いだそう。
そしたら改善だ。
/◆/
「工場長、タンクの鋼材が脆く変質しています」
「これは――反応管が水素と反応しているのかもしれないな」
――問題は反応管の材質のようだ。
そう言えばある種の設備はメッキ加工をして化学反応による工場劣化を阻止している。
同じことをすればいいってことだ。
ということで内側の材質をより純粋な鉄いわゆる軟鉄でコーティングして問題の解決を図った。
明日まで動かして結果が楽しみだ。
ソル171
「昼夜稼働してアンモニア80gか……」
「予想よりはるかに少ないですね。どうしましょう?」
「むむむ……うーん」
――さすがに少なすぎるな。
アルタの後光が一つ増えるぐらいなら問題ないんだが、クメン法とは違って高圧高熱しかも一昼夜がんばって80g……。
そう考えるともっと巨大な工場で最適条件を探したほうがいい。
いつもの自動化だ。
自動化最大の問題は高温高圧用のシール材がないことだ。
さすがに超高圧高温環境下となるとアスベスト系か金属系と種類は限られる。
研究項目がひとつ追加した。
それ以外にも工場を円滑に動かすためのゴム材料は欲しい。
ゴムを手に入れるにはゴムの木を発見するか、石油から合成ゴムを製造するかしかない。
それなら合成ゴムだな。
ナフサを分解して【エチレン】、【プロピレン】、【ブタジエン】とか溶媒に突っ込んで【硫酸】かければできあがり。
だがしかしのかし、欲しい性質のゴムを見つけ出すのは大変だ。
飛行船までに欲しいのは耐薬品が良くて、熱に強くて、高圧力にも長時間耐えられるたくましい子。
どうやって見つける?
――もちろん試験して!
必要な材料は?
――大量のナフサ、大量の溶媒、大量の試験装置、そして大量の紙!。
試験装置?
――たしかスズ製の容器にいれて加熱する。
おっと大量のスズの掘削が必要だな!
まてよ加熱するなら温度管理が重要だ。
――温度計の大量生産の時間だー!
温度管理をするなら電気を忘れてはいけない。
――いえーいモーターを作らなきゃ大量にな!
「ゴム開発にはスズ生産炉とモーター工場と加工工場と組立工場が必要になるな。なんだ簡単じゃないか」
「工場長、落ち着きましょう。今は化学肥料が先決です。シールとゴムはその合間に少しずつ進めていきましょう」
「…………うーんそうだな、長期的なゴム開発は必要だけど別の手を考えるか」
「それでは工場長、他の設備を見なければいけませんので失礼します」
「いってらっしゃ~い」
――ふむ工場建設が中断すると分かると掛け持ちしている他の作業に移る身の軽さ、見習うとしよう。
さよならハーバー、さよならボッシュ、いつか絶対作ってやるから待っていろ!!
では別の手を考えよう。
そこで白羽の矢をぶっ刺したのがワンランク下の石灰窒素法。
これは石灰と炭素を電気炉2000℃で溶融して【カーバイド】をつくり、これに窒素を投入して1000℃で加熱する。
できあがった【石灰窒素】はそのまま化学肥料として使えるはず。
水蒸気を注いで加水分解すればアンモニアを合成する事もできる。
膨大な電力が必要だからちょっと水力発電ダムが必要なのがネックだな。
なーに山削ってダム作って巨大なタービンと発電機で農業革命を起こすだけさ!
――諦めよう!
つぎに白羽の矢を打ち込んだツーランク下の方法は高電圧放電法――またの名を電弧法。
名前の通り電気流すだけ。
科学者達は「太古の地球でどのようにしてアンモニアのような窒素固定が起きたのか?」という難問を考察して一つの定説が誕生した。
カミナリの熱エネルギーで空気中の酸素と窒素が反応したんじゃね。
その説を採用して容器のなかでアーク放電を行たら見事! 【酸化窒素】ができたとさ。ウェーイ!
窒素ガスと酸素ガスを容器に入れてバチバチっと電気火花で3000℃にすると【酸化窒素】ができるらしい。
あとは【酸化窒素】と酸素を600℃で加熱して【二酸化窒素】に変えて、いつものように水を加えて【硝酸】にする。
できた【硝酸】を【石灰石】と反応させて【硝酸カルシウム】という化学肥料を合成する。
この方法の問題点は石灰窒素法の実に4倍の電力が必要なこと。
――うーん、諦めよう!
白羽の矢を投げ捨てた後は人類最後の砦である微生物放置法。
収穫の終わった畑を寝かして、地中の微生物がせっせと窒素を固定するのを待つだけという簡単なお仕事。
その放置時間は実に約1年。
なんてことだ! ドンドン退化していってる。
スリーランクどころか最底辺のやり方じゃないか!
……これではエンジニアの敗北だ。
「まったくいいアイデアが思い浮かばないな……」
――は~一体どうしろってんだよ。
よし、寝よう。
明日いい案が思い付くさ。
お休み。
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