第5話 カルシウム化合物に感謝を
山脈から流れるミネラルがこの地を豊かにしている。 ゴーレム達は手付かずのワームの巣穴から土を掘り出していく。 岩塩を砕いていく。 石灰を砕いていく。 豊かな土壌を作るために液体酸素爆薬で砕いていく。
ソル172
「思い付いた! と言うより需要が工場だけの我が陣営にダムなんて要らない!」
――そう、今作れる蒸気発電機で十分なはずだ。
忘れてはいけないのが我々に経済的な損得勘定は当てはまらないってことだ。
ということで電弧法を採用する。
三相交流発電機でアーク放電ができれば効率がいい気がする。
いいね、美しいsin波をつくってやる。
そして腹案はもうひとつある。
石灰窒素法も同時におこなう。
我らが歩くマザーマシンにして喋る3Dプリンターそして成長し続けるラスボス、アルタ様に電気炉の工程を飛ばして【カーバイド】を錬成してもらえばいい。
1日5分1回あたり約2トンの簡単なお仕事。
残りの工程は窒素とカーバイドを1000℃で焼くだけ――だからゴーレムでもできるだろう。
そして重要なことに気が付いた。
この【カーバイド】またの名を炭化カルシウムという原料は水をたらすとアセチレンガスを発生する。
石灰、生石灰、消石灰に続くカルシウム姉妹の四女ってことにしよう。
燃やした時の熱量が高くてアセチレン溶接器という――つまり本来の溶接機の燃料になるってことだ。
たしかLPガスよりもはるかに高い熱量だったはず。
そうなるとなんとしても【カーバイド】を製造できるようになりたい。
開発が落ち着いたら電気炉を作って見せる!
そのためにも目の前の工場建設を終わらせてしまおう。
/◆/
それでは電弧法による空中窒素固定工場の設計だ。
そのためには発電機が必要だ。
アーク放電は炭素棒2つを接触させて電気を通してから少しづつ離していけば勝手に発生する。
だからこそ磁気工学の研究が始まったばかりの時代、近世から近代にかけて出し物として放電が使われた。
ようするに技術は特に必要としない――発生させるだけならね。
問題は事業化するのなら強力な発電機と安定的な動力が必要になる。
ちょうど100馬力の蒸気エンジンが大量に手に入ったから動力は何とかなる。
おーけー、やることは簡単だ。
発電機を作る――それだけだ。
「――ということで発電機の仕様は三相交流発電機だ」
「はい、なんで交流?」
「たしかに疑問になるところだ。アーク放電は直流のほうが安定する――」
――なにせ連続して電流を流す直流とSIN波の波がプラスとマイナスで行ったり来たりするのではどっちが安定するかなんて直感で分かる。
これはイメージが付きやすい。
ではなぜ交流にあえてするのか?
交流その中でも三相交流ってのは3つの相がそれぞれ電流の波を発生させている。
慣例的にU相、V相、W相と呼んでいる。
家庭用の電源はそのうちの一つを使ってるイメージで大体あっている。
だから単相交流100V電源なんて呼ばれる。
ではこの眠くなる話から何がわかるかっていうと――。
「直流だとアーク放電器1個を動かせる。三相交流だと3倍の3個動かせるってことだ」
「つまり赤く塗ればいいっすね」
「キミらは何でそういうネタだけは知っているのかね」
――もちろんこれはイメージの話。
現実ってやつはこれより複雑で思い通りにいかない。
そこら中に絶縁していない電線が張り巡らせるなんて悪夢のような光景が繰り出される。
けど失敗しても問題ない。
直流電流発電機を大量に設置してアーク放電器を大量に設置すればいいだけだ。
石灰窒素法という予備の案はすでに成功している。
この工場が盛大に吹っ飛んでもうまく反応しなくても大勢に影響はないのだ。
つまり成功は約束されているのだよ。ふふん。
ソル175
――三相発電機製造でもっとも苦労したのはなんと【ワニス】だった。
まったく予想外のそして懐かしい奴からアプローチがかかってくるとは……。
今までのワニスはその辺の天然樹脂を溶剤で溶かして塗りたくっていた。
あまりにも適当すぎたので交流のそれも高電圧に耐えられなかった。
いや~煙がモクモク出てきたときはほんとにビックリ!
ダッシュでトーチカに飛び込んだね。
煙が出るだけでほんとによかった。
そういうことがあったので新たな樹脂を探さなければいけなくなった。
……おや、ここに【フェノール樹脂】といういかにも樹脂っぽい材料があるぞ。
ということで新たに【フェノール樹脂】に溶剤を投げ入れて煮込んで【ワニス】を作った。
あとはいつものように銅線を漬けてちょっとだけ質のいい【エナメル線】にした。
そこからは………………みんな大好きマキマキの時間だ!
いえーい銅線巻き巻き~。
……もうやりたくない……しんど過ぎる。はぁ~。
なんとか三相交流ができたからアーク放電器とつないで放電させて二酸化窒素を精製して、水に溶かして硝酸が作れた。
けど硝酸をそのままぶっかける趣味は無いので石灰石と混ぜて【硝酸カルシウム】というカルシウム姉妹の五女をつくってやった。
たぶん今後も増え続けるんだろうなカルシウム姉妹は。
/◆/
ふ~窒素肥料は目処がたったからKのカリウムを探すとしよう。
といっても場所はもう解ってる。
「これよりカリウムの採取をおこなう」
「はーい、どこを掘削しますか?」
「掘削の必要はない。岩塩採掘所から持ってくるだけだ」
「え!!? 工場長が掘削しないおぶ!」
「キミらは私を何だと思ってるんだよ」
――紙をつくるために定期的に塩化ナトリウムを砕いているのだが、一部に砕けない岩塩があると報告を受けていた。
他でもない塩化カリウム――カリ岩塩は粉末化しにくい性質がある。
見た目は似てるんだけどねー。
む? ……肥料として必要なのはカリウムなのかカリ岩塩なのかどっちだろう?
うーんわからん。わからんからどっちも試してしまえ。
/◆◆◆/
「うわ、苦い。これは岩塩じゃない絶対にカリ岩塩だ」
――人体実験と貴重なカリウムを摂取したことだし。
あと必要なのは……
「工場長~! ウンコ掘削してきました~!」
「おお、来たな!」
チェストボックスから山脈ワームの土を取り出す。
臭いは――うーん無臭だ。
さてさて、この物質にPであるリンが含まれているか?
どうやって調べよう?
まずは錬金術で分解、次に錬成でひとまとめにする。
元素でまとまったあとにどうするか?
化学の基本は悩んだらまず燃やす。
「ということでアルタ君、このリンが含まれてそうな土を錬成してもらっていい」
「はい、お任せください」
炎色反応でだいたい判るだろう。
ということで着火!
ボン!
「!!?――そういえばリンって発火しやすいんだった。これだから私の灰色の脳みそはネットにつながらないと役に立たない!」
「爆発に不満オブ」
「悪かったな」
――ええリンです。紛うことなきリンです、毒性あるから二度と燃やさないし、匂いも嗅がないぞ。
/◆◆◆/
【カーバイト】と【窒素】を反応させて作った【石灰窒素】
岩塩を掘削して作った【カリ岩塩】
そして山脈ワームの【リン】
何だかんだで三大肥料が集まった!
まだ汚染土の除去は終わってない。
「最初はそこまで農業に力をいれてなかったのに今じゃリソースの半分が農業だ」
「仕方ありません。湖のヌシに石油汚染と立て続けに問題が起きて、収穫は当初予定の2割程度になりました――何もなければの話ですが……」
「そのとおり、だから今後も収穫量が低いことを前提に作付けしないといけない」
――周りが魔物だらけだと収穫ゼロの可能性がつねにある。
だからこれだけ手を打ってもうまくいかない可能性のほうが高い。
それでも生きていく分の食糧は何とかなるだろう。
リソースの半分を農業に費やしたってことはそれ以外は全然進んでいないってことだ。
生産量が上がったのに足踏みし続けるとは私らしくない。
さあ計画を立て直そう。
いったいどこから計画が崩れた?
石油精製所が爆発したからだ!
ということは潤滑油作って、スチーム重機作って、液体爆弾で掘削量上げる。
――ってところまできたんだった。
ふぅ~忘れるところだった。
では次の計画は合成ゴムの開発だ。
なんてことだ……。
想定より自爆回数が少ない! とてもいい兆候じゃないか!!
あとはゴム作って、電子制御して、内燃機関作れば組み立てだけだ。
鉄と銅はどんどんできてるし溶接で建設時間の短縮が図れている。
だから明日ついに石油設備が再稼働する予定だ。
それと同時に合成ゴム研究の開始だ。
――――――――――――――――――――
カルシウム姉妹
→
→
生石灰 + コークス →
二酸化窒素 + 水 → 硝酸
硝酸 + 石灰石 →
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