第6話 雨季来たる
液体空気プラントでは昼夜問わず生産するために常にプラント全体が冷えている。 この時期に急激な湿度の上昇がおこり季節の変化が顕著になる。 その影響でプラント内では空気中の水分が氷つき、つららが形成し始めている。
ソル176
――石油施設は坑井の封印を解き、貯蔵タンクに溜め始めている。
このまま順調にいけばすぐに大量の資源で溢れるのは目に見えている。
だから合成ゴムの研究を始めて資源を消費しなければいけなくなった。
問題はどこに建設するべきか悩んでいることだ。
遺跡内では機械部品工場に電子部品工場そして冶金研究施設に液体空気プラント、製紙工場が一定間隔で置かれている。
この約半年の規模の拡大スピードから飛行船の建造時にはさらに数倍の施設で遺跡南部は埋め尽くされてしまう――。
「――という場所とり合戦が起きてるから、遺跡北部を開発しようと思う」
「わかりました。それではあの桟橋では不安なので基礎工事とゴーレムによる防壁建設を同時に進めますね」
「うん、それでおねがい。あとは合成ゴムの試験装置だな」
――試験容器はスズ合金を使うことにした。
なんといっても耐腐食性が高く今ならば生産性があるからだ。
ゴムの温度条件を見極めるにはほどほどの熱源が必要になる。
間違っても木炭やコークスは使えない!
今までの開発は知性を眠らせてとにかくガンガン燃やして解決してきた。
低くても350℃で大体1000℃ぐらいっていうのはもはやジョークである。
ゴムでそんな温度だしたら燃えるか劣化する。
大体150~200℃ぐらいだろう。
そして合成ゴムの研究には時間がかかる。
なにせ反応に数か月かかることもあるのだからしょうがない。
最適解を知っていればものの1時間ほどで出来るだろうがさすがにこのあたりの条件は知らない。
やることは簡単だ。
試験条件を変えて数万パターンひたすら試験すればいいだけだ。
そして見事、いい感じの結果が見つかれば――ひゅーひゅー大量生産の設備を作って1ソルで数トン生産できる。
では計画をたてよう。
やりたいことは簡単でスズ製反応器の周りに加熱用コイルを設置して温度計を取りつける。
溶媒にとりあえず【アセトン】、そしてモノマーに【エチレン】と【ブタン】を選び反応器にいれる。
あとは【硫黄】を入れたり入れなかったり、この材料の比率は1%刻みで配合していく。
解らないから仕方がない。
撹拌しながら電気を流して熱を加える。
熱が伝わって針が150℃を指したら通電してリレーが作動する。
リレーが動くと電気が切れるようにする――これで温度が下がり針が離れる。
そうするとリレーがオフになり、通電するからまた加熱するってシステムだ。
これならゴーレムが温度調整しなくて済むから大量に試験ができる。
互いの試験装置が干渉しないように数m離せば1haで500台以上設置できる。
そうなると1haだと500パターンぐらいしか試せない。
だから拡大できるように100haほど確保してそこを反応器で埋め尽くすゴリ押しの試験法だ。
なんて壮大な試験計画か!
想像してみよう――恐竜のタマゴぐらいの大きさの反応器が所狭しと並んでいる光景を……。
……これなんて言うエイリアンの巣かな?
ま、まあそこまで拡大する前に理想のゴム特性を見つけ出せばいいんだよ。
「工場長! 農地の汚染土取り除きました!」
「おお、できたか! ならば先にそっちに行くか」
――ゴム試験は長期的に農場の復旧は今すぐに、優先順位は重要だ。
それに橋建設のための基礎はできたようだからちょうどいい。
防壁はゴーレムだけでもなんとかなるだろう。
/◆◆◆/
農地の石油汚染はきれいに無くなって、少し地面が下がっている。
ここ数ソルで化学肥料はかなり集まった。
ところが窒素、カリウム、リンの比率がわからないので1
つまり農業の試験所となる。
では肥料の比率について考えてみよう。
私は植物学者じゃないからノウハウはまったく無い。
だけど生物に必要なものは知っている。
――それは鉱物だ!
私が辛うじて知っている知識によるとバクテリアが植物の成長には必要らしい。
それは火星だろうと異世界だろうと変わりはないはずだ。
推論になるがこれらの肥料を地中の微生物が摂取して有機化合物を精製していく。
植物はこの有機化合物を摂取するのだろう。
このミネラルは光合成などの生体化学反応の触媒となり成長を促す。
水と二酸化炭素を吸収して化学反応でバラバラに分解して、酸素と炭水化物に変える。
草食動物はそんな植物を食べて水と炭化水素と微量な鉱物を摂取する――肉食獣も同じ。
そして人間も水と炭水化物と鉱物を摂取する。
ヒトの血はなぜ赤いのか?
――鉄が酸化して赤くなっているからだ。
ヒトの骨は何でできている?
――カルシウムという鉱物でできている。
ヒトの主要な成分はなにか?
――水素、炭素、窒素、酸素そして硫黄だ。
「工場長が掘削大好きなのは本能からスキスキだからオブね」
「いや、そんなことは……まあ、そうかもしれんな」
――人類は鉱物が好きだ。
人生を鉱物の採掘に費やしたり、希少鉱物の交換で経済を回したりとにかく鉱物が人類の中心に存在する。
人類を含んだすべての生物は本能的に鉱物を求めているんだろう。
おーけー、私は
だから肥料以外にも微量な鉱物を混ぜようと思う。
混ぜるのは鉄、硫黄、マグネシウム、カルシウム、マンガン、亜鉛、銅、塩素。他にもあった気がするがまあ問題ないだろう。
今回作付け可能な土地は20
除去後の10
1
もちろん主力のニンジン、キャベツ、大豆の3種類試すから1品目の試験条件は結構少ない。
大別すると土壌が酸性・アルカリ性の強弱と中性の5パターンだろう。
試験紙で調べた結果――。
酸性は塩素、リン、硫黄の比率を高めたグループ。
アルカリ性はナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムの比率を高めたグループ。
中性はバランスよく混ぜたグループ。
――3大肥料はどのグループにも混ぜる。
基本はこの枠組みで2000パターン分を試して最適解を見つけよう。
最適でなくても枯れないパターンがあればヨシ!
pHは基本的に異キャベツの汁から作ったpH測定リトマスぽい紙でしらべる。
実は本当のpH濃度は不明だ。
色が変わるのを目安にしているから中性なのかも不明。
おお、また失敗フラグを積み立てるとは情けない!
ノウハウがないんだから仕方がない――やれることをやるだけだ。
/◆/
「よろしい、それでは……ん? これは珍しい」
「……雨ですね」
「うーん……せっかくの肥料が流されてしまうから雨が止むまで中止だな」
工場長達がいる場所は季節変動の少ない亜熱帯地帯であり、山脈からは豊富な水とミネラルが流れてくる森林地帯でもある。
気候は常に安定して乾燥した環境が整っている。 そう感じさせないのは森が生い茂り、植物にとって快適な湿度を保っていたからである。 しかし気候変動がないわけではない。
季節の変わり目に風の向きが変わり、湿度の上昇が環境の変化を告げる。 降水量の少ないあるいは無い時期を乾季といい半年は続く。その後、残りの半年ほど気圧の変動から常に大雨が降り注ぐ時期がある。 この地方を雨で覆い、減り続ける水量を増やし、遺跡の劣化を促す、すべての生物が活動を鈍らせ、植物が活性化する、山脈を吹雪で覆い、豊富なミネラルをふもとに供給し続ける恵みの季節。
それはつまり……
――雨季の到来。
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