第2話 ノーキーン農法
ソル114
湖の主は近づかなければ問題ないという結論になる。 そこで久しぶりに農地へとトロッコレールを敷きながら向かうことにした。
「もしかしたら遺跡周辺に魔物が少ない理由は湖の主かもしれませんね」
「そうなのか?」
「おそらくですがアノ湖の主が周辺の生態に影響を与えているのだと思われます」
――ああ、なるほど。
遺跡に仕掛けがあるのではと推論を立てて拠点としたが、「強力な捕食者がいる」というほうがたしかに説得力あるな。
ま、あんなの倒せないから放置だ。放置!
ん? 数体のゴーレムが何かの作業をしているな。
「こんなところに作業ゴーレムか?」
「あ、工場長! 一緒にボーリングします?」
「ああ、ボーリング調査隊か」
――ボーリング調査は比較的安全な東の山脈付近から時計回りに進めている。
南東の石炭地帯から南の森も終わって、今は西の農地周辺まできたらしい。
地層サンプルの傾向から山脈付近は資源が豊富のようだ。
興味深い地層や鉱物が報告に上がってくる。
なんと黄銅鉱の豊富な鉱床も見つかった!
逆に南の森からは石炭鉱床の報告以外はない。
代わりにハチの巣からハチミツをとってきてくれた。
さすがゴーレムちゃんは優秀だ!
「では引き続き西側の調査を頼んだ。それから沼地は気を付けるのと湖周辺は調査しなくていいからな」
「はーい」
/◆◆◆◆/
「お、久しぶりに農地に来たが野菜が育ってるな」
「工場長だ~、ー緒に耕します?」
「とても魅力的だがあとにするよ」
――ほんとは紙を作りたいんだが、目の前の食糧も大事だ。
だからまずは計画を立てよう。
そう食糧計画だ。
さて現状の食糧生産体制はどうなっているか?
気候について、この地域に来てから110ソルで分かったことは季節変動が少ないってこと――亜熱帯気候だからだろうか?
生産した食糧はあのみすぼらしいゴボウのようなニンジンは赤々としたニンジンになりました。
外敵のいない環境で水と栄養により前より美味しそうになっている。
く~~これで煮込んだ雑草のスープともお別れだ。
キャベツみたいなのは萎れているのか、とにかくマズそうな見た目だ。
……残念。
病気にやられたのか?
虫――は【木酢液】で近寄ってこないから違うな。
そもそも収穫時期を知らないから逃しただけかもしれない。
農業スキルというかノウハウがないんだよ。ノウハウが!
大豆ぽいマメ科の植物は緑から茶色に変わって次の種蒔きができるぐらいに実っている。
いえーい! 我らが真打大豆様はご無事のようだ。
ソイビーンズ料理だけでもカロリーは何とか賄えるはず。
炭水化物は果物、ハチミツ以外ないのがほんとにヤバい。
必要なカロリーを思い出そう。
――1ソルに1500キロカロリーを消費するなら、500ソルで75万キロカロリーだ。
約2年分は用意しといたほうがいいってことになる。
収穫した大豆では目標カロリーにまだ達していないはずだからもう一度、今度は大規模に作付けして一気に食糧を確保する。
それでは懸念はなんだ?。
――私に農業のノウハウはない。
輪作して連作障害を回避するらしいぐらいしか知らない――実務がまったくわからん!
輪作? ノーフォーク? 名前しか知らん。
「作物の種類を教えてくれ」
「マメ、ニンジン、キャベツ――の3種です」
「素人にも輪作は無理とわかるな」
――ところで連作障害は重要な問題なのだろうか?
そもそも食糧を必要としているのは誰か?
――私だけだ。
ならば一度に最大規模の作付けをして生産品を
「アルタ君、マメはどのくらいとれた?」
「おおよそ1トンほどです。さらに日々拡大していたので毎ソル10kgの生産力です」
「なるほどそいつはいいね。すばらしい!」
――安全圏内で開発という名の伐採ができる。
水路の関係から残り開発できる農地面積は100
水路を増設すればそれ以上。
そして1haあたり1トン収穫できたから、マメに絞って育てれば――100トンは期待できる。
100トンということはカロリーに換算すると……カロリー?
「マメのカロリーとは……アルタさんわかる?」
「すみません工場長。知識は共有しているので……」
「そうだよな~」
――カロリーの計算…………わっかんねー。
なんだよカロリーって?
クソ、やれカロリー多すぎるとか、ダイエットのためにもカロリーは控えめにしましょうとか。
なんと定義を知らずに使ってきたことか!
ボーっとしすぎちまった!!
ふ~わからないものはしかたがない。
こうなったら基準を勝手に作ってしまおう。
なーに現代人といっても所詮は原始人がちょっと賢くなっただけ。
基準となる単位は理解しやすいモノだけを採用するという伝統がある――電気以外は!
だから考えよう、わかりやすく測定しやすい定義を……うーん。
あれか! マメをすり潰して乾燥させて粉にして燃やした時の発熱量カロリーを代入すればいいのか?
そうなると測定として好まれるのは「燃やした時に水1
よろしいならばやることは単純だ。
「アルタ君、魔法瓶のような真空断熱の箱を作ってくれ、それから――」
――中には水を1㎏が入るようにすること。
温度がすぐに伝わるように撹拌用の棒で回して水温を均一にできること。
温度計も入れないとな。
サンプルの入った小部屋も作ってしまおう。
だから箱の形状は「回」の形になるだろう。
箱の中に箱だな。
もちろん熱伝導率がいい銅で作ってやる。
小部屋にはエナメル銅線を2本つないでサンプルに電流が流れて発火をする構造にする。
「やることは簡単だ。豆を小部屋に入れて燃やす。燃えたら撹拌して温度を均一にして、水が何℃上昇したかを測定する」
「わかりました。10回ぐらい測定すればよろしいでしょうか」
「ああ、これで上昇温度からマメのカロリーを算出してやる」
その後、漏電や棒の形状ミス、断熱性能不足その他大小さまざまな問題を解決しながら計測をし続けた。
ソル115
「工場長、測定した結果マメ100gあたり400kcalとなります。あの、そろそろ寝たほうがよろしいのでは?」
「……ふふふふ、なんかそれっぽい数値になった。これで次に進める……これ終ったら寝るんだ……」
――では算数の時間だ。
1トンならば400万キロカロリー!
100トンならば――なんと4億キロカロリーとなる! ウェーイ!
単位がおかしいな。
400Gcal――ギガカロリー! ギガ! ギガ! ヒャッハー!
そうなると実は目標数値は達成済みだ。農業終わり!
農業編 完
だが待てよ?
大豆をすり潰せば【大豆油】が手に入る。
今の懸念はエンジンを動かす液体燃料が無いことだ。
つまりこのまま農作を続ければ400ギガカロリーが手に入る。
【大豆油】否、バイオディーゼルの【燃料】という飛行船の動力にしてしまった方がいいのではないだろうか?
いいね。懸念事項が一つなくなるのはいいことだ。
将来の燃料事情は未知だが、選択肢は多いほうがいい。
このまま100トン生産計画を推し進めよう。
そうなるとギガカロリー確保できるのなら輪作の試行錯誤などする必要はない。
どうしても必要なら他の土地を伐採して最初の土地は数年間放置しておけばいい。
そのうち回復するだろう。
「アルタ、作付け可能面積を教えてくれ」
「現状は未作付け含めて約10
「なるほど――あと倍の20
――最初の種まきの使用量を計算したら5kg/10rだった――50㎏/1haだ。
1トン分を再投資するには20
つまりゴーレム達はそこら中からマメをかき集めてくれたってことだ。
そのせいで最近はマメを発見できないそうな――しかたないな。
今後は大事に育てないといけない。
この知的な生産方式をまとめると、100
どうしても連作が必要なら――あとで別の土地を耕して収穫する土地略奪農業になる。
なんて文明人らしい合理的な農法だろうか――よし、なにか名前を付けよう!
「そうこの先進的な農法をこれより【ノーキーン農法】と名付ける!」
「では【イキアタリバッタリ式ノーキーン農法】でよろしいですね」
「ーーいいね! 試行錯誤感があってとっても好ましいよ」
――まさに我々にあった農法だ。すばらしい。
さっそく明日からこの農法でギガカロリーを確保してやる。
ギガ! ギガ! ギガ……。
……もう眠いから寝る。
「それではインベントリからスモールハウスを出しますね」
――何か重要なことを忘れてる気がするが、眠い明日から考え……。
……スヤァ……。
ソル116
――アルタと新ゴーレムには木の伐採を、伐採後の土地を私とゴーレム第2班で耕すことにした。
「さっそく開拓をするぞ。全員クワを持ったな!」
「ほーい」
「せーの――ザッ……」グキッ!
工場長は耕すため最初の一振を放ち、全身に異変を感じ取った。
それはまさしく!
「こ、腰が……ぐはぁ」
「工場長に緊急ーー!」
「救急ゴーレム! 救急ゴーレム!」
ぎっくり腰である。
「まさか……こんなところで……この私が……ぐぅ」
ソル117
――ああ痛い、それでも私がいなくても物事は進む。
簡単な指示と報告を聞くだけにとどめて今は安静にしよう。
遺跡に移動する案が出たが、ゴーレムのタンカはあまり乗りたくないので、水路のすぐ近くにスモールハウスを置いてそこで安静にしている。
今後の計画を考えながら今日は寝ることにした。
/◆/
そんな簡単に寝れるわけがない。
ということで脳内計画を推し進めよう。
遺跡の西側は実はほとんど調査していない。
なにせ資源ってのはだいたい鉱山――つまり山にあるだろうという前提で東側を重点的に調査していたからだ。
西側は水路完備の農地、20㎞先には広大な湖とその手前に沼地だか湿地帯だか、さらに奥の森はゴリラ――ってかあれは巨人だよな、ゴリラの巨人の縄張り。
そして今回の黒イソギンチャクもとい
わーお、資源があるのか分からない以前に開発したくない。
湖の主の監視のために北の丘の上に監視塔があり、異変が起きたら【1111】の信号をリレーしながらここまで届けてくれる。
ここからならぎりぎり見えそうだから屋根に上がれるようにハシゴを作ってもらった。
秘密基地っぽく家の中からハシゴを上り屋上に出れる設計だ。
アルタは安全上は不要だと呆れていたが、そんなことはない絶対に必要だ。
腰が治ったら上ってやる。
おっと、考えがそれてしまった。計画だ。
ノーキーン農法は基本的に一度に大量の食糧と燃料を確保して、あとは土地を放棄することが前提の農法だ。
だから効率だけを考慮して水路に沿って耕している。
約10㎞ほど水路に沿って耕せば100haだ。
だがここで少し厄介な問題が発生している。
どの川の水量も全体的に減少してきている。
こんなことなら川上の貯水池を復活させておけばよかった。
まあ、今さらしょうがない。
まだ間に合うからこれから作ってしまおう。
それとは別の代案として10㎞先にある沼地の水を水路側に流してしまう計画を思いついた。
目の前に豊富な水があるのに何で上流から流してるのか疑問でしょうがなかった――この疑問はすぐに解決した。
なんでもアルタが生前美少女金術師として昼夜問わず石人形錬成していた時代は湖も沼もなかったそうな。
代わりに物流としての水路があった――そしてたまに氾濫していたらしい。
遺跡には微高低差があり、南部から農地あたりは少しだけ上にある――実は最近まで気づいてなかった。
川の氾濫で農作物がダメにならないようにちょっとでも上の方に農地を作ったのだろう。
せっかく目の前の沼地に水が豊富にあるんだから使わない手はない。
唯一の問題は沼地の水はくみ上げなければならないことだ。
うちのゴーレムちゃんはひ弱だから毎日水くみと100haほどに水撒きをさせるのは酷だ。
だから自動化しよう――いつものようにな。
………………。
痛いから無理やり寝て、痛くておきてを繰り返してたら……また眠くなってきた……。
明日だ。明日から本気出す。
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