第5話 潤滑油が工場を回す
湖には多様な生態系が存在していた。 しかし大量発生したプランクトンが水中の酸素を消費しつくして、酸欠によりほぼすべての生物が死滅した。 死滅した残骸は沈殿し、湖全体を汚染していった。
ソル151
――ついに石油から潤滑油を作ることに成功した! ハッハー!!
生産した潤滑油は100
「トロッコさいこー!」
「トロッコも前よりスムーズに動くようになりましたね」
「ギコギコ鳴るのはそれはそれで味があったけどな~~」
――前までは植物油やタールをだましだまし使ったのでシーソートロッコも変な音を立てながら動いていた。
今はスム~ズ、こいつはいいや!
この調子で工場のビフォーアフターを済ませていこう。
まずは鉄鉱山からだ。
/◆/
ここは相変わらず鉄の焼ける匂いが漂っている。
「サビサビだ~」「さびっさびだね」
「ああ、サビだな。あちゃ~こっちは摩耗している」
「錬金術で修復して潤滑油をさしますね」
「ああ、そうしてくれ」
――これで多少は良くなるだろう。
さてと、潤滑油は粘性があっても液体だ――受け皿が無ければ垂れ流しになる。
だから潤滑油が循環するオイルの回路が必要になる。
大部分のメイン歯車や軸受けは金属の箱に包まれて何とかなる。
ちょうど車の機械部分は一般人には見えないようになっているのと同じ感じだ。
だけどどうしても潤滑油を流せない箇所ってのは出てくる。
若手技術者が親方に「機械に油さしとけ」って言われる所だ。
本来ならプラ四駆でおなじみのグリースを塗りたくって対処する。
グリースはまだない――今の手元材料でどうやって作ろう?
と考えてめんどくさくなった結果、ワセリンという精製時のあまりものに白羽の矢が立った。
このワセリンをグリースと潤滑油代わりに塗ってやる。
……いつかまともなのを作らないとまた爆発に巻き込まれそうだ。
あとは潤滑油の保管所と供給方法を手順化してゴーレムに運用させないといけないな。
いいね。どんどん進めていこう。
/◆◆◆◆/
「蛇紋岩の採掘現場で違う鉱石が採れた?」
「はい、これオブ」
「ちょっと待って――防塵マスクよし、どれどれ――おお! このミドリ色のザクロぽいのは【クロム】だな。こいつはステンレス鋼の材料になるな。あとで研究に使おう」
「まだまだ採れるオブよ」
――ふむ、銅鉱山の潤滑油供給は大体終わったから、今日はクロムの採取でもいいかもしれないな。
【クロム】を含めて山脈には珍しい鉱物が結構手に入る。
個人が使う分には大量であるが、大量生産という観点からだと埋蔵量1トンとか含有率1%以下という風に現代社会では赤字確定な量しか手に入らない。
今の所うまく回せているのはここが閉じた社会でかつ経済という厄介なものが存在しないからだ。
逆に言うと成長性を含めてギリギリってのが現状だ。
ではゴーレムの特性を生かして採算性度外視で今から開発すべきは何か?
ちなみに今一番足りない鉱物は【銅】である。
おーけー。
南の石炭地帯よりさらに南に豊富な銅鉱脈が見つかった。
ちょっくら炭鉱によってから鉱山開発をしに行こう。
明日は炭坑だ。
ソル152
――ということで久しぶりの炭坑にやってきました。いえ~い!
炭坑ゴーレム達はあいかわらず炭坑節を歌い、掘削をつづけている。
コークスは順調に生産しているがまだ高炉の建設には着手していない。
理由は鉄鉱石と石炭の産出量が低すぎてまだまだ木炭炉のほうが効率がいいからだ。
ではコークスは何に使っているのか?
コークスは工場の熱源そして皮肉にも炭化炉の燃料として使われている。
石炭を掘って木炭を作ってるということだ。
「工場長、炭鉱の整備はおわりました」
「おお、アルタ君は仕事が早いね。お次はさらに南下して銅鉱山の開発といこう」
「……………………」
「……? どうかしたのかアルタ君」
「……あの申し上げにくいんですが、危険なので拠点に帰ってもらえますか」
「………………はうぁ!!?」
――不死身の現場作業チームを追放された私、実は最弱だった件……。
……いかんいかん、言われてみれば当たり前だ。
危険な現場に出るより安全な後方勤務のほうが性に合っている。
そう私は知的な労働こそ性に合っているのだ!
ということで工場と現場全体への潤滑油供給は済んだのだから、次の
計画を練るとしよう。
ソル154
――南部で銅鉱山があるのはわかっていた。
だから必要な設備などはかなり前から錬成しておいた。
つまりトロッコレールさえ敷ければアルタの仕事は終わりである。
別に心配してないし寂しいわけじゃないし。どうせ明日には帰ってくるし。
ごほん……いかんいかん、今日は作業机にある計算式と図面がお相手だ。
さてと今足りないのはいつもの生産力、そしてこれを改善するには馬力を上げるしかない。
残念ながら水車は時代遅れになっている。
チェストとインベントリで永久機関ぽい効率の良さが売りだが馬力が少なすぎる。
水浸しになるし固定しなければいけないってのもデメリットだ。
歴史的に見ても産業革命以前は河川に所狭しと水車が居並んでいたらしい。
惑星規模の水の流れをシステムの一部とみなせば疑似的に永久機関のようなものだからだ。
ところがより馬力のあるエンジンが開発されると水車は博物館域になった。
つまり我々も歴史の必然性に則り蒸気機関を開発しなければいけなくなった。
――そういえば蒸気機関の馬力はどのくらいだろう?
馬力って厳密な測定をしないで感覚的に使ってたからな~。
「馬力の数値……馬どこだ? いない! ゴリラでいいか? ゴリ力でいいのか? 他には……イノシシか! 猪力もありかな?」
――チョ力とかバ力よりクールじゃね?
「工場長、より定量的に100kgを1秒間に1m持ち上げる力を基準にすればよろしいのでは?」
「マジメか! ……やあ、お帰りアルタ君。予定より早かったな」
「はい、鉱山までの道のりがそこまで険しくなかったのと、前回と違い事前に資材を溜めてから向かいましたので早く済みました」
「そうかそいつはいいニュースだ。しかしキミはもう少しユーモアを身に付けた方がいいよ。ユーモアを」
「ユーモア!? ユーモア……ん~ん~」
――悩んじゃったよ。
なぜこの母から、あの
おっと蒸気機関だ。集中集中。
私の経験と知識からおおよその馬力を出すと水車の馬力は5~10馬力。
蒸気機関なら100~10000馬力は出せるだろう。
蒸気エンジンの最大馬力ってのはSL機関車をイメージして1000馬力程度と思われるが、実際はそんなもんじゃない。
19世紀には巨大工場の動力源として1万馬力も出していた。
――いいね! ワクワクしてきた!
つまり地面に設置して大型化すればどこまでも馬力を上げられるってわけだ。
あとは欲しい性能と手元の物資と相談しながら現実的な蒸気機関を設計すればいい。
アルタも戻ってきたことだし、明日からは蒸気機関による産業革命だ!
昔、この地域一帯に君臨した群体生物がいた。 この群体生物は多数の生物の集合体であり、その数は数万とも数十万ともいわれている。
それぞれの分体が役割を担い統率者であるブレーンの命令を忠実に実行する。 日々新しい分体が生まれ環境の変化に合わせて生まれてくる個体の性質が変わっていく進化し続ける群体である。
世代交代と進化を繰り返しながら周辺の凶悪な生物を捕食し尽くしやがて湖に近づく生物はいなくなった。 困窮した群体生物は数を減らし、その後世代交代と進化により湖の生物と共存するようになっていった。
プランクトンの増大と死滅により生態系が崩れ再び困窮した群体生物は水面へと現れた。
数百年ぶりに出現したその姿はまるで黒いイソギンチャクのようである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます