第4話 ジーク=クメン!


 山脈から流れる水は川となり湖へと流れる。 その際に鉱山付近を流れてから遺跡を横断する。 だから遺跡の北側には桟橋を渡ることになっている。

 火力掘削、水車動力、比重選鉱は大量の水を消費する。 鉱山の尾鉱や選鉱工程の汚染水はどれほど注意しても発生し、やがて川に流れて汚染を広げていく。

 山脈ワームの巣から豊富なミネラルが絶えず流れるこの地域ではミネラルを大量に摂取し急成長するプランクトンが最も多い。 鉱山開発という人為的なミネラルの増加は微生物を急激に増殖させ河川と湖全体を赤く染め上げた。



 ソル146



「やっとクメン法に着手することができる」


「ほんとは昨日にはできたオブよ」

「自業自得ですですよ」


「不死には理解できんだろう、この気持ち」


 ――だがそこは反省しよう。



 今日の計画はクメン法により【アセトン】とついでに【フェノール】の入手。


 懐かしの高校化学の時間だ。


 材料はそろっているからどんどん作っていこう。


 クメン法の材料は【ベンゼン】と【プロピレン】そして触媒に【塩化アルミニウム】と【硫酸】だ。



 ……ん!?


【塩化アルミニウム】をどうやって作るんだ?

 ――塩酸とアルミを混ぜればできる。


 塩酸ってどうやって作るんだ?

 ――水素と塩素を燃やして塩化水素ガスを作り水に吸収させればいい。


 塩素と水素……。

 ――おっとそういえば紙の製造時にナトリウムの副産物を生産している。


 いえーい、とりあえず生産続けといてよかった!


 アルミは……。

 ――錬金術でどうにでもなる!


 おーけー触媒はもう持ってる。



 クメン法が人気者なのは反応にあまり労力が必要とされないからだ。


 やることは簡単で【ベンゼン】と【プロピレン】そして反応触媒に【塩化アルミニウム】これを反応器に入れる。


 ぱんぱかぱーん【クメン】の出来上がり。


 さて【クメン】そのものにはたいして用はないからさっさと酸化させる。


 酸素を吹き込んでしまえ!


 ゆっくりと酸化反応させてクメンなんたーらこうたーらができるけど、受験生ではないから正式名をわすれてしまった。


 たぶん酸化でオキシド、過剰でペルそれから……ヒドラ?


 クメンオキシドペルヒドラ! ……なんか違うな。


 ちなみに心のなかでいつも酸化クメンと呼んでるのは秘密だ!


 何でもっとわかりやすい名称にしないのか不思議でしょうがない。


 濃硫酸のように親しみやすい名称を考えたっていいだろうに。


 英語だとコンスントゥレイティドゥ・サルヒュリク・アシッドだったかな?


 やはり濃硫酸のほうがいい。


 こういった一般名称が無いから若者達は化学を避けるんだよ。


【クメンヒドロペルオキシド】とか覚えてもらって魅力的な業界だと理解させる気が無いだろ!


 お! 今のはあってそうだ!


 だからこの異世界の人々には素晴らしい化学名を授けて受験生と化学界の悲劇を回避させてあげようと思う。


「ジーク=クメン! これがコイツの名前だ。別にいいよね?」


「ん~、いろいろツッコミどころがありますが、工場長が楽しければ構いません」


「ありがとうアルタ君、キミだけだよ私を理解してくれるのは」


 ――いいね~やっぱ名称を好きに決められるという特権は行使しなければいけない。



 ということで【ジーク=クメン!】に今度は硫酸を投入してちょっと80℃ぐらいに加熱すると、ついについに【フェノール】と【アセトン】が手に入る。


 ――【フェノール】はプラスチックの材料。


 ――【アセトン】は潤滑油の溶剤。


 ヒャッハー! 熱をあんまり使わないからとても安全な設備ができる。


「工場長~爆発は~?」


「だーかーら、爆発はしない。させない。ダメ絶対!」


「工場長、アセトンは毒性と可燃性、硫酸は火傷をおこしますのであまり油断しないでください」


 「それもそうだな。今回はなんとしても爆発を未然に阻止する」


 ――そういえば【ジーク=クメン!】も可燃性で爆発しやすい。


 それだけではなく腐食性も凄まじく、誤って吸引すると肺がヤられると教わったな。


 なんてこった! 【ジーク=クメン!】 はヤベーやつだった!


 よし、安全対策は十二分に留意しておこう。


 さあこれから楽しいニョキニョキタイムだ!!



 ソル147



 ――ふぅ、何とかフェノールプラントができた。


 そして順調に反応している。


 ふふふ、やったぜ!


 さて計測の結果、フェノール1トン対してアセトン0.6トンを生産する計算だ。


 いえーい! 600ℓのアセトンが手に入るってことだ!


 まあ計算上の話で油田の産出力を上げないとこの10分の1以下しか作れない。


「長かった……とても長かった。【潤滑油】が欲しかっただけなのに」


「お疲れ様です。あと少しですね」


「ああ、【重質基油】に【アセトン】と【ベンゼン】そしてついでに【トルエン】を加えて【ろう】を分離するぞ」


 ――この【ろう】分はワックスとして工業自動化に必要になるので全部回収だ。


 あとは時間があるときに油田の拡張と爆発したときのために予備の設備をインベントリに保管しておこう。


 何事も備えあれば憂いなしっていうからな。



 ソル150



 ――【アセトン】の生産が始まってからかなり時間がたった。


 3ソルぐらいか? 開発が進めば進むほど分離して少量になっていくから、とにかく生産量の拡大を続けた。


 その結果、まだ少量だが【基油】ができた。


 そしてワックスぽいのも。



 少々思いだそう。


 石油の産出量は拡大して、10基の坑井から1590ℓ/solつまり11ℓ/minである。


 そして、蒸留により重油の割合は20%、さらに減圧蒸留で分離するから――全体の10%が【潤滑油】になる。


 つまり0.1リットル


 実際には常に変化する石油の質と、電子制御していない小型で低効率な設備により50mmℓミリリットル/min程度だ。


 日当たりに戻すと72ℓ/solの潤滑油が手に入る。


 いいね。毎ソル70リットル以上も手に入るんだ。


 こいつを少ないって言ったらバチが当たる!


 よし、あとは時間が解決してくれる。



 …………。



 ずっと走り抜けてきた。


 けどまだ道半ばだ。


 それにしても当初の計画が大幅に変わってしまった。


 ……いや想定通りなのかもしれない。


 だから今一度、計画を練り直そう。


 初期の計画はどうだったのか?


 懐かしい何も知らなかった時の脱出計画だ。



 生存計画

 ――大量の食糧確保________△:70ソル後のお楽しみ。

 ――避難用の拠点確保_______〇:拠点は順調にできた。核シェルターもある。


 脱出計画

 ――頑丈な乗り物_________×:設計図すらできてない。

 ――大量の燃料__________〇:石油からいくらでもつくれる。

 ――周辺情報___________△:いまだにほとんど不明。


 製造計画

 ――建造拠点(避難と兼用)_____〇:遺跡の整備はできた。

 ――大量の資源__________△:資源はまだまだ掘削中。

 ――大量の資源を採掘する道具___△:いまだにツルハシを使ってる。

 ――大量の資源を加工する道具___△:まだ効率は悪い。

 ――大量の道具を作るための装置__×:今ならできる。



 ――今思うと壮大におバカな計画…………だけどここまできたんだ。


 けど全然足りない。


 やっぱりおバカだったから具体的に必要なのが全く分かっていなかった。


 ずっと開発を続けて足りないものが見えてきたから計画を追加しよう。



~~~~~~~~~~~~~~~


 追加開発計画

 ――マザーマシンの開発

 ――蒸気機関の開発

 ――合成ゴムの開発

 ――電子制御の開発

 ――内燃機関の開発


~~~~~~~~~~~~~~~



 ふむ、なるほど――エアメガネをクイッとな。


 ちょっと不可能への挑戦をするだけだ。


 ようするにあと5回ほど自爆に耐えて生き延びればいいんだな。


 オーケー楽勝じゃん。



 ありえないぐらい計算をしなきゃいけないからどこかのタイミングで計算機を作るしかないな。


 おおぅ……頭が痛くなってきたから今日はこのぐらいにしておこう。


 続きは明日だ――お休み。


 ――――――――――――――――――――


製造工程


ベンゼン + プロピレン → クメン → クメンヒドロペルオキシド


クメンヒドロペルオキシド + 硫酸 → アセトン + フェノール


重質基油・脱硫 + アセトン → 潤滑油(基油) + ろう

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