第4話 自動小銃


 この地で生き残れるのは適者だけである。 北のバグズは膨大に増殖することで過酷な環境に適用した魔物である。 増えたバグズは遺跡北部に巣をつくりさらに増加していく。

 雨季の勝者は自然境界線に沿って勢力を増強し次の乾季に備える。 この奇妙な小康状態が時間的な猶予を与え、この地に適応した新たな勢力を産み落とす。



 ソル225



 ――新しい火薬は順調にできている。


 だが問題も多かった――試験として鉱山の爆破に使用したら湿気で使い物にならなかったのだ。


 雨季の湿度は火薬には致命的ってことだ。


 そこで火薬工場の内部を改善するために【液体窒素】を利用した。


 いつもの熱交換で工場内部を冷却して湿度を下げてやったのだ。


 これにより湿気を除去して、さらに油で浸した紙の筒でダイナマイトぽいモノを作り湿気を防いで鉱山で爆破した。


 ゴーレム曰く、「まったく爆発力が足りないオブ」と言ってたがそもそも銃弾用だからいいんだ。


 さて、弾ができたら次は本体だ。


 スチームエンジンの加工機械群を解体して銃の製造ラインへと組み替えた。


 エンジンは当初計画より多く100台以上稼働し、さらに部品ストックも大量に確保してある。


 本当は大型エンジンを開発して効率のいい運用がしたかったけど、リソースが足らないから諦めた。


 作った銃は自動小銃のようなもの、ノーコンのゴーレムでも数撃てば当たるだろうという発想で採用した。


 そしてついに試作品の実験が始まった。


「それでは試作アサルトライフル品番AR-1の性能テストを始める」


 ――自動小銃の大まかな構造と仕組みは知っている。


 だが設計図も見たことなければ触ったこともない。


 正直に言って不安しかない。


 だから試作を1丁つくりゴーレムに試し打ちしてもらう。


「解せぬ、なぜ私が作ったものを私が触れないんだ」


「工場長は前科が多すぎますから仕方がありません」


 ――暴発の恐れあり、と言われて設計と指示だけで触らせてもらえなかった。


 私はこの地域で一番のエンジニアなのに!


 ……まあいいか、実は私も信用していないからな。


「では試験射撃を開始する」


「ハッ! 射撃! 発泡! ――!」


 ――暴発した!?



 /◆/



 うーん、どうやら火薬量が多すぎたようだ。


 では最適な火薬量とはどのようにして導き出せばいいのだろうか?


 もちろん計算して出せばいい。


 火薬学というのは存在は知っている。


 主に建築や土木鉱山で安全で制御された爆発について、あるいは芸術的な爆発を体系的に学べる高尚な学問だ。


 とても魅力的な学問ではあるが兵器の火薬量については別問題だ。


 たぶん軍事工学という学問になら答えがあるだろう。


 残念ながら習得する機会はなかった。


 そうなるといつものように自分で考えなければいけない。


 オーケーお手製火薬の熱量をまず知るべきだろう。


「アルタ君、マメカロリー測定器を使いたい」


「……? ……ああ! 大豆のカロリー測定に使った撹拌式熱量計ですね」


「ああ、あれで熱量を計れば、おのずと理想的な火薬量が導き出せるはずだ」


 ――できなかったら、1g単位で量を調整するという脳筋スタイルで解決すればいい。


 熱量がわかれば火薬工場の各製造工程の取り扱い火薬量も決められる。


 ……あれ? こういうのって最初に決めるんじゃないかな?


 おーけー素人工場長のツライところだ。


 ふふん、だが日々つねに学ぶことによって、私は爆発フラグを回避していくのだ!



 ソル230



 ――よっしゃ! 少し時間がかかったがいい感じに調整ができた。


 何度も測定しての配合比率を調整して立派な製品にしてやった!


「では試験射撃を開始する」


「ハッ! 射撃! 発泡!」


 ――お、今度はうまくいった!


「よし、次は連射してみて」


「ハッ! 連射! 発泡!」


 ――タタタタンと発砲音が響き渡るがそのうち動かなくなったのか反応しなくなる。


 あれ!?


 どうした……?


「工場長! 不発です!」


「私が見てきますので、そこを動かないでください」


「……はい」


 ――今度の原因は薬莢が銃に張り付き、次弾が装填されなかったそうな。


 熱膨張だろうか?


 うーん――真直ぐだから張り付くとするなら対策として薬莢にテーパーを付ければ張り付きにくくなるだろう。


 こう――円錐台みたいな感じかな?



 ソル235



 薬莢に少しテーパーつまり先細りするような勾配をつける発想は悪くないはずだ。


 映画とかで見る銃弾もそんな気がするしね。


 ところがこのアイデアを実行した結果、あらゆる個所の変更が必要になった。


 具体的にはテーパーに合わせて弾倉の形状を変える事になり――そうバナナのような形状になった。


 うーん、どこの社会主義国家の銃ですかね?


「AR-10に番号が変わった。今日こそ成功させるぞ!」


「ハッ! 連射! 発泡!」


 ――おお! 今度は連射がうまくいった!


 よし、いい感じだ。


「そのまま弾倉交換して連射を続けろ」


「ハッ! 射撃を継続!」



 工場長は自動小銃の設計をしたことが無い。 だからつい安全率を高めに設定して板厚を分厚く設計してしまった。 備え付けの機関砲を片手で持ち上げる映画の印象からそこに違和感を覚えなかったのだ。 厚い鉄板により放熱性が低く、連続射撃により銃身内部が高温になっていく。 そして弾倉まで高温になったことで暴発を起こした。



「――!!? うわっ! 退避退避!」


 ――ふ~、トリガー引いてないのに暴発するのはビックリ。


 だがどんどん改善してすべての問題を解決すればいいだけのことだ。



 ソル245



 ――暴発事件の後も砂の混入で目詰まりと暴発、雨の中で不発、ガス漏れによる動作不良などがおこり、その都度改善していった。


 量産性を考慮して公差の緩い設計にしたら案外うまくいったのは面白い経験だ。


 カラシ味ある形状に近づいたのはたぶん気のせいだ。


 いちばんの懸念だった排熱だがこれも解決した。


 銃の板厚を薄くして外気で冷ましやすくする。


 あとは鉄は貴重だからベークライトをあらゆる個所に使った。


 おかげで銃身が4㎏ぐらいになって私でも持てた!


 そんな細かい改善に膨大な時間を費やしてしまった。



 それからアサルトライフルに合わせてゴーレムの改良もおこなった。


 まずゴーレムは関節が弱い。


 肩の付け根にあてて打つと高い確率で肩が壊れる。


 これは筋肉という衝撃吸収がないゴーレムの弱点だ。


 とはいえ肩上に乗せるのもどうかと思う。


「工場長! カッコいいと思います!」


「かっこよさの問題じゃない! それだと手首が壊れるでしょ!」


 ――まったく。


 ごほん……ゴーレムの関節を考慮するとライフルの構えは腰撃ちが基本となる。


 肩に付けると関節が壊れるから仕方がない――それにそもそもノーコンだから安定させる必要がない。


 そうだなこれを【シュワ撃ち】と名付けよう。


「こうなるとライフルの構造も実情に合わせて変えたいな」


「はい工場長――そうですね。何か改善提案はありますか?」


「ハッ! 下についている弾倉の交換が面倒であります!」


 ――なるほど、よろしい改造だ。



 ソル255



 ――相変わらず山脈ワームの駆除が続いている。


 鉄条網の効果は素晴らしく、魔獣が寄りつかなくなった。


 防壁も要塞張りに強化されてる。


 北部の奪還のために自動小銃の開発を始めたが、もう30ソルも費やしている。


 雨の影響で生産量が少なく、しかもありったけの資材を防備と兵器開発そして兵隊ゴーレムの製造に回している。



 /◆/



 昨日までにバナナ型の弾倉を下からではなく、上から装着するように変更した。


 また時代を逆行してるが気のせいだろう。


 もはや初期の原型をとどめていない自動小銃みたいなナニカになっている。


 品番もAR-47になり、ますますカラシ味が深くなった。


「雨が止んだらゴーレムによる積極的攻勢にでるぞ」


「ハッ! お任せください!」


 ――100体のゴーレムが前線に送られる。


 はたしてうまくいくのだろうか?


「雨が止みました。状況を開始してください」


「ハッ! 全体配置に着け! 作戦開始!」



 号令と共鉄橋の跳ね橋が下りて北部へとまた進めるようになる。 兵隊ゴーレムの一団は自動小銃を携えて橋の上で待機している。 数百のバグズたちが敵意をもって橋を渡り襲い掛かる。

 狭い鉄橋をただ一直線に進むバグズに銃が火を噴く。 100m離れた地点から一方的に攻撃にさらされてなすすべなく倒れていくバグズ達。

 戦闘は半日ほど続き雨とともに終わりを告げる。 敗北者の拠点は火炎放射器で燃やし尽くされて工場長は出城を手に入れる。


「お!?  勝ったのか!」


「よかったです。このまま順調に行けば今日中には奪還できます」


「そうだといいんだが……」


 遺跡内にできていた巣を火炎放射器で燃やす。 その炎の勢いは次第にゴムの研究所に移り、赤々と燃え広がっていく。


「工場長! やりすぎてしまいました!」


「ああ、実験成果が!!」


 ――この後、大雨が降り注ぎ消火した。


 しかし合成ゴムの実験結果は灰となってしまった。


 うーん、残念。

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