第6話 坑道の奥底で…………ば・く・は・つ



 ゴーレム達はワームの巣の奥で支柱を建てるための掘削をしていた。 掘削した石炭を運ぶためトロッコも奥まで伸びている。 支柱は千本鳥居のように並んで上部の空気の流れが悪くなる。 トロッコの往復運動とゴーレムの掘削はゆっくりと確実に可燃性ガスと石炭粉じんそして酸素を混合させていく。



 ソル104



「今日までに10V電池とアナログテスターそしてカーボン抵抗ができたのは上々」


「いちおうマイカを使ったコンデンサもありますよ」


「けどね~、静電容量がわからないと勘で使うしかないのが情けない」


――静電容量だからLCR測定器か?


 LCRの原理ってなんだ?


 交流と直流の電源と測定器とオペアンプか? オペアンプなのか?


 原始人にオペアンプを要求するのか!?


 うん、諦めよう。



 もっと根源的にはインピーダンスとかリアクタンスの計算式を思い出すか、再発見をしなければいけない。


 紙と鉛筆と実証試験の設備そして糖分とカフェインがほしいな。


 欲を言えば我が愛読書である日刊トラギが手元にあれば、どれほど役立つことか!


 ふ~、よし保留だ保留、今必要ではないのだよ――。



「工場長、露天掘りの準備が整いました」


「う、露天掘りか……まあゴーレムが周囲を監視しているから、たぶん大丈夫だろう――見にいこうか」



 現場はきれいに伐採が進み、ついでに覆い被さってた腐葉土も除去され、新鮮な石炭層が顔を覗かせていた。



「いい黒色だ、重機があればもっといいんだが贅沢はいえないな」


「工場長、これから表層を掘削していきます」


「オーケー、面で掘削できる装置を考えるのも……」



 掘削ゴーレムのバネ式掘削ギアは複雑な構造のせいで石が歯車に挟む事がある。 今日も歯車が動かなくなり、傍らにいたトロッコ作業をするゴーレムが石の除去をする。 手では取り除けないと判断したゴーレムは鉄のスコップの先端を使い石を取り除いた。 そして鉄スコップと鉄歯車の摩擦で火花が散る。



 ドンッ!!。



「――ふぉ!!? ……何だ!? 今の音は?」


「工場長! 炭坑の方からです!」


「なに!? ああ、煙が出てるな。急いで現場にいくぞ!」


「工場長ストップ、ストップです」


「工場長はだーめ」「脆弱だから事故現場はきけんよー」「掴まえろー」


「な! ええい触るな。待って! 囲まな……ぐぅ」


 ――命令が効かない……だと。



 消化設備に投入したコークスは不燃性ガスを浴びながらゆっくり冷やし、3ソル後に外に運び出されインベントリにしまわれる。 この一連の作業を絶えず行うことで発火や発熱を抑えながら石炭をコークスに変えていく。



 ……何とか解放されたが、その間にアルタ君が坑道の入口をふさいで鎮火に勤めてくれたようだ。


 私のためとはいえ命令が効かないのは不便だ。


 行動が制限されるのはなんとつらい事か。


「被害はどうなっている?」


「14体です。耳を澄ませば彼らの叫びが聴こえてきます」


 ――悲痛な叫び……。


 いや臆するな、何か事故の原因がわかるかもしれないのだから。


「ばくはつビックリー! スゴい明るーい!」


「工場長ー! とっても幻想的ですよーこっち来ましょうよー」


 ――とっても楽しそうな叫びが聴こえる。


 これだから不死身の価値観は理解できん。


「アルタさんや、 声が聞こえるということはインベントリで回収できる範囲なんじゃないのか?」


「工場長、名案ですね。すぐに犠牲ゴーレムの回収をします」


 ――数十m位なら空間隔てて出し入れ自由なのは便利だが――原理は考えないでおこう。


 お、ゴーレムコアが目の前に落ちてきた。


「あ、工場長。カラダがないよーカラダがないよー」

「もう少しで”死”を体験できそうだったのになー」


「体験しなくていいから、 まずは事情聴取を始める」



/◆/



 ――話を聞いた限りだと、起きたのは火花による可燃性ガスの爆発だろうか?


 ゴーレムの改造と安全教育を十分におこなえば再開発してもいいか。


 あとはガスが溜まらないように入口から送風してガスの煙突を作るか。


「まずは消火しないと話にならんな。アルタ君なにか案ない?」


「そうですね。インベントリでガス全部吸いだすとか、水攻めなんていかがでしょうか」


「わぉ、その大胆な発想いいね。まずは吸出しからやってみるか」



/◆/



 ――いろいろ試した結果として吸出しは失敗した。


 煙は消えたが逆に入り口から酸素が供給されて燃焼が悪化してしまった。


 水攻めは半分成功、表面の火は止まり炭坑内に入れるようになったが、アルタ曰く奥にくすぶってる石炭層があるそうな。


 その燃えている石炭層を取り出すためにいつもの錬金術・分解となる。


 というわけで危険な炭坑内で地道に分解していくことになった。


 ――アルタ君が。


 しょうがないので炭坑を守る門番ゴーレムをしり目に、対策検討を始めるとしよう。



 ソル107



 ――結局、鎮火するのに3ソルかかってしまった。


 アルタは坑道内の安全対策中だ。


 



コークス炉は止まっている。 掘削した石炭はすべて一次保管庫に積まれている。 粉末石炭も保管している。 圧縮した高密度の粉末石炭は他の石炭とは違いエネルギー密度が高い。 乾燥のため熱風で発熱した粉末石炭は酸素供給がなくても自然発熱し続けた。 高熱により保管所の石炭も発熱していき爆発性の一酸化炭素を生成していく。 炭坑火災が起きなければ新たな石炭の搬入中に気付いたがコークス炉は止まっている。 一酸化炭素がたっぷりと充満した倉庫では石炭の不純物も加熱により白い煙が立ち込みはじめた。



「工場長! 倉庫から煙が出てますよー」


「な? な! 今度はそっちか! ちょっと遠目に見てくる」


「煙……爆発……危険……! 全ゴーレム! 工場長をとめろー」


 ――遠目にって言ったじゃん!?


 待って掘削ゴーレムのピッケル腕はガチでヤバイ!!


「こ、こっちくんな~!」


 ――なんかヒャッハーとか言い始めてるし完全に楽しんでるだろこいつら!!


 くそ、どうする?


「ゴーレム達そこを動くな!」


「ヒャッハー! 安全第一! 判断は僕らなのでその命令は受け付けませ~ん!」


「ち、ちくしょうめぇぇぇ!!!」


 ――どうする? どうする!?


 あそこだ! 安全な核シェルターまで全力で走り抜けるしかない!


 体力は? 体力は持つのか?


 いや大丈夫だ。身体が軽い! 逃げ切ることができる!



 炭鉱に来るまでの長距離踏破と襲撃時の短距離走により工場長の体力と筋力は向上していた。



 ――そうか! 私は日々常にレベルアップしているのだ。


 この距離なら余裕でゴーレムを振り切りながらセーフティハウス安全地帯にたどり着ける。


 工場のを最短コースで走り抜けてやるぜ。


 そしたら籠城戦だ!


 アルタが異変に気付いてゴーレム達を収納インベントリするまでシェルターに引きこもればいいのだ。


 ふははっははは。勝ったな!



 倉庫の異変を察知したゴーレムは工場長が策定した安全ルールに基づいて行動した。


 1、異変があった場合は内容を確認する

 2、確認事項をアルタにする

 3、アルタと工場長にする、ただしアルタ不在の場合は直接工場長にをする。

 4、必要ならば工場長とアルタの時に出席する


 だからゴーレムは倉庫のシャッターを開けて中を確認した。 倉庫内の充満した一酸化炭素ガスと発熱した石炭は新鮮な酸素と激しく化学反応を起こし爆発的な熱エネルギーが発生した。 頑丈に造られた倉庫により爆発力は空気泡のようにただ一点シャッターへと向かって一直線に轟いた。 その爆風はコークス炉を横切りセーフティハウスへと向かう工場長に直撃して吹き飛ばすには十分であった。


「ふぼぉ!? おおおおぉぉぉ!!」


 工場長は――吹き飛ばされ――――世界がスローーーーに動くなか――――――考えた。


 ――あ、ま~た壊れるんだろうな。私のヘルメット……だからこれで生き残ったら言ってやるんだ。



を――――。



 近くにあった岩にものすごい勢いで側頭部から岩に衝突し、そして装備していたヘルメットが割れた。



「へ、ヘルメットが……なければ……即死だった…………」


……生存フラグを立ててやったぜ……。



「工場長を確保―」「アイ、キャン、フラーイ!」


「待って、それはダ――」


 追いついたゴーレム達が一斉に畳みかける。


「重いぃ…………ぐふぅ」


 工場長はその日、気絶するように意識を失った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る