第7話 大・爆・発
※縦読みだと読みづらくなっています。
群体生物は周辺の魔物を捕食して順調に数を増やしその体積を膨れ上がらせていった。 環境の変化に生と死の繰り返しで対応してきたこの生物はすでに有害な化学物質や重金属をも取り入れた新種の分体が大多数に変わっている。
川の水量が減って本来は流れない方向に石油が流れ群体生物のテリトリーを汚染していった。 そしてブレインは悟る。
――我々は攻撃されている。 そして取り込めばさらに成長できる。
この地域の風向きは常に西から東の山脈に流れている。 しかし季節の変わり目には風の向きが一時的に変わるときがある。 ガスフレアの燃さかる匂いはちょうど群体生物のテリトリーへ流れ、嗅覚を担当する下部生物は石油の臭いをかぎとり石油工場を見つけ出す。
――丘の通信塔は相変わらず【0101】を示している。
農地の異常が解除されるまであのままだろう。
使い勝手が悪いから早々に改善したほうがいいな。
さて石油が見つかったのなら大豆油の優先度は低いのだろうか?
残念というより素晴らしいことに植物油ってのは鉱油系とはまた違った価値がある。
実際に使えるようになるのはまだ先だけどあって損はない。
例えば……石鹸とかかな。
そうそうマヨネーズの原料だ!
もっとも私が作ったらとてつもなく酸っぱくてまずいのしか作れないけどな。
なんせ私は料理音痴だ。
ちなみにアルタも音痴だ。
味覚と嗅覚が無いんだからしょうがない。
そのせいでナニカサ……いや忘れよう。
独特な臭いがする石油工場に群体生物は襲い掛かった。 監視していたゴーレムはすぐさまに異常を知らせるために【1111】信号を発信したが先に発信していた【0101】と錯そうして、通信が混乱状態となった。 また工場長達は一個体の動きの鈍い巨大生物と思い込んでいた。 数万の群体は魚の大群のような規律ある行動をとり時速100㎞以上の速度で工場へと突撃していった。
工場へたどり着いた群体は石油の匂いが立ち込める浮屋根式の貯蔵タンクに襲い掛かる。 群体の全身が石油まみれになり、何割かの適応できていなかった分体はやられたが大部分は適応しむしろ活性化した。 ブレーンと重要な器官を担う本体はLPガスタンクの上に陣取り、周囲全ての石油施設に攻撃を開始した。 数千の分体の集合体が数本の供給体でつながり本体から半ば独立して坑井、蒸留塔、各液体貯蔵タンクに襲い掛かる。 それぞれの施設をある程度距離を離していたが、それは不注意の自爆対策であって化け物の同時多発攻撃への備えはなかった。
「ん!? 前方で黒煙!」
「工場長!! 物見やぐらの通信が【1111】になってます」
――ああもうクソ! かすかに鐘の鳴る音も聞こえるな。
「すぐにブレーキだ! 退却、たい――うお!?」
加熱炉のガスフレアで引火し石油工場と群体生物は連鎖的に炎上していった。 パイプラインの内側から爆発していき10本の坑井はすべて吹き飛び、蒸留塔は可燃性の上部から連鎖的に爆散し、パイプでつながった各種貯蔵タンクも順番に爆発していった。
全身に石油を浴び、さらに体内に取り込んだことで活性化していた群体生物は瞬く間に全身を焼き尽くしていった。
「ギャアアアアアアァァァァァァ――――…………」
元々水辺に陣取り炎への耐性が低かった群体生物はブレーンの叫びに応えるようにLPガスタンクに集まっていく。
最後にはガスタンクの大爆発により燃え盛る群体生物は四方に爆散し、本体の絶命をもって全滅した……。
「工場長、前方から爆発が――。 衝撃波きます!!」
「のおおおぉぉぉぉーー!!!」
オレンジ色の爆炎を纏った衝撃波によりレールは歪みトロッコは吹き飛び、工場長はトロッコから振り落とされた。
「うう、擦りむいたが、その程度で済んだな。――アルタ!! そっちは大丈夫か?」
「工場長、ん~ん~頭が外れて動けません……」
「そうか、いまそっちに行――!?」
ボタ。ボタ――――ボタ。
吹き飛んだ燃え盛る群体生物と石油工場の破片が周囲に落下していく。 10本あった油井はすべて吹き飛び、地圧によりガスがでて赤々と燃え盛る火柱となり吹き上げる。 工場長は立ち尽くす、炎の壁と火の柱を見つめながら立ち尽くす。
黒い雨が降り注ぐ。
ボ
タ
ボ
タ
ボ
タ
ボ
タ
男
は
黒
く
ボ な
タ る ボ
ボタボタボタボタボタボタボタボタ
ドロドロドロドロドロドロドロドロ
「…………そうだ早く逃げ出さないと……いつ引火してもおかしくない……」
「工場長、いま素体をだ――キャッ!?」
「こんなところで作業はできない。このまま遺跡まで歩いて行こう――」
「――はい、わかりました」
――まだ大丈夫だ。
この程度の爆発はいつものことだ。
このぐらいで心が折れたりはしない。
まだ大丈夫だ。
ちょっとヘルメットがヘコんで、全身が石油まみれになって、さっきから耳鳴りがし続けているだけだ。
チクショーめ。
気化した化合物を吸い過ぎたのか、それとも頭打ったのかちょっと目まいがするだけだ。
まだだいじょうぶだ……。
明日にはまたいつものように作業に戻れる。
それにしても遺跡まで遠いな。
かなりはなれたからアルタを直して、それからスモールハウスで休憩して……。
なーにだいじょうぶだ。
ソル159
「工場長、お体は大丈夫ですか?」
「ああ、あの後ゆっくり休んだから――目まいもしなくなったよ」
「それはよかったです。報告ですが湖の主はいなくなりました。同種の生物は周辺に見られません…………工場は全壊ですね」
「……そうか――まあ仕方がないな」
――結局、鎮火にはそれほど時間はかからなかった。
例によって インベントリを活用して可燃物を収納して火を消したそうな。
不幸中の幸いといっていいのかクメン法関連の設備はアルタが移動先でも反応させられるようにインベントリにしまっていた。
だからある程度の現場整備が終わればすぐにでも復旧する。
「復旧はどのくらいかかる?」
「数ソルで再稼働――と言いたいところですが、ちょうど加工機械に全資材を投入しましたのでリソースの配分の都合から当分は再開できません」
「…………重機を最優先で作って各鉱山の生産能力を優先しよう。そうすれば石油設備の資源もすぐにあつまるだろう」
「わかりました。それでは本日はこのまま療養に専念してくださいね」
「ああ、わかった……おやすみ……」
ソル160
――アルタ曰く湖の主が倒されても周辺の魔物はこちらに近づいてこないようだ。
何かしらの因果関係があるかと思ったんだけどそうでもないようだ。
さて一晩休んだら体調は良くなった。
石油工場周辺は物量で掘り返して石油を回収していった。
坑井は完全に封印して今は石油が出ない状態になっている。
安全だと分かるとちょっとお出かけしたくなるのが人ってもんだ。
だからゴーレム達と襲撃者の確認をすることにした。
「このオタマジャクシみたいなのがイソギンチャクの正体か……」
「マックロです」「炭のかたまりオブ」「こっちはへびみたいっす」
「こっちは湖に漂ってた個体ですですね」
「種類は――数えきれないな」
――コイツはそれぞれが筋肉や手を担う生物の集合体みたいなものか?
「破砕していい?」
「ダ……まあいいか」
「わーい、破砕、破砕」
――炭化した1mぐらいに縮んだ、へんなのを砕いていく。
お、何かの鉱物みたいなのがでてきたな。
「これは……ゴーレムコアに似てるな」
「工場長、それは魔石ですよー」
「ぷーくすくす、知らないなんて遅れてる~」
「こっちにもあったよー」
――これが魔石か、たしか魔石を有してるのが魔物だっけか。
とりあえず人を小馬鹿にしたゴーレムのコアを取り出して違いを確認してみる。
「やーん、エッチ」
「ちょいうるさい……うーん、あまり違いはなさそうだな」
――まずは2つをくっつけてみるか。
「あぁぁぁ……きもちわーるいおぉぉぉ」
「うお!? ……え、だいじょうぶ?」
「あ!? もとに戻りました! 大丈夫です」
――離したら戻ったみたいだな。
これはアルタの作業が終わったら検証だな。
「とりあえず燃え尽きた死骸から魔石を回収していくぞ」
「はーい」
/◆◆/
「今数え中です! 重量にして5トン以上になります」
「魔石1個1kgぐらいか――なら最低5千体はいたのか」
――爆発の影響でほとんど吹っ飛だのが残念。
周辺を採掘すると数個は魔石が採れるそうだ。
石油工場は吹っ飛んだがもっと前向きに考えてもいいんじゃないか?
石油以外の設備は全部無事だ。
いえーい。そうだとも生産能力は下がってない。石油が止まっただけだ。
それによく考えたらなんといつもの自爆じゃなかった――そう自爆ではないのだよ。
これってかなり重要なことだ。
安全対策が上手くいっているってことだ。
工場と引き換えに迷惑なニョロニョロはいなくなった。
化学物質を浴びて巨大怪獣にならなかったのはよかったことだ!
ふ~こいつはいいこと尽くめじゃないか!
もうこれ以上問題は起きないだろう。
「こーじょーちょー、農地どうします?」
「ああ! ――しまった忘れてた!」
――だが目の前の汚染を放置して農耕に明け暮れるのは変な話だ。
まずは安全対策と環境保全を整える。
それから開発に戻ろうじゃないか。
明日、アルタと合流したらやらないといけないことがある。
――そう西側の本格調査だ。
――――――――――――――――――――
第6章 完
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