第4話 遺跡の外は……
/◆/
――食糧問題だが今日の分は何とかなった。
なんと水路に川魚が流れてきたのだ!
運がよかった。
魚を焼くには火を起こさなければいけない。
ということで使うのはメタルマッチ!
これはとある日に停電が起きオール電化だった我が家でロウソクすら灯せなかったという苦い経験から入手した逸品だ。――計画停電だから仕方がない!
もちろん家の中で使ったらヤベーことになるし、ベランダで使うとヤベー不審者扱いされるから扱いに困りながらも旅行バックに入れといたのはいい思い出。
使い方は金属板とこすり合わせて火花を出す、というシンプルなマッチ。――メンテナンスフリーで雨でも使える。
あとは燃料となる枝と薪を集めて焼くだけだ。
カチカチ。
お、さすがは松明の由来、松科の木はすぐ燃えていいね。
「おお! いい匂いがしてきた~」
「すぐに魚が手に入ってよかったです。今後のためにも食糧を手に入れたほうがいいでしょう」
「そうだな、しかし……そうなると畑を耕したほうがいいか?」
――残念ながら農業は専門外だ。大量生産学はあくまで工業全般だから仕方がない。
「この都市の西側は農耕地帯だったはずなので何かあると思います」
「ああ、そう言えばゴーレムはちょうど西側を探しに行ってたな」
/◆◆◆/
アルタは自身の錬金術の知識を基に機械工学や材料工学の概念を合わせて、ゴーレム素体を錬成した。
「前より動く動く~キャッキャ」
「もっと試行錯誤が必要かと思ったが案外すんなりいくんだな」
「生前は年中作っては壊していました。けれどこれほど早く作れたことはありません」
――以前は1体製作するのに1月かかったそうな。
なんでもアシストのお陰で1時間に1体のスピードで作れるらしい。ゴーレムコアの錬成に30分、体に30分かかるらしい。
「ゴーレム達、もう一度水源の調査だ――今度はモノ壊したりするなよ。できれば周辺の鉱物を回収してきてもらいたいが……」
「マスター、このアイテムプレートは収納機能が付いてます。何かの役に立つでしょう」
アイテムプレートはボックス、インベントリの小型版で収納量が少ないがボックスより製作しやすい道具である。
――それにしてもあっちはアイテムインベントリ、こっちはアイテムボックスと種類が多すぎるし全部アイテムを関してると紛らわしい。
いっそ名称を変えてしまおう。
そうこれからは【チェスト】だ。
こっちのほうがなじみ深い。
「ウェーイ! もっかい行ってくるオブ」
――不安はあるが安全が確保されていない森を私が歩き回るよりマシだろう。
「ボス~、何かいろいろありました!」
「リーダー、食べ物です」
「オヤビン褒めて誉めて」
――今度は周辺調査班が来たな。
手に野菜? を持っている。
うーん……見た目ウコンのようだが人参の花を咲かせてるから、たぶん人参だろう。
他にはキャベツみたいな葉っぱだが、虫食いが激しいな。
こっちの房は枝豆に似ている。
「ちょっと食べてみるか……うん、枝豆だ」
――偶然かもしれないが古代の食用種が野生化して残っていたのか?
もしそうならこいつは幸運だな。
――どれも小粒ではあるが栄養の問題だろうか?
さて、少し落ち着いて今後の方針を考えてみるか。
現状から考えると衣食住の食以外は重要度が低いな。
アルタの記憶から水路の下流側が穀物地帯だったと教えてもらったことだし。
畑を耕してある程度食糧を確保してから――人がいる場所に移動するほうがいいな。
なにせこれほどの広大な土地が手付かずになるってことは立ち入り禁止か、あるいは人がいる都市が付近数百キロ圏内に無いってことになる。
そうなると旅支度の第一歩は農業ってことになる。
あとは――遺跡内部はいいとして古代都市の調査がまだまだ残っている。
これだけの石の都を作れたってことは近くに石切り場と煉瓦窯――そして鉄などの鉱山があるはずだ。
――大量生産学のたしなみとして、古代のしかも異世界の生産力はぜひ知っておきたい!
/◆◆/
古代遺跡の東側は小高い山の連峰になっている。この連峰はそのほとんどが花崗岩や凝灰岩などの火山岩である。この石材資源は都市を築いた原動力の一つとなっている。切立った崖には人工的な加工の痕跡が残り、運搬用の道がかつての面影を残している。
「マスター石切り場跡地になります」
「遺跡の東側が小高い山ってのは……京都東山みたいな感じか」
――白川石だったかな? あそこにも旧採石場があったはず。
いつか行ってみたかったんだよなー。
それにしても遺跡群の石材供給をここだけで補っていたのか、半分以上削れてるんじゃねってぐらいに削れてるな……。
採石場から離れたところに、明らかに質の違う山がある。この山は主にレンガ用の赤い粘土が採れたようだ。窯のような跡地だけがある。
ボーキ化が激しいから熱水で変質したのか?
うーん、まあ本格的なのは学者がすることだから考えても仕方がない。
それよりもやらなければならないことがある!
「日が落ちる前に寝る準備をしなければ!」
――山めぐりと散策でもう足パンパンだ。なぜ寝床を作らなかったんだまったく!
神殿に戻り太陽が沈む前に焚き火の準備をしていた。
その時に水源調査班ゴーレムがいくつかの鉱物を持参して帰ってきた。
辺りが暗くなり、収穫した野菜を鍋に放り込み煮込みスープができるのを待ちながら報告を受ける。
「とても重い石がありましたー」
「このとても軽い石を持ってきたオブオブよ」
「軽いのに体を変えれば空を飛べるとですです」
――軽石だな。脆くなるだけだかから軽量化の価値はないな。
「お、これは岩塩だな、調味料として使うか。こっちは……鉄鉱石に似てるな」
「あとは水晶と、残りはただの石――ですか?」
「いや――このペラペラぐあいとぐにゃぐにゃ感……これは雲母だな」
――ゴーレムの報告を聞きながら岩塩で味付けした野菜スープを飲む……うん、まずい。
このウコンのようなゴボウのようなは噛むとニンジン味が広がるな……まずいけど。
「スキルは寝ているうちも使えるのか?」
「譲渡状態なので可能です。マスター」
――アルタとゴーレムは寝ないらしい。
不死のゴーレムには疲労も苦痛もないのだそうな。
むしろ何もしないことのほうが苦痛になるらしい。
ちょっとわからない感覚だな。
「なら今後必要そうなのを寝てる間に……作ってもらうのもありだな。……あとで考える……か」
ソル2
早朝、筋肉痛でうなされていた。元来インドア派なのに一日中動き回ったツケである。
――うでが……いたた。
今日はあまり動かないほうがよさそうだ。
まだまだ魚はあるし今日は今後の計画でも練るか。
その時、 北部の例の
「マスター! 帰ってきましたー。襲われて帰ってこれなくなるところでしたった。とっても楽しかったですです」
「「ねー」」
ゴーレムには死の概念がない。だから襲われようとも体を切り裂かれようとも、たんに刺激的な体験を得たとしか認識しない。
――いや~ゴーレムさんの価値観マジわかんね。
とりあえずデジカメの内容を確認してみるか。
一枚一枚撮った写真を確認していく。
――森や山の風景。
――巨大な昆虫の背中に登るゴーレム。
――昆虫の上からの写真
――青空に映る鳥のような影。
――鳥に捕まるゴーレム。
――上空からの写真
――落ちるゴーレム
なんだか楽しそうだな!
――巨大な繭から這い出てくる巨大昆虫。
――草原で激突する巨大昆虫と巨獣の群れ。
――引き裂かれる……
ひぇ、ここからはモザイクが必要だな。
写真では撮った場所の位置関係はよくわからない。
けれど北に進むと化け物の群れがいることはわかった。
「…………よく帰ってこれたな」
「大変でした」「楽しかった」「夜中は途中までなにも会いませんでした」
――帰りの途中にナニかに襲われたがすぐに去っていったらしい。
石だから興味が失せたんだろう。
「もしかしてこの昆虫が古代文明滅ぼした原因か?」
「記憶が欠落しているのでわかりませんがその可能性は高いです」
――拠点を作りながら移動する予定だったが計画の練り直しだな。
「いつこっちに来るかわからないから逃げたほうがいいだろうか?」
「マスター、その心配はないでしょう。理由は不明ですが遺跡周辺に来る気配がありません」
「そうならいいんだが……遺跡から外に出ないほうがいいのかもしれんな」
――情報が少なすぎる。
周辺全域をゴーレムに調べさせるのもいいかもしれない。
しかし襲われるリスクがある以上、ゴーレムだけに探索を任せていいのだろうか?
「マスター、他の方角も調査しましょう。今度は私が調査します」
「そうか――ならばこっちは拠点と食糧の確保をしていくか」
――アルタが夜間に作ったゴーレム5体を連れて調査に出て行った。
「オヤビン行ってきます!」
「オブオブ!」
「ひゃっはーだぜぃ!」
――相変わらず性格に難があるが、スキルは離れていても行使できるようだから心配はいらないだろう。
そのあいだ私はスキルが使えないが――いや最初から使えないな。
遺跡からでなければ――まあ何とかなるだろう。
脱出経路が見つかったら移動したいが、長距離移動の可能性が高い。
食糧を大量に確保したほうがいい。
そんな事態にならないほうがいいんだけど。
待っている間に居残り組のゴーレムたちと畑を耕すのはいいかもしれない。
うまいこと森を抜けることができればいいんだが……。
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レシピ
石+木材=石のゴーレム
木材+錬金術=チェスト
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