第5話 永久磁石《エターナルフォースマグネット》
/◆/
新たな資源を求めて掘削しないことを宣言した工場長に一同驚愕するが、そんな彼女らのためにいつもの講義を始めた。
――【炭酸バリウム】は石灰岩質の地層の中から算出することがある鉱物。
またの名を【毒重石】という名前からしてヤバそうな石。
けど舐めても腹を壊す程度で毒性は低い――劇薬指定されてる毒物だ。
一体どっちなんだと混乱するけどその理由は、鉱物としては安定していて無害で肌に触れても何も起きないが、食べると胃酸と反応して劇薬に変貌するからこのような扱いになっている。
そうつまりこんな名前を付けるということは、ある時点でこの石を舐めたり食べた人がいるということだ。とってもクレイジー!
そしてなんといっても重い!
それ以外には【
お気づきだろうか?
新耐火レンガとして
だから石灰岩の採石場と【インベントリ】にすでに資源がある。
――あとは錬金術で【炭酸バリウム】を分離するだけだ。
「――ということでもうすでに掘削してるのだよゴーレム達」
「……くっさく」
――なんかしょんぼりしてるけどゴーレムの挙動を気にしてはいけない。
60ソルほどの付き合いで分かったことのひとつだ。
ゴーレムはほっといでアルタに錬成してもらうとしよう。
/◆/
「ということで結果――0.1トンの【バリウム】が手に入りました」
「やったオブね工場長! ひゃっほっほー!!」
「「うぇーい!!」」
――そう、運がよかった。場合によってはドロマイトだけ採れてバリウム系鉱石は産出しなかった可能性もあった。
まあその場合はコバルト、ニッケル、レアメタルあたりを探したり集めたりすることになっただろう。
……そうならなくてよかった。
さあ次は楽しい楽しい【磁石】の製造の時間だ!
ソル81
「それでは簡単永久磁石の料理講座を始めます。アルタ君例の材料を――」
「はい工場長、こちらに用意してあります」
――それでは1ソルクッキングの時間です。
まずそろえるのは【炭酸バリウム】の粉そして【酸化鉄】の粉。
下ごしらえとして事前に砕くことをお勧めします。
この粉々にした原料をほどよく配合してから炉にぶち込み仮焼結します。
温度は大体1300℃程度ですが、温度計が無いので適当です。
これで磁力の向きがバラバラな多結晶の合金ができます。
冷やした合金を粉砕ミルで砕きもう一度【粉】にします。
この時に水中粉砕するといいでしょう。大体1~2
もちろんメンドクサイので【分解】で粉にします。
粉に電磁石で磁力を与えながらプレスします。
この磁石製造のためだけに特別に作った高速回転仕様の水車そして電磁石を使い高い磁力を与えます。
そうすると単結晶が磁力により向きが一定になり、プレスすることでそのまま固定します。
この向きをそろえるのが重要ですね。
出来上がった合金をじっくり焼きます。
先ほどと同じ1300℃で焼結します。
このとき溶融しないように気を付けましょう。
溶けると向きがまたバラバラになってしまいます。
それでは冷え固まったこちらの合金を錬金術でお好みの形に加工します。
最後に隠し味としてもう一度、電磁石で磁力をあたえます。
どのくらいやればいいのかわからないので1ソルほどこのまま放置します。
以上、1ソルクッキングでした。
ソル82
「それでは砂鉄に出来たてホヤホヤの磁石を近づける」
「ひゃーくっついたー!」「ウェーイ!」
「これが永久磁石ですか面白いですね。分解と再構築していいですか?」
――面白そうだな! ちょっと試作品で試してみるか。
いくつか作った試作品を錬金術で再現できないか試した結果、上手くいかなかった。
……残念。
さてついにあの【永久磁石】が目の前にある。
エナメル銅線もさらにつくることができた。
ならば永久磁石式直流モーターを作るしかないだろう?
今回は電磁石を使わないから構造がよりシンプルになり作りやすい。
やったね…………いや、ウソ、メンドクサイ……。
「いつか絶対、自動組立装置を作ってやる、絶対にだ」
「なんで今作らないの? なんでなんで?」
「それはな銅線製造量が少なくて工場作るメリットがないからだよ」
――そう錆びるだけの工場など価値はないのだよ!
錬金術ならすぐできそうだけど残念ながらアルタには【旋盤】を作ってもらっている。
動力は水車、木材を加工するぐらいしかできない初期の【旋盤】だ。
【旋盤】の歴史は古くたしか紀元前には原型があったとか。
ふつうに考えて回転させながら削るなんて誰でも思いつくんだから、あって当たり前だ。
それができたってことは古代人の仲間入りをしたってことだ。
この【旋盤】の用途はゴーレム用の腕や足の骨組みの製造だ。
とてもは恥ずかしい事にゴーレム製造は基本的にマザーアルタの夜なべに頼ってる状態だ。
今後も工場の拡大に合わせてゴーレムの需要は伸び続けるので、製造の一部を機械に肩代わさせることにした。
これで1時間かかるゴーレム製造を20分ほど短縮できる。
/◆◆◆◆/
「なんだかんだやってるうちに永久磁石式発電機の完成!」
「こちらの旋盤は低速回転はいけます。刃物の質が悪く、油が無いので木材しか加工できません」
「それでも素晴らしい! それではこの新しいモーターで電解精錬をおこなう」
「なんで最初のモーター使わないオブか?」
「自励式じゃなくて永久磁石式にしたのか――その理由は――」
――扱いやすいからである。
自励式ってのは磁力を自分の発電力で補うようなもんだから、低速だとほとんど磁力の増幅に電気を使う。
これでは基本的に低速しか使えない我々の科学力では意味がない。
そこで【永久磁石】だ。
永久磁石式は磁力が常に一定だから回転数に比例して電圧が発生する。
ちょうど手回し発電ライトみたいに極低速域でも発電できるようにね。
ということで低回転数でも問題が無いく発電が可能なモーターがこの永久磁石式発電機だ。
これでやっと工場の近代化ができる。
前回は純度98%の粗銅から錬金術で精練した。
今回は錬金術の部分をモーターによる電気分解に置き換えて自動化をする。
つまり【銅の電解精錬】を始めるってわけだ。
モーターさえあれば電解精錬自体はさほど難しくない。
なにせそれほど電圧を必要としないからだ。
電流も回転数依存だから多少時間はかかるだろうがこれでうまくいくだろう。
「工場はメンテナンス性を考えて鉄鉱山周辺の敷地の一角に建てようと思う」
「いいと思います。製造工程の流れから銅線工場の隣でよろしいかと思います」
――アルタの提案通りに、伐採した空き地の一角そして銅線工場の隣に電解精錬所を建てることにした。
とはいえ平屋の倉庫みたいなもんだが、そのほうが現代ぽくて少し気に入ってる。
こっちに来てから一度も雨が降っていないから屋根とかいらないんじゃないかとも思ったが、野ざらしの作業場ってソワソワして気分が悪くなる。
そうこれは気分の問題だ。
/◆◆/
「それでは粗銅と純銅板を交互に並べて――」
「工場長! 銅板は僕らじゃ持てないオブ」
「それもそうだな……よし、クレーンみたいなのを作ろう」
――クレーンといっても別に電動クレーンを作るわけじゃない。
もっと古代人向けのクレーンみたいなのだ。
そう【人力クレーンみたいなの】!!
構成は単純で動力に【踏車】そして持ち上げに【ロープ】と【滑車】を使うだけだ。
紀元前のギリシャにはすでに存在している由緒正しき重機のひとつだ。
手作り【ロープ】は切れて使い物にならなかったという過去があるので、補強としてワニスを染み込ませて銅線の余りも混ぜてやった。
ほんとは鋼線がいいんだけど材質わかんないから今後の課題だな。
/◆◆/
でき上った【人力クレーンみたいなの】は踏車というよりは水車の羽根とハムスターのコロコロを合わせた形状で、そこから木の長い棒そして先端に滑車がついたモノである。
唯一の近代的な部分は基礎が人力で回転して360度どこにでも材料を置けることだろう。
「ということでクレーンみたいなので銅板を持ち上げられるか?」
「がんばるオブ! コロコロ~ころころ~」
「おお、上がったな!」
――この銅板の陰極、陽極両方とも5㎏ぐらいだ。
ただし交互に20枚は配置するから最終的に100㎏になる。
腕力で持ち上げるのは大変だ!
そして作業中は劇薬で満たした浴槽に入れたり出したり、たとえ脳筋でも手作業厳禁の作業となる。
で、このクレーンみたいなのはプーリと滑車を組み合わせれば最大2トンは持ち上げられるはず。
もっともロープが心もとないので安全率をとって0.4トンぐらいで使う。
「工場長、この2つの電極を銅線を使ってモーターとつなげるのですね」
「そう、そして【硫酸銅】の液に浸す」
「硫酸銅ですですか?」
「ほらアレだよ工場長が故障した日オブよ」
「ああ! 洞窟でヒャッハーした工場長ね」
――うう、あまり思い出したくないがその通りだ。
……10ソルぐらい前の不慮の事故だ。
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製造工程
酸化鉄 + 炭酸バリウム → フェライト永久磁石
踏車 + 滑車 + ロープ → 人力クレーン
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