第6章 石油の時代
第1話 石油発見
ソル141
ソレを手にすれば、この世の悪意が押し寄せてくる。
世界中の勢力がそれを求めて戦い続ける。
世はまさに、大石油時代!
「石油王に俺はなる! うぃーあー!!」
「……な、なるほど」
「うん、わかんないよねこのノリは」
――だがいいのだ。
心が晴れ渡り、らんらんスキップしながら目的地を目指す。
おはよう太陽、逢いたかったよ石油!
今日も一日がんばるぞー!!
「石油ッ石油~、石油王―!」
「くっさく、くっさく、オブオブよー!」
「場所は遺跡と湖の中間にある湿地帯であってるよな?」
「はい、工場長。沼地の近くをボーリング調査中に当てたようです」
「湖の主からは10㎞以上離れててよかった。刺激しないように開発しよう」
――お! 見えてきた。
うわーすごいな。
ガスと地圧に押されて黒い液体の油柱が立っている。
「ドバドバって出ちゃってますますよ!」
「そうだな、もう少し近くで確認しよう」
「ダメです。工場長は近づいてはいけません!」
――うーん過保護がつらい。
まあ原油なんて有害物質の塊みたいなものだから触らないほうがいい。
あとで理科の実験セットを使って特性を調べてみるか。
それはさておき【
【
業界によって意味合いが違うけど、石油業界の場合は地下資源であるガスや原油を採取する井戸をこう呼ぶ。
試掘りの結果、見事目的の資源を探し当てたら状態に合わせた設備が取り付けられる。
【油田】は規模や状態によって特性が変わる鉱床だ。
だから特性に合わせてうまく設置する設備を変えて資源回収をしないといけない。
それでは目の前の【
黒い噴水――つまり地殻の高圧力そして高圧になったガスと共に自噴している。
主にオイルが産出する場合は【
自噴しているときはパイプを設置するだけの簡単なお仕事になる。
なんせ勝手にドバドバ石油が出てきてくれるのだからラクチンですばらしい。
これで埋蔵量の20%は自動で取り出せる!
逆算すると自噴しなくなったとき、大体の埋蔵量がわかるってことだ。
この低コストで回収するプロセスを【一時回収】という。
それから生産していき地層の圧力が低くなるともちろん自噴は収まる。
それでは困ると石油化学者と技術者たちは水やガスを送り込んで圧力をかけて噴出をうながす方法を思いつく。
つまり今度は【
これで埋蔵量の60%を強欲に取り出せる!
このちょっとした工夫を【二次回収】という。
まだまだ40%も残ってるなんてもったいない!
ということで最後の【三次回収】で最後の一滴まで強制的に回収する。
水蒸気や洗剤を投入して最後の一滴まで搾り取ることもできるらしいが埋蔵量が不明だからまだ考えなくていいだろう。
ここまでは自噴する場合の話、地圧が低かったり、ガスが抜けきってる場合は自噴しない。
ただ単に地面から染み出てくるだけだ。
自噴しない場合は伝統ある機械式採取をおこなう。
つまり【
やり方によって取り付ける装置が全然違うってのは石油業界の面白いところ。
――うむ、今後の方針を書類としてまとめることができた。
作るべき装置も大まかに分かったことだし、それでは開発をしていこう。
さてボーリング調査中に鉄管を抜いてアレが噴出してきた。
つまり縦穴は油圧で支えられた道ということになる。
これではいつか崩れてしまう!
「さあ【
「ドバドバー」「火着けていい?」「爆発だー」
「今度こそ爆発は無しだ。イタズラするなよー」
/◆/
「では工場長こちらの資料を基に今度は【
「お気をつけて~、えー今は縦穴を井戸のように補強してやぐらみたいなのを作る」
「工場長ポンプは~?」
「油井ポンプは自噴しなくなったら使う――かもしれん」
――うん、アルタんが油まみれになりながら油井をにょきにょき建設していく。
今の計画だとのちのちポンプを設置できるように周辺も整えながら錬金術で生成していく。
それから危険なので周囲に溢れた石油もインベントリに回収する。
油田を掘り当てたときにすることは何か?
取りあえず貯蔵タンクを作ろう!
/◆/
「ということで1万ℓのタンクを作ってみたが……10kℓは少なすぎるな」
「すぐに溢れますね。いまは【インベントリ】に収納してますが――これではココから動けません」
「まあ当たり前か」
――では大型タンクを計算しよう!
直径50m、高さ13mその時の体積は?
計算は…………紙があるってすばらしい! 約2万5千kℓ!
うーん単位は一貫してないとゴーレムが混乱するから25
「今までで一番巨大な設備だ!」
「……工場長。興奮してるところ申し訳ないのですが、鉄量と錬成による拘束時間からムダです。考え直してください」
「え~~!?…………はぁ、わかった」
「そんなに落ち込まないでください。取りあえずおおよその噴出量は約1.1ℓ/minだと思われます」
――見た目勢いがあるのは、ガスが混ざってるからか?
は~~、日当たりに換算すると……1590ℓ/solとなる。
もっともこの噴出量に意味はない。
なぜなら噴出量は地圧の変動や【
逆に考えよう、産出量は私が決めるのだ!
では資源と相談しながらもう一度計算をしてみよう。
直径18m、高さ3mで約763
どんなタンクも満杯まで溜めることは無い。
その前に警告が出るように水位計を設置するからだ。
つまり少し体積下げて720kℓタンクで450ソル分は時間を稼げる。
【
……スケール小さいけど、まあちょうどいいか。
はぁ……。
「よし、別のことを考えよう」
「こーじょーちょー、ガスはどうしまっかっか?」
「ああ、そうだな。ガスは使い道があるからな」
この天然ガスは硫化水素を含んでるから設備を劣化させる困ったやつだ。
だから昔は伝統的にガスフレアとして燃やしてきた。
それこそが石油産業の象徴としてイメージが定着した。
砂漠地帯に並ぶ大量のやぐらとその煙突から燃え盛るガスフレア。
――さすがにイメージが悪くもったいないので最近は止め始めている。
では何に活用するのか?
忘れちゃいけないのが地圧で自噴しているということだ。
つまり、その圧力はいつか無くなり多大な労力を費やして汲み出さなければならない。
だからさっきの【二次回収】に使うガスってのはこのガスのことだ。
イエーイ問題解決だ!
と言いたいところだけど残念ながらそうはトントン。
耐腐食性の合金タンクが無いとそのうち爆発する。
私は失敗から学ぶ男だ。
技術力も資源もないのに爆発するフラグを積み上げることはできない。
つまり当分は燃やすしかない。
自国の法に準拠すると決めたのにいつも法令違反の判断を下さないといけない。
これだから異世界ってのはつらすぎる。
今は燃やして、速やかに耐腐食金属の研究をして耐腐食タンクに切り替えて、ガスを貯蔵できるようにする。
数年はかかるだろうけどしょうがない。
そもそも石油を掘り当てるなんて想定外なんだ。
準備できてなくて当たり前だ。
いまから適切に対処して環境汚染を減らしていこうじゃないか。
/◆◆◆/
「工場長、坑井と石油タンクの建設終わりました」
「さすがだよ、アルタ君。まだ見に行かないほうがいいかな?」
「爆発の原因であるガスはインベントリで回収してますので今なら安全です」
「よし、ならば石油貯蔵タンクの視察といこう」
――石油タンクは鋼鉄の板で円形に並べたオーソドックスなタイプだ。
石油タンクってのは遠目から形状を知っている人はいても、内部構造を知っている人は案外すくない。
最大の特徴は貯まっている石油の上に屋根が浮いていることだ。
これを【浮屋根】という。
石油ってのはいろんな物質が混ざっている。
常温で蒸発して爆発するガスも存在する。
だから密閉すると危険だからと円盤状の浮屋根をぷかぷか浮かせている。
この屋根は波止場に浮いてる桟橋みたいなのが外周についている。
まあつまり浮き輪が付いてるってことだ。
浮屋根のすばらしいところはたとえ火災が起きても外周部のわずかな隙間が円形に燃えるだけだ。
面積が少ないってことは消火が容易ってことだ。
なんてすばらしいんだ!
ふふん次の爆発はこうやって未然に阻止して見せる。絶対にだ!
「タンクは良さそうだ――だから次の設備の建設だ!」
「次は蒸留塔ですね」
――そう、ここからが石油の本番。
石油精製工場の建設だ!
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