第7話 地質調査は大事
ソル29
――レンガ水蒸気爆発事故(被害:オデコを痛めた)から7ソル経過した。
時間の流れは速いもんだ。
窯造りを試行錯誤した結果、水は厳禁ということがわかった。
今後の大量生産学には
学問は原始人にやさしくあるべきだ!
7ソルつまり1週間ほど――私は不眠不休のレンガ造りに没頭した。
だが忘れてはいけない。
私はこの地域唯一の人であり、この生産活動に対価となる報酬は無いということだ。
焼きあがるまでヒマでヒマでしょうがなく、森でゴーレムが取ってくる果物や魚を食べる毎日。
神殿の屋上に上がり天体観測や時間により移り変わる景色を日がな一日眺める。
たまに農地にいって水やりをする。
あとはゴーレムの教育という無駄なことぐらいだ。
ああ、なんて重労働なんだろう!
そうこうして、できあがった耐火れんがにはあまり満足していない。
加熱時間が足らないのか、材料が悪いのか、とにかくもっと研究が必要だ。
他にしたことといえば、資源調査というちょっと知的な作業ぐらいか。
/□□□□/
――資源調査の中でも鉱物資源の調査を探鉱という。
ぶっちゃけた話、衛星画像、電子機材が無いので伝統的な古い探索法しかできない。
そこで古代からの技術である地形判読調査法という方法で探すことにした。
なんてことはない地形の変化を観察して鉱物資源があるか判読するのである――ただし地図はない。
「ということで神殿の屋上に来た。さあ観察タイムだ」
「すみません。マスター。こういうノウハウで役に立ちそうもありません」
「いや、問題ない。うまくいくかは半々だ」
――失敗したら…………はて?
と言っとけば大丈夫。
山師の大先輩が教えてくれたことのひとつだ!
ちなみに一番資源がありそうなのは東部になる。
都市に隣接している丘よりさらに50㎞以上先には大山脈があり、北から南まで壁となっている。
――マジで霧が深そうな山脈ってる――絶対に巨人がいる!
中腹あたりまで行き過ぎると例の山脈ワームに襲われるからその手前の山がねらい目だ。
昔の山師たちは遠めの山の形状、岩肌を見ておおよその見当をつけたという。
その次に深い山間に入り試し掘りをして鉱物の有無を判断してたと思う。
私の場合は探鉱難易度は低いほうだろう。
なぜならアルタの記憶ではこの辺で製鉄はおこなわれていなかったそうな。
つまり手付かずの自然ということだ。
そうなると天然の鉄鉱石が存在するのなら露頭している可能性が十分あり得る。
そして露頭部分の岩石は固く木が生えにくいはず。
ようするに木が少ない山を探せばいいってことさ。
/□□□□/
――いくつか探鉱候補の山を遠目に見つけた。
後は実地調査するだけだ……。
その前に山に向かう前にちょっとした実験を思いついたので遺跡の端っこに来た。
「錬金術式穴あけ実験を始める……場所はここでいいだろう。アルタ君、錬金術で30mぐらい下まで穴作れる?」
「はいマスター、問題ありません」
「よろしい――そしたら
――錬金術の分解には限界がある。
分解できる量はだいたい
ただしその体積内ならば望みの形に分解できる。
その特性を生かして錬金術式ボーリング調査をやってしまおうというわけだ。
今回の穴あけ作業ならば――最大100mの穴――は余裕で開けられるだろう。
もっとも作業難易度が上がるから30mまでで十分だ。
「まあ、穴そのものは価値無いからプレートで塞いで――箱とプレートのナンバリングを紐づけする」
――今回は最初だから「BP-001」と書いておこう。
紙が無いからこれ以上の情報が書けないのが歯がゆいな。
/◆/
――地形判読というよりもはや当て勘に近いが、東に20㎞の地点にある山に当たりをつけた。
あとは明日実地調査をするだけだ。
それでだめなら100m間隔で100mほどボーリング調査をして、数打ちで鉱床を探し当てるしかない。
準備として食糧と野宿用の道具一式をインベントリに放り込んだ。
少し時間が余ったな――。
今のところ地形判読とボーリング調査しか鉱床を探す方法はないが、なにか妙案はないか考えてみよう。
探鉱にすこしユニークな探査法があるにはある。
それは世界最古にして最初の掘削者植物にお伺いを立てる方法である。
向こうの世界には土中の銅を吸収成長するまさにユニークな種類の花がある。
たしか銅草花って言って、それはとある大陸国の呼称で学名はその特徴的な見た目と匂いから【ナギナタコウジュ】って呼ばれてたはず。
ただ植物は種類が多いから正式名は忘れた。
植物を観察していけばなんと鉱物資源を見つけられるなんて、低労働力でとてもすばらしい!
だがここで問題が発生する。
ここはどこだろう?
――そう異世界だ!
つまりそんな都合のいい植物の知識が全く役に立たないってことだ!
――チクショー!!
まあいい、こっちには錬金術【分解】がある。
目につく植物を文字通り原子レベルまで分解して構成元素を調べれば、地下に何が眠ってるのか知る手掛かりになる。
効率がいいわけではないので、今回の探鉱調査で収穫が無かった時の最後の手段ということにしておこう。
/◆/
――しまった!
他にもやらなければならないことがあった!
それは鉱山までどうやって行くか、その計画を立てていなかった。
遺跡の中央には水路とは別に川が流れている。
川幅100メートルほどだろうか。
森が深くて実は上流の地形が読めない。
この川を渡らないと鉱山にたどり着けないとしたらかなり問題だ。
もちろん最初は今にも壊れそうな橋が架かっていたが――現在は崩れて跡形もなくなっている。
北部の虫が襲ってこれないように橋を撤去したのだ。
だから今は遺跡の半分、北側は通行できない。
「なにか川を渡る方法を考えたほうがいいか?」
「マスター、以前東部調査に出たのである程度は把握してますよ」
「おお、そうか川を渡ったんだっけ?」
「はい、マスター橋みたいなのが東部にもありました。ただ壊れていましたので……」
「本当か! ……壊れていても基礎が残っているなら何とかなるだろう」
――東部の森はなぜか動物や大昆虫の類がいなく山脈までは安全だと思われる。
これを機に遺跡周辺の地図を作りながら鉱山を目指したほうがいいかもしれない。
紙はないけど……。
ここは私の脳内マッピングに頼るしかないな。
目算では水路から上流を目指して進んでいけば20㎞ほどで鉱山につくだろう。
途中のゴーレムが壊した貯水池の状況を見てから川を渡るか否か判断しよう。
さて、そうなると材料の石材を確保しとかなければならいな。
レンガ用として凝灰岩はある程度あるが、より硬くて丈夫な花崗岩も集めておこう。
/◆/
――集めるといっても岩盤を分解するのを5分間待つだけだ、
……ぶっちゃけヒマすぎるのでこのスキルについてもう少し考察しておいてもいいだろう。
スキル全般は今のところアルタが主導して使っている。
元が錬金術師でありアシストスキルも譲渡している状態。
なのですべてのスキルを代わりに使っている。
……あれ? 私のスキルじゃなかったっけ!?
まあいいや、降って沸いたスキルなんぞ身に着くわけがないんだしこのまま譲渡状態にしておこう。
「インベントリからの出し入れは離れていて発動できるのか?」
「本来は魔方陣の内側以外からはできませんが、アシストスキルによって多少は離れていても発動します」
――近くに有った小石を拾い上げインベントリにしまう。
石を投げてインベントリにしまう。
上空に投げてしまう。
――etc.
「この石を目の前に出して、落ちる石を地面スレスレでしまう。とかできる――それも連続して」
「もちろんできます。簡単なループですね」
上と下に魔法陣が現れて、落ちてくる石を下で回収して、上からまた落ちる。
奇妙な石の滝を作り出してくれた。
――面白いな、何かに応用できないだろうか?
「加速しないから運動エネルギーはリセットしてるのか?」
「はい、そのようです」
――他にも松明を燃えたまま収納して出したら――やはり燃えていた。
熱エネルギーは保存らしい。
インベントリから射出できるか試したが運動エネルギーの付加は無理のようだ。
そのまま地面にボトボト落ちるだけだ。
スキルの検証をしているとゴーレムが近づいてきた。
「マスタ~大変です? 大変です!」
「何かあったのか?」
「畑に異変が――」
――この25ソルは地道な農場再生をおこなっていた。
そこで異変が起きたとなると、今後の食糧計画が破綻する!
すぐにいかねば!!
/◆/
畑に着きその一区画を見るとそこには……。
――新しい芽が出ていた。
そうか。
ゴーレムには植物が育つのすら異変でしかないのか……なんにしてもちゃんと育ってくれたのはいいことだ。
「やあ、はじめまして、お互い苦労するだろうけど、しっかり育ってくれよ」
――そういえば前に見た映画にとても面白いウンチクがあった。
どの勢力にも属していない土地で植物を育てることに成功すると、そこは公式に植民地と認定されると――。
それってつまりこの異世界の土地は我が国の植民地と言うことだ!
――誰も気づいてないけどな!
そうなると私の肩書は植民地総督になる!
なんかカッコいい!
「ねえねえ、引っこ抜いていい?」
「まだダメです。アルタ君! 引き続きゴーレム達にはホウレンソウを守らせるように」
「はい、マスター」
行動する前に報告を、シンプルだが分かりやすい行動方針を与えておいた。
もうそろそろ日が暮れる。
明日から探鉱の開始だ。
――やるべき事は山積状態だ、生き延びるためにも、脱出のためにも創り続けないと。
――――――――――――――――――――
第1章 完
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