第6話 脱出計画
ソル22
――異世界の野性味あふれる生存本能に当てられて、やる気がなくなっております。
おはようございます。誰かわたしの救援脳内電波を受け取ってくれませんか?
「マスター、そろそろ緊急対策会議を開きませんか?」
「いやーもう少しだけ現実逃避したいー」
「じゃあ勝手にやっちゃおうYo-」
「ウェーイ、あえて突撃じゃー!」
「森を燃やせば解決オブオブ!」
「引きこもって寝ましょう!」
「却下だ! 全員収納!」
――残念ながらゴーレムに意見を求めてもまるで意味はない。
ということでゴーレム達は収納して、もっともこの辺に詳しいアルタと作戦会議をはじめる。
は~~よし、やりますか。
「ではアルタ君なにか案はあるか?」
「まず四方どこにも安全な道はありません。比較的危険性が低い南部は広く――途中で見つけた川を下るなどをすればいつか海に行きつくとは思います。」
「途中になにか補給する場所はなかったか?」
「いくつか果物の木を見つけました。インベントリに入れてあります。ただ森を抜けるために500㎞もさまよい続けるのは現実として厳しいでしょう」
――アシストスキルは優秀で距離をちゃんと割り出してくれていた。
やはり距離が長いし、問題はそれ以外にも
「何にしても徒歩は危険だな……徒歩以外の案は例えば穴掘って切り抜けるとか」
「マスター、地下はワームの巣です」
「む―それじゃあ――空でも飛ぶか……」
――材料に燃料それに技術的な問題、気球にせよ飛行機にせよ難易度が高いな。
「ところで魔法的な何かで空飛べない? 」
「私も魔法に関する記憶は欠落が多いのでわかりません。それに魔法を考慮するなら敵の魔法による攻撃も考慮しないといけません」
「むしろ懸念事項が増えた!?」
――とにかく生き残るための計画と脱出のための計画を立てて何とか脱出する手段を見つけないといけない。
/◆◆/
会議ということもあり採石所にあった石から手ごろなものを錬成し石板を作り、検討案を書きなぐっている。なお社会人としての体裁はもはや気にしていない。
――やべぇ……方針が4つしか思い浮かばなかった。
1 ヒッキー!
2 車でどっかいっちゃう?
3 お船で川下り~
4 飛行船でぷかぷか
……これはひどい! こういうときに創造性の乏しさが露呈するな。
襲われる心配がないのが4ぐらいしかない。
材料があれば具体的な計画を立てられるけど、資源が無い今はどれも机上の空論だしなー。
よし、落ち着いて考えよう。
北の巨大昆虫の森を抜けるにも、東の山脈を越えるにも、西の巨獣の森を越えるにも、南の穏やかな森とたぶん砂漠を越えるにも何か乗り物が必要ってことだ。
オーケー、脱出に必要なのは?
――頑丈な乗り物、食糧、あといっぱい。
乗り物を作るのに必要なのは?
――鉄、銅、燃料、あといっぱい。
いま移動できる範囲にどのくらい鉄があるかで作れる乗り物は決まってくる。
けどやっぱり飛行船って乗ってみたくね。作ってみたいな!
仮に飛行船として鉄、銅、その他いっぱい必要になるけど、一番優先度が高いのは食糧になる。
船の漂流最長記録は400~500日だったはず。
それなら飛行船が壊れて海の上で漂流とか空の遭難が500ソル以上になることもあり得る。
1ソルに1500キロカロリーを消費するなら、500ソルで75万キロカロリーは用意しとかないといけない。
なにせ移動中に虫もゴリラもワームも食べられるか分からない――むしろ捕食されちまう。
そうなると、なんとなく始めた農作は最も力を入れて、とにかく年単位での食糧増産をしなきゃいけない――ノウハウ知らないけど。
まあ食糧計画はその時々のノリでなんとかしよう。
同じくらいの問題は鉄などの金属を手に入れること。
少量ならば花崗岩から採れるだろうが欲しいのは――大量にだ。
乗り物にはどのぐらいの鉄量が必要だろうか?
車なら2トンぐらいか。けど欲しいのは分厚い装甲車になるから50トン。
飛行船なら100トン程度だろうか――つまり鉱床が無ければ解決しない。
トン単位の鉄が必要ならトン単位の燃料も必要になる。
…………。
とりあえず鉄を作るなら――高炉がいるんじゃね?
欲しいものをまとめて計画を複数用意して整理しよう。
生存計画
――大量の食糧確保
――避難用の拠点確保
脱出計画
――頑丈な乗り物
――大量の燃料
――周辺情報
製造計画
――建造拠点(避難と兼用)
――大量の資源
――大量の資源を採掘する道具
――大量の資源を加工する道具
――大量の道具を作るための……etc.
なにも具体的なことが書けない!!
具体的な計画を立てようとすると途方もないことをしようとしてることがよくわかる。
状況は絶望的だ。
助けてくれる人は誰もいない。
道具は何もない。
……まさに原始人だ。
今思っていることを正直に告白しよう。
すっげーワクワクしてきた!
――とりあえず高炉を作ろう、そのために耐火レンガを作ろう――
こういうノリでいけばいいってことだ。
いいね。これはエンジニアの腕の見せ所だ。
「よし、決めた! 生き残るための生存計画を推進する。そして並行して脱出のための飛行船建造計画を推し進める!」
「わかりました。それでは今あるゴーレムを使い防壁の建設を開始します」
――今稼働可能なゴーレムは50体になる。半分は遺跡を囲うような防壁作りにあてる。
/◆/
「それでは君たちには遺跡中に転がっている石を集めて防壁を作ってもらう。それから石切り場からも採石しなければならない」
「ウィーっす」
――これから作る防壁で外敵から身を守れればいいんだけど、そこまで甘くはない。ただの気休めさ。
この大掃除の本命は遺跡を綺麗にして飛行船の建設場にすることだ。
魔法的な何かで守られている安全地帯を作業場にするのは当然の話ってわけだ。
まあ文化遺産あるいは守護結界がありそうな遺跡を破壊するのは気が引けるので神殿だけはそのまま残して避難シェルターとすることにした。
「岩石コロコロ、ごんぐりこ~」
――ゴーレムの知識は私の記憶がベースになっている。
その悪影響でとても変な知識が定着している。
なんでも古代の実験でも子供時代の知識だけが定着するそうだ。
「まあいいや――ではアルタ君、これから粘土層にいき飛行船建造計画第一弾をはじめよう」
「わかりました。マスター」
/◆/
遺跡に隣接している山は人によっては丘と呼べる程度の規模であり、そのほとんどが花崗岩や凝灰岩などの火山由来の地質である。この山から少し離れた所に赤い粘土層の山が遺跡の南側にある。この山は古代文明のやきもの、工芸品の製作に使われていた。
――飛行船建造計画として今のところ決まっている計画はこうだ。
まず飛行船にせよ戦車にせよ、とにかく乗り物には大量の鉄が必要になる。
その鉄を錬金術で作っていたらとてつもない時間がかかってしまう。ほんとにとてつもなく……。
だから鉄の精練などをできるだけ物理的にあるいは電磁気学的に実行したい。
おーけー、途方もないことはわかっている。
けど化け物の群れ数万トン分の中を突っ走るのよりも現実的だし、いきなり飛行船を作るより難易度は低い。
ちょいと耐火レンガを作って、それで高炉を建設して鉄鉱石と燃料を大量に投入するだけさ――簡単だろ?
そこでレンガの材料の掘削から始めることになる。
都合がいいことに東部に雄大な大山脈があり、遺跡に隣接する形で丘もある。
何が言いたいかというと“ほのお”属性の岩石が大量にあるってこと。
「まず耐火レンガに都合がいい凝灰岩を大量にインベントリに放り込んで、次に大量の粘土を掘り出して2つを混ぜてレンガを作る」
「炉の材料ですね」
「その通り、うまく耐火レンガができればいいな」
――耐火レンガはアルミナ質の粘土をベースに密度の高いものを作ればいつかはできるだろう。
けど細かい理論やノウハウは解らないことだらけだ――こんなことならコンクリート工学とか煉瓦工学を習得しておけばよかった!
そもそも煉瓦工学なんて存在しない……が、あえて学問としてくくるとレンガ学には2つの流派がある―― “建築れんが”と“耐火れんが”だ。
言ってしまえば発祥の源流が【建築業】れんが材と、【製鉄業】高炉材という業界レベルの畑違いならぬレンガ違い。
こいつは原始人では混乱しちまウッホッホ!
両方いっぺんに必要になるなんて思ってもみなかった。
建築にも生産にもレンガは重要ってことだ。
「さあ岩をバラバラにして粘土とコネコネの時間だ!」
――ここからが果てしなき粘土との対話の時間だ。
コネては焼いて調べて砕いて……ふ~想像しただけで終わりが見えね~。
「あの~マスター、錬金術で一括処理すれば一気に作れますよ」
「……………………ファッ!!?」
――これだからファンタジーってやつは……ありがとうございます!
こいつは朗報だ!
最大の懸念事項である初期投資コストが一気に減らせた!
虚無の5分間を耐え忍んで……耐火レンガになったらいいな。
/◆/
――5分どころか1時間もかかってしまった……。
錬金術もけっして万能ではないってことだ。
錬金術は最大でおおよそ1㎥(立方メートル)の面積分しか効果が及ばない。
つまり5㎥分のレンガが欲しい場合は、分解に25分と再構築に25分の計50分かかる。
――移動と確認入れて虚無の60分コース、ほんとうにありがとうございます。
そのあいだ違うことをしないとやってられない。
ということでレンガ生産計画だ。
炉の大きさとか全く決まっていないからとにかく大量に欲しい。
アルタの錬金術で最初のレンガは手に入った。
しかし永遠にレンガを作らせるわけにはいかない。
だからそのレンガで窯を作ってレンガを焼いて監視をゴーレムに任せることにする。
そうすればその間は違うことができる。いいね。
/◆◆◆/
アルタとは別にレンガを作り続けるゴーレム達。
そのゴーレム達とは別にマスターは水に漬けたレンガとモルタルを使い、元窯だったものを修復していく。
「というわけでレンガで窯を作ってみましたよっと。これでお手製レンガを焼いて生産だ」
「基本的な物資は人力で作り、応用的な製品づくりに錬金術を活用するのですね」
「ああ、そうすれば最初は大変だが後々量産品が大量に手に入る……はず!」
――なにせ原始人が飛行船建造するという途方もない計画だ。
錬金術とゴーレムをできる限り活用しないと時間がいくらあっても足りない。
「木材に火をつけて――」
カチッカチッ……
「あとは待つだけか……」
「マスター、こちらは更なる耐火レンガを錬成しておきます」
「ああ、任せたよアルタ君」
/◆/
2人は大部分の知識をアシストスキルで共有している。ゆえに知らないことを事前に察知するとこはできない。
DIYではレンガを施工するときに水につける。これによりレンガがモルタルの水分を吸ってしまい乾燥するのを回避するテクニックである。
だがしかし耐火煉瓦と耐火モルタルは逆に水は厳禁である。耐火煉瓦は水を吸収して内部に溜める性質があるからだ。この性質ゆえに見ためは乾いていても実際には水分が含まれている。
窯に薪をくべて温度が上昇し続ける。水分が含んだ耐火煉瓦内部では水分が熱で蒸発し水蒸気へと変化していく。
この一連の変化を一般にこう呼ばれている――水蒸気爆発。
ピシッ パン!
「――きゃいん!」
レンガ内部で一気に蒸発した結果、ヒビ割れてその破片が勢いよく飛び散り、男の額に直撃した。
「く~~~…………いたい……」
「大丈夫ですか? マスター」
「……大丈夫、うん知ってた。レンガを舐めちゃいけないってわかってたさ」
――もう今日の作業はいいや、たぶん焼きあがるのに6ソルはかかるだろうから。
明日だ、こういう時は寝るに限る――明日から本気出す。
――――――――――――――――――――
レシピ
砕いた石 + 粘土 = レンガ
アルミナ石 + 粘土 = 耐火レンガ
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