第2章 鉄の時代
第1話 植民地総督、鉱山へ行く
ソル30
早朝、東の山脈により朝日が差し込まず辺りは暗く夜明けを待っているとき、植民地総督と錬金術師アルタそしてゴーレム達の一団は森の奥へと進み始めた。
地形判読調査の結果、遺跡から見て東に広がる森にそれらしい山を見つけた。そしてそこはワーム地帯のはるか手前なので比較的安全だと考えている。
/◆◆/
「はぁ、はぁ……ここは……どこだ?」
「遺跡を出てまだ5㎞ですね」
「そろそろ……あ! これが件の貯水池か――すこし直したほうがいいな」
――水路脇をえっちらほっちら、やっと壊れた貯水池までこれた。
今は見るも無残だが当時は貯水地だったことがなんとなくわかる。
正方形のため池が全部で……8つはあるだろうか。
「これはかなりの規模だな……」
「一辺が500mはあります。それが二列に四つ並んでいます」
――悲しいかな半分は土に埋まり、一カ所は側面が壊れて水が常に流れ続けている。
もっとも風化具合からそのうち自然に決壊していただろうけど。
今では川魚が入り込んで居ついている。
川魚……さかな!
少し手を加えれば養殖場にできるかもしれない!
食糧と治水は内政の基本。
だからちょっと寄り道、やることは壁の修理と水の流れを作ること。
埋もれた貯水池の復活はしない――時間がもったいない。
なぜなら住人が私一人で畑も小規模だからだ。
こういう時は一人でよかったと思う…………そう一人でよかったのだ!
「アルタ君、探鉱の前に少しこの辺を整備しよう」
「わかりました。総督」
――最近、肩書がマスターから総督に変わったがやっぱりしっくりこないな……。
/◆◆◆◆/
ある程度錬金術で貯水池を直してからさらに水路の先へと進んでいく。そして報告にあった橋までたどり着く。
「総督閣下! 橋です! ここですです!」
幅5mにも満たない川に崩れそうな橋が架かっている。一度訪れたときに錬金術で少しだけ補修した跡があるが、人が渡るには危険な状態だということが見てとれる。
――貯水池から1㎞ぐらいかな? この川は遺跡を横断している河の支流の一つだなたぶん。
水路はここから始まってる。
分岐させて貯水池に流してるようだ。
高低差の関係でこっちから水を流してるのかな。
川幅が狭くて急だけど橋を直せば私でも渡れるな。
「アルタ君、この橋は錬金術で直せるか?」
「基礎が残ってるので何とかなります。形状はアーチ橋でよろしいですか?」
「ああ、それでおねがいする」
――本来なら木で支柱みたいなのを造りそこに石を置いていき徐々にアーチ状の橋を造る。
ところがアシストと錬金術そしてインベントリの合わせ技だとものの数分で橋ができる。
インベントリ内部で橋を組み立ててから架けたい場所に橋を造ってしまう。
たとえ失敗しても5分後にやり直せばいい。
即席の橋だから、職人が造る橋と比べると見劣りするのは仕方がない。
もっとも再構築で補修すれば見た目と強度を上げることができる。
目的地はまだまだ先だから急ぐとしよう。
/◆◆◆/
その後はとくに何もなく、5㎞進んでは休んで、また5㎞進んでは休んでの繰返し、そしてついに目的の山までたどり着いた。
「…………はぁはぁ、……もう、暗くなり始めてる……今日は寝よう。頑張ったから寝よう」
「ではテントを取り出しますね」
「あと薪も出してすぐ火を起こすから」
――デジカメも電池が切れて、LEDライトは自主的に使わないようにしている。
文明の光が薪だけになってしまった。
つまり名実ともに今日から原始人ってことだ ゴ ゴ ゴーン。
ソル31
――森の中にありながら、この山だけは木がまばらにしか生えていない。
この事から地中それも山の表面付近が、堅い岩盤あるいは鉱脈で覆われている可能性が高いと当たりをつけられる。
もちろんただの想像でしかなかったが実際にボーリング調査したら鉄鉱石が含まれる鉱脈を見つけることができた。
ひゃっほー!
ツキが巡ってくるとはこのことだ!!
「では鉱山開発する前に山之神様に礼」
「……ヘイ!」
「何でおじぎしてるんだろう?」
「へんなの~」
「あなたたち静かにしなさい」
「はーいアルタさーん」
――礼節神事の作法を学ばせるべきか?
いやいやゴーレム達を連れているとまるで遠足の様な気分になるが、鉄鉱石の採掘をしに来たのだ。
礼儀作法より鉱山開発だ!
「総督は自然信仰派なのですか?」
「自然信仰……もっとも縁の無いものだな。これは、う~ん、なんだろ……昔教わったことだからな……ゴーレム達! 君たちはやらなくていいよ――ただの様式だ」
「……」コクコクコク。
なんとなく昔教わったことだが、この世界にあるいはゴーレムに必要なのだろうか?
本来の目的は産業を発展させること。
現地の宗教観や異教徒への寛容度はわからない。
下手にいいかげんな宗教価値観をゴーレムに憶えさせると、あとで宗教対立や文化衝突なんかの問題になるかもしれない。
……宗教的な価値観や思想はゴーレムたちの前でやらないほうがいいな。
ま、今は気にせずに目の前の開発を進めるとしよう。
「まずは錬金術で最大限分解し、錬成してツルハシを作る」
「はい、マスターでは鉄鉱石を錬成していきます」
「できたらツルハシで掘削開始だ」
――鉱山開発の必要性と開発計画について考えてみる。
いまもっとも不足しているのは何か?
――それは生産力だ!
【錬金術】は優れているが生産力が低すぎる。
5分で【分解】や【再構築】をするってことは――1日に288回はスキルを使うことが可能ってことだ。
例えば1回のスキルの発動で目の前の赤鉄鉱の岩盤を
――すばらしい!
24時間フルで連続発動すれば1500トンぐらいは錬成できる。
――なんてすばらしいことか!
ここでアシスト付き【錬金術】のステップ数の話がはいる。
【収納】、【分解】、【再構築】の3つだ。
【収納】
硬い岩盤から削りだすとき【分解】するが、同時に【インベントリ】に収納する際に能力の限界から
――見た目分解してるようで実際は【インベントリ】にしまってるだけってことになる。だからこのステップを勝手に【収納】と呼んでいる。
【分解】
真の分解はその次で、【インベントリ】内で望む形状にあるいは原子レベルで分解ができる。もちらん
――これを【シン・分解】とよんでいる。
【再構築】
最後に【再構築】で原子レベルで構築して欲しい製品を作ることができる。外で再構築するとニョキニョキと下から順に再構築されていく。これ以外にもインベントリ内でさっきみたいに橋を組み立てることもできる。
――ただし有機物などの複雑で不純物が多いものを再構築するのは難しいらしい。要するに水と炭素を再構築して石油にすることはできないか非常に時間がかかるってことだ。
この【再構築】を使えば
――ちょっと奥さんなんと純度100%の鉄が手に入るのよ! 純鉄が!
ここまでは素晴らしき【錬金術】、その性能の話。
ここからが悲しいかな現実っていう足かせの話だ。
地表に出ている鉄鉱石は残念ながら不純物が多い。
この山は鉱床の赤鉄鉱とその他土砂が1:2で存在している。
赤鉄鉱の鉄含有率は50%だったので、むにゃむにゃ計算すると
――鉄量にして1.7トン!
さらにむにゃむにゃ眠くなる……計算をすると約11回の【錬金術】つまり――ほぼ1時間だな!
――内訳は【収納】5回、【分解】5回、【再構築】1回だ!
このぐらいの時間をかけるとやっと
あれ!? ……【錬金術】って……思ったより使い勝手が悪い!!?
そう生産効率が悪いのだ。
今の脱出計画では部品点数1万個ほどの飛行船に部品点数1万個ほどのエンジンを乗せて1年……いや2年分の食糧を乗せて脱出となる。
1部品に対して1錬金術としたら恐ろしいことに350ソルほど錬金術で部品を作り続けなければならない。
そしてなにより材料は――何が必要なのかいまだに見当がつかない!
たぶんエンジンは鉄製で1トン以上、骨組みは木と鉄で50トン以上、電気系統に銅が1トン以上、燃料にいたっては100トン以上考えないといけない。
完成品でそれだけかかるが実際はエンジンの開発用の鉄だけでおおよそ100トン以上は消費しないとモノは完成しないだろう。
仮に1隻の建造に対して500ソルぐらい時間がかかるとしたら――
慎重に慎重を期して零号機、初号機、弐号機と3隻飛行船を作りたいから1500ソル以上も体育座りしながら待っていれば完成だ!
――いろいろ省いても2隻は作りたいから――そうなるとなんと1000ソルだぜ!!
……3年以上も体育座り……しかも燃料の目途がついてない。
だが悲観する必要はない!
なぜなら錬金術で出来ることは物理的に可能だからだ。
否、物理的にできることの延長に錬金術があるのだ!
ゴーレムが掘削をすれば【収納】ステップは省ける。
鉄鉱石を高炉で溶かせば【分解】ステップも省ける。
そこまでいけば鉄のインゴットを積みあげるだけで【再構築】の必要もない!
加工機械があればネジやバネといった部品も【再構築】で錬成する必要もなくなる。
そう目標は3年以内――1000ソルまでに飛行船の建造だ。
燃料は開発しながら考える。
そのためにすることは――――。
「――と、言うわけでゴーレム達にはこのツルハシで掘削作業をおこなってもらう」
「…………」コクコクコク
…………。
「…………ああ! しゃべって良し!」
「ヘーイ! 総督閣下了解っす!!」
「掘削、くっさく、くっころ!」
「ヒャッハー! 食らいやがれ!!」
「掘削した鉄鉱石はこの【チェストボックス】に収納してくれ。それから私の肩書きは今日から現場監督だ!」
「監督了解ですです」
――うーん現場監督……やはりしっくりこないな。
まあいいや。
なんにせよやることはいっぱいある。
まだまだ生産ライフは始まったばかりだ!
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