第2話 炭焼き窯

 /◆◆◆/


 3時間ほど錬成し20トンの鉄を入手した。この鉄をさらに錬成して炭素を0.45%配合する。――90キログラムだな。


 これで現場の味方――S45C炭素鋼が一応できる。


 なのは単に焼き入れ等が錬金術の再構築では再現できなかったから。




 また飛行船が遠のいたよ……。




 おーけー、ではちょいと長期計画を考えるのをやめて目先の問題を解決しよう――現実逃避は重要だ。



 今欲しいのは高炉を稼働させるための燃料。


 つまり木炭だ。


 やり方は簡単――木材を燃やして木材を炭化させるだけだ。


 そのためにすることは森林の伐採だ。



 鉱山から遺跡まで実に20㎞ほどある。


 森が険しいから遺跡まで徒歩で行き来するのはしんどい……。


 そこで一旦遺跡まで戻りながら道の整備という名目の元、大木を伐採していこうと思う。


 ほんとは伐採したくない――あの虫に刺されてからどうも森っていうのは近づきたくないね。


「――だから遺跡までの道をつくり、ついでに木の伐採をしたいんだアルタ君」


「分かりました監督、邪魔な大木を分解して道を整えればいいのですね」


 ――アルタと一緒に歩道舗装である。


 本当は別々の行動したほうがいいんだが、遺跡以外では一緒に行動していたほうがいい。


 そこら中に化け物がいるからアシスト能力があるアルタの近くから離れるわけにはいかない。


 それにスキル【インベントリ】を使った必殺技(チェスト内の岩を落とす)があるから戦闘面でも頼りになる。




 ……なにか武器を作ったほうがいいんだろうけどどうしたものか。



 道なき道を開拓しながら遺跡へと戻っていく。



 ソル33



「お? やっと遺跡が見えてきたか……」


 ――20㎞の舗装に1ソル丸々使ってしまった。だが遺跡まで戻ってこれた。


 以前とは様変わりして、散乱した石材はみごとな防壁へと……なってはいないな。


 当たり前な話だがその辺に転がってる石を集めるだけでは生産能力が低すぎて足下に石の壁予定地ができてるだけだった。


「すぐにでも鉱山に戻りたいが少しテコ入れするか……」


「では道ながら作ったツルハシを石切場のゴーレムに渡しますね」


「それがいいな、……ところでチェストボックスは作れるのか?」


「可能ですが、ゴーレム製造と同じく1時間ほどかかります」


 ――うーん錬金術の優先度は取り合いが激しい。


 まずゴーレム製造、チェストボックスの製造、いろいろな道具の製造、そして鉄を含めた資源の精練とやれることが多すぎて優先順位がおかしくなっている。


 チェストも使えるから優先度を上げたいが……。


 いま優先すべきがゴーレム労働力なのかチェスト運搬力なのか設備強化なのか……。




 はっきり言って何が正解かわからない。


 わからないときは歴史的な事実に方針をゆだねよう。


 労働力を優先しておけば何とかると証明してくれてるからゴーレムでいいだろう――人口こそ力だ。



「――いまは空いた時間はゴーレム製造にかかってくれ、そして石切り場のゴーレムには手押し車でも渡しておけば何とかなるだろう」



「多分うまくいかないと思いますが、作ってみますか?」


「え? うまくいかないの?」


「ゴーレムのバランス感覚は酷いからです」



 ゴーレムは運動音痴である。原因は石製で2足歩行の制約上重心が悪いからだ。


 物は試しと数体のゴーレムに一輪の手押し車で運搬させてみるが……。



「あ、手がとれちゃった」

「わ、わ、わ、曲がる曲がる~」

「うーんう~ん、動かない。監督! これは壊れてるオブ!」



「……ほんとにダメだな」



「監督は使えるんですですか?」


「――最初の数分はなんとかなるが、以後は両手が上がらなくなるな」


 ――ゴーレム達の冷たい視線を感じるのでそっぽを向いておこう。


「と、とにかく次は2輪あるいは4輪の手押し車を試そう。そうしよう」



 /◆◆/



 ――試行錯誤という名の日曜大工の結果、2輪の荷車に落ち着いた。


 これで作業効率が上がればいいけど、地面が整備されているわけじゃないから期待薄だ。


 それ以外にはソリのようなもの、ボーリング調査でも使う三脚に滑車が付いた吊り上げ具を用意したが満足に使えるか微妙なところである。


 石切り場には鉄製の掘削具も供給する。


 ――ハンマーと石用のノミそして、てこの原理で石を動かすための棒。


 これらもゴーレムに扱えるかは不明ながら使用してみることにした。


「鉄の道具を配り終わったら、もう一度鉱山を目指す」


「監督、次は何をするんですか?」


「それは、もちろん高炉で鉄を溶かす。そのために木炭をつくる」


 ――計画は何も変わっていない。鉱山で鉄を掘って、遺跡で飛行場を作る。



 33ソル目にしては順調じゃないか!



 鉱山への道を歩いているとゴーレムが前から歩いてくる。


 どうやら事故に遭い頭部を損傷したようだ。


「前が見えないですです」


「頭上から鉄鉱石が当たったのか……へこんでるな」


「この程度なら再構築で直ります。が、新しい素体に入れ替えたほうが早いですね」


 ――アルタが新しい素体を取り出し、コアを替える。


 動き出したゴーレムは動きを確認しはじめる。


「こうやって見てると、アルタ君はマザーマシンみたいなもんだな」


「アルタさんはマザーマシンですですか? …………ママ!」


「マッ! や、やめなさい」


 ――あ~すまないアルタ、変なことを言ってしまった。


 さてとそれより、事故率が高いと生産性が低下するから対策を立てたほうがいいな。



 /◆◆◆◆/



 ――鉱山にやっと着いた。


 見た感じ特に変わりはな――壊れているのが多少いるな。



「全ゴーレム達集合ー!!」


 鉱山から掘削音が無くなり、ワラワラとゴーレムが集まってくる。


 ゴーレムを見ると傷ついたりヒビがあったり腕が取れてたりしている。


 不眠不休で作業してるから予想よりも消耗が激しいようだ。




 ――ちなみに週休2日制を導入しようとしたら……


 「僕たちゴーレムから労働を奪うんですか!」、「人間なんかの物差しで労働を語るな!」、「我々は石像ではない、断じて違うのだ!!」


 と、価値観が違いすぎて諦めた。


 そもそも疲労や苦痛という概念が無くて好奇心全振りの謎の労働者の心情を察するというのが無粋なのかもしれない。



「それではマ……アルタ君例のものを」


「(マ?)……分かりました監督」


 ――各ゴーレムに手渡されたのは木のヘルメットである。


 もちろん「安全十第一」の神聖なマークが刻印されている。


 疲労と苦痛が無くとも摩耗するのは変わりない。


 ならば少しでも素体の寿命を延ばしたほうがいいだろう。



 安全ヘルメットを装着し顔の部分にゴーレムコアがモノアイのように光っている。


 それはまるでSFに出てくる労働ロボットのような印象に変わり、鉱山で掘削作業に戻っていく。


 ――なんだろ。なんか場違い感をひしひしと感じる。



 ソル34



 さて鉱山の作業を再開しだしたので、邪魔にならないところで今日の計画を進めよう。


 計画といっても大したことじゃない。


 鉄鉱石を溶かしてインゴッドに精練する。


 そのための木炭をつくろうというだけの話だ。


 木炭を作るために炭窯を作る。


 ではそのためにやることは?


 ――レンガ積みだ!



 /◆◆◆◆/



 ――あれ今日も日曜大工しかしてないような?


 まあいいや、みすぼらしいが炭焼き窯ができた。


 熱を遮断する断熱レンガで窯を造る。


 熱を伝える耐火レンガで燃料室を造り熱が伝わりやすくする。


 裏側には煙突を造り、煙突の先にはの付いた箱を設置する。


 この箱の所で煙を外気で冷やして、木酢液を抽出する――簡易的な蒸留装置だな。


 滴る木酢液を溜めるプールも横付けして準備はおーけー。


「木材をどんどん中に敷き詰めていくぞ」


「了解オブオブ」


 ――アルタの能力ならすぐなんだけど、今は鉱山の開発とゴーレムの教育で手一杯の状態だ。


 代わりにゴーレムを数体を助手として使っている。


「よしできたな、あとは火をつけるだけだ。ゴーレム火をつけてみてくれ」


「カチカチ……カチ?――火が付かないオブぅ……」



 ――私より不器用ってヤバくね?


 あとでゴーレムでもできる火おこし方法を考えたほうがいいかもしれない。


 何とか簡易炭窯に火入れができた。


 何時間燃やしたら横穴を閉じればいいんだったっけ?


 6時間? 20時間? 40時間だった気もする。


 ま、いいか。


 なーに失敗したら再炭焼きすればいいだけの話だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る