第2話 銅分98%配合


 ソル61



 銅鉱脈に群生していたは地表と共に削り取られ、黄金の粉をまぶした鉱床が露出した。ゴーレム達は命令により黙々と掘削をおこなう。一部のゴーレムは更なる銅鉱床を見つけるためにを探し放浪している。



 ――【黄銅鉱】の銅含有率は約30%と言われている。


 だが高品位の黄銅鉱の塊は古代から採りつくされ現在は1立方メートルの鉱脈にほんの数%しか含まれていない。


 コイツは問題だ!


 そこで古代から経験則から知っていた「」を活用してこの問題を解決する。


 近代になって、そのを発展させ工業的に利用することで劇的に鉱物を得ることができた。



 と、言うことで数ソル前に小規模な実験をおこなった。


 我が全財産である【小銭鉱物資源】から10円玉を取り出してこいつに手元にあった油を垂らして馴染むか弾くか調べた。


 鉱物と石には違いがある。その違いのひとつに鉱物は油になじみ、そして水を弾くというのがある。


 このを利用して銅の粉と石の粉をあえて配合して小型の浮遊選鉱ふゆうせんこう装置で分離できるか確認をした。


 もちろん10円玉を砕くのは法律違反なので、たまたま財布の中に入っていた銅の塊を代わりに粉砕して実験をおこなうことにした。


 いや~よかったよかった、たまたま銅の塊を持っていてよかった~。



 実験の結果、パインオイルでなんとか貴金属だけを取り出すことに成功した。


 この実験をソル58らへんでやったこと。



 そして現在、目の前に大型の浮遊選鉱所を建て、銅鉱石を取り出すのだ。


「細かい原理は置いといて、水張ったプールにパインオイルを投入する。そして底から空気送って泡立てる。そしたら粉の黄銅鉱を投入して撹拌する」


「かくはん?」


「マゼマゼするって意味だ。もちろん自動で」


「それでは工場長、空気を送ります」


 ――アルタが合図して水車が稼働した。


 油を利用した多油選鉱は効率が悪かった。


 そこで科学者たちは細かい気泡を油と一緒に用いると鉱物処理量と速度が飛躍的に上がることを発見し――この浮遊選鉱がメインとなった。



 この工程でだいたい20~40%に銅品位が上がる。これだけでも魅力的だな!


 この選鉱後の鉱物を一般に【銅精鉱】って言う。



 さてもし自動化しなかったら――どうなってたか計算してみよう。


 銅鉱脈に【黄銅鉱】は1㎥あたり1%程度だった。


 【黄銅鉱】そのものの銅保有率は35%程度。


 いつもの複雑な計算をすると――100回ほど錬金術で分解を繰り返せばだいたい1.5トンの銅が手に入る。


 やっぱり錬金術じゃ効率悪いや!!



 浮遊選鉱装置の底から気泡が噴出し金属だけを付着して水面へと現れる。


「うーわ……銅の泡がヤバい色してるな! これはメタルだメタルがバブルったスライムだ!」

「うーわヤバいヤババ」

「うーわバブルバブゥ」


「――工場長あまり変な言い回ししないでください。その子達すぐ真似するので」


「……すまない。アルタお母さん以後気を付ける」


「おか!? ……とにかく次の設備も作りますね」



 そう言いながらアルタは【銅精鉱】を溶かすための次の行程である熔鉱炉を作り始めた。


 ――待って! にょきにょきタイムを勝手にやらないで!



 /◆◆/



 ――本家に比べれば小さい炉ではあるがやっとできあがったか。


 にょきにょきでつくったのは【自溶炉】、なんでこんな名前なのかというと勝手に発熱して溶けてくれるからだ。


 理論的にはとても眠くなる化学反応を経ると――発熱して、その熱化学反応で身で錬させるすばらしいってことだ。


 とはいえ火種は必要だからアツアツの木炭を投入して炉内を暖めておく。


 そしてパインオイル製造時の木片を燃やして【自溶炉】に供給する空気を温める。


 あとはいつものように【銅精鉱】の粉と木炭の粉を炉内に投入する。


 おっと忘れるところだった、ケイ砂も投入しないとちゃんと反応しない。


 ケイ砂は……その辺の石や石英に大量にあるから適当に分解して手に入れた。



 自溶炉に投入された【銅精鉱】は含有する硫黄と鉄とケイ素が供給する酸素と化学反応を起し、その反応熱で燃料が無くても高温になり分離していく。



「うん、いい感じに発熱反応を起してるみたいだ」


 木炭でうまくいかなかったら軽質油や木タールを精製して燃料バーナーを吹きかければ何とかなると用意しておいたけど、特に必要はなかったな。


「これで【銅】が手に入るんですね」


「残念、できるのは【硫化銅】だ。まだまだ勉強不足だなゴーレムちゃ~ん」


「ゴーちゃん間違っちゃった、てへ」


「……言い回し」


 ――アルタの視線と声が刺さる、とても刺さる。



 ごほん……この熔鉱炉で【銅精鉱】は溶けて、下に【硫化銅】が、上に珪素と鉄の【スラグ】ができる。


 だから上下2つから掻き出す出口が必要になる。


 これで銅の品位は理論上65%だ。ウッヒー!


 風を送って勝手に発熱するのを眺めるだけで最初のみすぼらしい1%鉱物が65%ですよ。


 これこそが自動化これぞ大量生産ってやつよ。



「さあ、次は転炉でさらに品位を上げるぞ!」


「工場長、掘削量が少ないのでもう少しお待ちください」


 ――ぐぬぬ、仕方がない鉱山の整備とゴーレム鉱員を増やすのに時間を割くか。


 もっと品位の高い銅鉱床が見つかればいいんだけど――。



 ――そこへ放浪していたゴーレム達が報告のために戻ってきた。



「工場長! 青い花いっぱい咲いてるとこありましたよー」


「本当か!」


「あと工場長、石好きですよね。緑の石です」


「いや別に鉱物マニアじゃないぞ。鉱物の分離マニアであって……ってこれは蛇紋岩じゃないか」


 ――この蛇皮みたいな見た目は間違いない。


 つるつる滑るからちょっと危険なんだよな~。


 まてよ!? たしかコイツに天然で石綿が生成するから……


「アルタ君コレすぐにしまって、怖いからしまって」


「わかりました。この山脈一帯に危険な鉱物がないかゴーレムに調査させましょう」


「ああ、よろしく頼む」



 ソル66



 調査によりさらに亜鉛鉱床、錫鉱床を見つけたが銅鉱山から10㎞は離れていて埋蔵量も多いわけではなかった。人的物資的リソースが制限されていることから、むやみな開発はせず必要に応じて採りに行くことになった。


 ――結局、銅山の大規模化と安定供給に5ソルも費やすてしまった。


 そのうちの1ソルは鉄鉱山までの歩道づくりと石灰岩の採石所の拡大だったけど、気にしてはいけない。


 片道切符になるがレールを敷いてトロッコ通勤はいいかもしれない。


 鉄は毎ソル1トン生産出来てるのだから、よりよい環境づくりに使わねば。


 いいね~ワクワクしてきた!



 /◆/



 ――それでは前回の続き【硫化銅】ってのは銅と硫黄の化合物。


 硫黄って邪魔物なので取り除かなければいけない。


「――ではそのために必要なことは?」


「ヒャッハー汚物は消毒だー!!」


「そうだね。燃やしちまおう!」


 ――という発想のもとに古代からフイゴで酸素を送って脱硫黄をおこなってた。


 古代人にできることを正当後継者である現代原始人にできないはずがないウホ!


「ということで転炉に火を灯せー!」

「あいあいさー」



「フイゴから風を転炉に流し込めー!!」

「あいあいさー」


「【硫化銅】を投入開始しますね。工場長」


 ――この転炉でやっと【粗銅】という98%ぐらいの銅ができる。


 フイゴから酸素が送られて硫黄が二酸化硫黄になり上部から大気に放出される――


 ――いやいや! 資源の無駄にはできないから全部回収インベントリだ!!


 この一連の工程で一応鉄が【フェロシリコン】として手に入る……がスラグ化しているので取り出しは考えてない。


 まあそのうちなんかで使えるだろう。



 /◆◆◆◆/




 転炉から溶融した銅を凝灰岩の型に流し込む――いわゆる石型鋳造である。



 ――【粗銅】が手に入った!


 のだが……。



「工場長、炉が壊れてもう使えませんよ」


「……なぜだ…………うーん」


「分解してみましたが、ケイ素が無くなってますね」


 ――なるほど、少し考えてみよう。



 なぜ【自溶炉】にケイ砂を投入するのか?

 ――それは熱反応でスラグを造り、銅と分離させるため。


 もしケイ砂の投入量が少なかったらどうなるか?

 ――耐火レンガに含まれているケイ素を消費してスラグができる。


 ではなぜなぜ解決法は?


 ………………。


「――そうだね、掘削だね」


「今度は何を掘削するオブか工場長?」


「それはマグネシウムだ!」


 ――要するにケイ砂の投入量が少なかったのとレンガの素材が問題だと思われる。


 レンガを構成する岩石にはケイ素がかなり含まれている。


 だからこの問題を解決するにはケイ素が少なくて耐火性のあるレンガを作るしかない。


 ということでマグネシア系耐火レンガを作る。


 この辺はカタログで名称を知ってるだけだから、ほんとうに効果があるのかはしらない。


 理論化学的には上手くいくだろう、ダメだったら別の手を考えればいいだけだ。


 時間さえかければどんな鉱物も錬成できるんだから問題ない。



 レンガ工学ってのを学んでおけばよかったってつくづく思うよ!



 とにかくマグネシウムがありそうな石灰岩採石場に行ってみよう。


 そして【ドロマイト】を見つけねば……。



 /◆◆/



 ――というわけで、手に入れたのがドロマイト。


 ふ~手に入ってよかった!


 小一時間ほど採石場を掘り返したかいがあるってもんよ。


 そしてこれからマグネシウムを取り出して酸化マグネシウム――マグネシア耐火レンガを製造する。


「まあこの辺はほんとよくわからないから、ドロマイト主体のレンガとマグネシアと石灰を混ぜたレンガなど数種類作って何とかするしかないな」


「それでは錬金術で各耐火レンガを作っていきますね」


 ――小規模実験は錬金術でいいとして、ゴーレム達に任せるとなると炉用の材料が大量に必要になる。


 そうなると、またまた窯を作って楽しいレンガ焼の時間だ。



 ソル76



 ――うん、たしかに10ソルぐらい前に楽しいって思った気はするけどさ……


 長かった! ほんとに!!



 だが苦難の末、新たなレンガができた!


 別件でいまだに全身打撲で痛い……。


 負傷も多くて……いや忘れよう忘れるんだ。


 休息も多めに取ったし、そろそろ活動を再開しよう。



 もっとポジティブなことを考えよう。


 もはやこの世界で一番のレンガ技術者を名乗ってよいのでは?


 この間に先進的なレンガ窯を作るために一度遺跡まで戻り、窯をいくつも並べてとにかく順番にレンガを作れるようにした。


 本当は自動化ラインの工場を作りたかったんだけど、あまり大規模な製造工場を作っても燃料という名の森林伐採が問題になる。



 …………はぁ……石油がいや石炭でいいから欲しい……。


 ないものねだってもしょうがない。


 そんなわけでレンガ窯1号から新鮮な耐火レンガを大量にかき集めた――現在2号から6号まで順番に毎ソル火入れしている。



 端的に言うと毎日レンガができる!



 準備はできたし、銅関連の設備も【インベントリ】にしまって鉄鉱山周辺に移設できた。


 ふふふ、ついに【発電機】を作るための【銅線】を作るための【銅】ができるってわけだ。



 ……まだまだ先は長いな!



――――――――――――――――――――


製造工程


 黄銅鉱(粉) + パインオイル → 銅精鉱 → 硫化銅 → 銅マット → 粗銅

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