第3章 銅の時代

第1話  浮遊選鉱準備

 

 彼らは唯一の希望である飛行船による大森林からの脱出を計画した。


 彼らはそのために効率よく地下資源を採掘することを目論んだ。


 彼らは計画実行するための電気工学の発展を夢見た。


 彼らはそれを実現するための発電機を欲した。


 彼らはその構成部品である銅線を望んだ。


 彼らはその材料となる銅を渇望した。


 だから青きGossan銅に群がる。



 ソル60



 明くる朝に準備を整えた一団が、の防壁を踏み越えて東へと進む。

 鉄鉱山よりさらに東に10㎞以上進み、ついに森林限界線を踏破した。


「ゼェゼェ……というわけで……山脈のふもとまできました……ハァ」


「工場長大丈夫ですか? 体力無いんですから気を付けてください」


「ありがとうアルタ君……ハァ。さっそくゴーレム達にワームの立ち退き交渉をしてもらおう……ふぅ~」


 独特な燻製臭を醸しながらワームの穴を巡ってゴーレム達が前進する。木酢液は複雑な化合物が何種類も含まれ、殺菌や害虫対策で農薬として使われることもあった液体である。

 その効果が巨大なワームの魔物にも及ぶことを願って、大量の原液を流し込む作戦に打って出た。



 /◆◆◆/



 ――それなりに時間がたったが、まだまだかかりそうだな。


 そういえばついに森を脱出したんだ!


 周りは【石灰岩】の岩石地帯になっている。


 多分この【石灰岩】が高木の生育を妨害してるんだろう。


 さて待つ間に【石灰岩】というすばらしい資源の掘削と道路舗装をしてしまおう。


「アルタ君は道になるように【石灰岩】の分解をしてくれ。それからゴーレムには掘削機での掘削をするように」


「わかりました工場長」


「私は作業場所の選定と石灰岩の置き場所を計画する。そうだ! 目印が欲しいから木の棒をいくつか出してくれる」



 ――この棒で区切りを作って地形に沿うように段々を形成する形で採石してやろう。


 この段々ができるやり方をベンチカット工法っていって、スーパー戦隊ヒーローがいつも戦ってる採石場を形成する。


 そうつまり特撮空間を作れるのだ!


 やべーなゴーレムを5色に色塗りして後ろで爆弾爆発させたくなってきた。


 すっげー楽しそう!!



 石灰岩の地形に沿って棒を立てていると、遠くからワームの鳴き声が聴こえてくる。山脈中から反射して聞こえるが時間とともに離れていくのが感じ取れる。



 ――離れてるから確認できないが……ワームは逃げ出してくれたみたいだ。


「――もう少し近くてもよかったかな?」


「いいえ、興奮してこちらにこられても困ります。我々には自衛手段すらないのですから」



「……脆弱なゴーレムと脆弱な人間か」


 ――ゴーレムは弱い、無理やり人の形に収まるようにした結果、軽く脆い構造になったからだ。


 だから槍を持たせても戦ってるうちに木の手、石の腕はすぐに割れてしまうし弓は弦を引くこともできない。


 ツルハシですら長くは使うことができないのだからしかたない!


「鉄で補強できないのか?」


「――補強はできると思いますが、まだ鉄は貴重です。製造コストを考えると木材による補強が精一杯です」


「ゴーレムの改良は別の手を考えるか……」


 ――今のゴーレムは馬力でいうと0.1馬力程度、もう少し強化できればいいんだけど、材料が足らないからどうしようもないな。



 まあ今は資源採掘だ。


 石灰岩はゴーレムに任せて奥へと進もう。



 /◆/



 山脈近くには所々に穴が空いていて、そこから燻製の匂いが立ち込めている。この山の主ワームたちは山脈のさらに奥へと逃げて行った。ワームの巣と銅鉱脈の地層周辺には青色のコスモスに似た花が咲いている。



 ――問題なくここまでこれた。


 この険しい山脈の奥も調査できればいいが……まだ先だな。



 お、これが【黄銅鉱】か!


 それにこの辺に生えている高山植物は覚えておいたほうがいいかもしれないな。


 さてこの鉱物が本当に探し求めていたモノか調べなければいけない。


 だからここは文明人らしく知的に調べようと思う――そうこのハンマーで!



 カンカン ガン!



 ハンマーで青色の鉱物を砕いてみると黄金色の筋があらわれた。



 銅はサビると緑青ろくしょうが発生する。


 昔の10円玉が青いカビのようなので覆われるアレだ。


 天然の【黄銅鉱】も長い年月で酸化し青色になる。


 ということは割った直後は黄金色になるってことだ――いいね。



 けど大きな【黄銅鉱】はあまりなさそうだ。


 ワームの巣から掻き出されたものなのだろうか?



 まあいいや、とりあえずやることはいつも通り――。


「さあ作業の開始だ! 木材を燃やせ! 水を用意せよ! いくぞーくっさく!!」


「掘削! 掘削!」「くっさく! くっころ! くっさく!」「さくさくオブオブ!」


 ――そうやることは一緒だ。


 マグマダイバー採掘でゴーレムに掘削を任せ、次に水車破砕機で砕いていく。


 とにかく粉々になるまで破砕を繰り返す。



 /◆/



「――よしよし順調に稼働しているな。貯蔵場所に貯めてる間に新しい装置を稼働させる」


「わかりました工場長、動かすのは例の装置ですか?」


「そう、水蒸気蒸留装置だ!」


 ――水蒸気蒸留はアロマオイルやハーブ水を作るのに使う装置だ。


 やりたいことは料理用の蒸し器とたいして変わらない。


 だから原理を知っている人は調理具で自家製ハーブオイルを作ったりできる。


 今回投入する材料は【パイン材】、そして精製したいのは【パインオイル】だ。



 だがここで問題がまたまた発生する。


 松の木の木材がパイン材なんだけど……ここは異世界。


 まごうことなき異世界。


 巨大昆虫にワーム、話によると巨大クマとか大イノシシとかマジでヤベー異世界。



 ――ではそんな異なる世界の木は本当に松なのだろうか?



 ということで調べることにした――いや調


 前日までにをおこない使えることは確認ができている。



 実験しなくても松ヤニってのは燃えやすい物質だから、それを大量に含んでる松は火をつければすぐにわかる。


 燃やさなくても独特な臭いですぐわかる。


 あとは木炭づくりの時、上澄みに軽質油が採れるのも松科の植物がある目安になるだろうね。


 まあ要するにこれが松ポイ燃えやすい植物だって検討はとっくについていたのだ。



 もっとも植物油パインオイルが欲しいから今回は燃やさない。


 この植物油パインオイルの特性が重要で、熱分解で【軽質油】に変化しては困る。


 この蒸留方法なら沸騰する比較的低温でいいから火の扱いが気楽でいい。


「――という訳だから爆発しません、そこワクワクしない」


「ば、爆発しないの!?」「工場長それはなにかが間違ってます!」



 工場長はゴーレムの苦情を無視して水を沸騰させる。

 水蒸気蒸留器の内部ではパインオイルと水蒸気がタンク上部の管を通り冷却されながら隣のタンクに貯まっていく。



 /◆◆◆◆/



「松の香りが漂ってるな」


「……工場長、わかりません」


「香りってなに?」「工場長鼻だいじょうぶ?」


「……その、ごめん」


 ――そういえばゴーレムに嗅覚無いんだった……。


 まあ、それはいいとして上手くいってる様なので順調だな。


 精油した【パインオイル】は鉄のドラム缶に移してインベントリにしまって一応の完成だ。


 さてこの異世界松材……イセマツでいいや――からどのくらいのオイルが採れるか計測してみた。


 結果は10㎏のうち1㎏ほどだった――10%抽出できたぜ!


 つまり1トン欲しいならイセマツを10トン伐採しないといけないってことだ。


 10トン! ひゃっほー!!


 さらに蒸留に燃料として木材を使うけど深く考えるのはやめよう!


 そもそも必要量が分からないのが問題だ……まあできるだけ多めに作っておけば何とかなるだろう。


「工場長! 工場長! なんで最初から作ってなかったですですか?」


「遺跡で少量の実験はしていたが、ワームが逃げ出さない可能性もあったからね。そしたら木材の無駄だろ」


「そうなのー?」「そうなんだー」


 ――まあなんにしても材料はある。


 次の工程は浮遊選鉱だ。



 ……ってもう夜じゃないか!?


 まだ掘削には時間がかかりそうだし……。


「工場長睡眠の時間ですよ。夜のうちに選鉱設備を作っておきますのでお休みください」



 ――うーん、寝よう!


 浮遊選鉱は明日からだ。


  テントを張って魚と野菜を採って。


 お休み……。



――――――――――――――――――――


製造工程


石灰岩 → 石灰


松 + 蒸気 → パインオイル

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る