第4話 工場長!!


 ソル42



 集合をかけてからゴーレム達が鉱山に集まるのに1ソルを要した。現在作業しているのは一部の農業ゴーレムだけである。

 その間に鉱山周辺は様変わりしていた。森の木々は斧で伐採され、空き地の一角には錬金術で建築した建物ができていた。

 集まったゴーレムたちは建物の前に整列し、その主を見つめている。



「ゴーレムたち、いままで手作業で苦労を掛けた。だがあの馬鹿げた仕事は終わりだ! あの無意味な命令をだした私を許してくれ……」


「オヤビン、そんなー」

「あれ無駄だったの?」

「そんな気がしていたんだ。土を掘り返して草を見つめるだけとか」

「ハンマーで叩くの楽しかったのにー」



「これから作業は変わる。今日はその始まりの日だ! 工場の稼働日だ! それから私のことはこれからと呼ぶように」


「……工場長?」


「――工場長」


「工場長! 工場長! 工場長!」


 意味を理解せずに掛け声を叫ぶゴーレムたち。


 ――うん、なかなかおかしな状況になってきた。


 けど仕方がない。


 これはやり方を劇的に変えるための儀式みたいなもんだ。


 そしてこれからが本番だ。始めようじゃないか盛大にな。




 異世界よ、我らがマイナー学問の力にひれ伏すがいい。




「アルタ君、準備はいいな。水を流してくれ」


「わかりました工場長。それでは稼働させます」


 ――やることは簡単、工場を建てて、自動化し、問題を解決する。




 本当に単純な回答だ。


 だがそれが重要。




 今までの問題は何か?

 答え――力不足による作業能率の悪さ。



 どんなに体を鍛えても腕力には限界がある。


 古代から現代まで腕力だけじゃどうしても解決できない難問だ立ちはだかってきた。


 だけど、人類はその問題を知恵で解決してきた。


 例えば馬や風車、そして水車の回転力を動力として活用してきた。


 だからこの工場には水車がいくつもある。


 ただし全面木板で覆われているのでわかりにくい。




 それではこの木材炭化工場の最初の行程から見ていこう。


 木材を木炭にするにはまず木を伐採しないといけない。


 この水車は鉄のやいばを回転させて大量の木を切断していく。


 薪ぐらいの大きさになったら水分をとるために天日干しにして放置する。


 そういえば雨が一度も降っていないのが幸運だ。


 今のうちに乾燥するまで放置だ。


 これが伐採加工のラインだ。


 だが乾燥には何ソルもかかるからアルタに水分だけを分解で除去したものを用意してもらった。


 ――乾燥したものをもう用意してある。3分クッキングはいいアイデア!




 乾燥した木材は次の行程に移る。


「ゴーレム、その投入口から木材を投げ入れてしまえ」


「ヒャッハー! どんどん投入じゃー。 ……入っていい?」


「君は入っちゃダメ」


 ――最初の工程は切断を行い、次の工程では鉄製のミルクラッシャーの歯で破砕する。


 文字通り粉々に粉砕していく。


 これで木チップが大量に手に入る!




「アルタ君、水車の調子はどうだ?」


「はい工場長、順調に動いています。も問題ありません」


 ――この工場の最もナイスなアイデアは水車ですべてを動かしていることにある。


 水は【インベントリ】から無尽蔵に供給し水車の羽を回転させ、仕事が終わって落ちていく水を【インベントリ】に回収する。


 ハハハまるで永久機関じゃないか!


 異世界じゃ特許法がぶっ壊れるな!!


 ――魔法的な何かを膨大に消費しているか――あるいは回数制限があるのかもしれない。


 …………深く考えるのを止めよう。


 なーに、この方式が使えなくなっても別の手段に変えればいいだけだ。


 永久機関と言っても万能ではない。


 ちょっと計算すればすぐにわかる。


 では計算してみよう。


 重力加速度は9.80665m/s2だけどココは異世界、わかんないから計算しやすく10で計算する。

 落差は2mほど、流量はわかんない。水車の効率不明。



 おーけー計算は諦めよう。



 結果だいたい5の水車が誕生した。


 75㎏の重り5個を1m上方向に動かせたんだから間違いない!


 この水車の勝因はたぶん上から水を掛けるから効率がいいんだと勝手に解釈している。


 10㎏以下しか持てないゴーレムが0.1馬力とするなら50倍の出力を手に入れたってことだ。


 しかも奥さん電気代も水道代もかからない無料です。無料です!


 眠くなる単位換算をすると約3.7kwがタダで手に入るけど冷静に考えればたかが3.7kwでしかない。


 異世界の空模様はわからないけど嵐が無い世界ってのは想像がつかない。これじゃあ飛行船を動かすには心もとない――最低でも100馬力はほしいよな~。



 まあ難しく考える必要はない。


 要は0.1馬力300体の縛りプレイが、5馬力水車の数だけに変わったってことだ。ひゃっほーい!



「よし、ミルが回転してるな木材投入!」


「了解工場長、入れます入れます」


 回転するミルにより乾燥した木材は砕かれて下の開口部から出てくる。


「よし、想定通り、下の階のゴーレム! 詰まったらレバーを引いて水車を止めて、その棒で掻き出せ!」


「はーい工場長、ツンツンするオブオブ」


「アルタ君、次の水車もまわすんだ」




 木材チップの溜まり場の下には次の工程が待っている。


 次は自動炭化炉だ。


 全体を耐火レンガと耐熱レンガで覆われた長方形の設備。


 他の設備と同じく横に水車が付いている。


 この水車がまわすのは刃物ではなくスクリューである。


 この設備は耐熱断熱レンガを【コの字】に積んでいる。

 

 建設工程を早く終わらせるために錬金術で接着してるから不器用DIYの心配はない。


 欠けた1辺を耐火レンガできれいにまっすぐ埋めて四角いパイプのようになっている。


 「工場長、これがですですか?」


「ちげーよ、なぜそういう知識があるんだこのゴーレム……ああ、私の記憶が入ってるのか」――まあいいや。


 この四角い型の炉は1辺1mで幅10m以上あり、穴の中をスクリューが通っている。


 下側が耐火レンガになっていて、そこで木材が燃えている。


 つまりこのスクリュー炉自体が窯みたいなものになっているのだ。


 ピザ窯みたいに燃料口が1m間隔で設置してあり、合計10カ所にどんどん燃料の薪を投入していく。


「工場長! あの回ってるのなになにオブ??」


「アルキメディアン・スクリューといって――」


 ――本来は螺旋状のスクリューを回転させて筒の中の水を汲み上げるのに使う装置だ。


 が、こうやって物体を移動させるスクリューコンベアとしても使うことがでる機構だ――


「――判った?」


「う~ん……全然分かんないオブ!」


「問題ない。すべての原理を知って仕事をする人なんていやしないから」


「工場長! じゃあじゃあ地面で回転させるとどっちが動くのー?」


「なかなかシャゴった発想だな。あるんだよ地面にスクリュー設置して動く乗り物――そのアイデアありかもしれないな」


 ――仮に地上を走破するなら――この未開の地では無限軌道より水陸両用スクリュー車のほうが信頼性がある。


 ハッ世界が赤く染まりそうだ――このアイデアは封印しようそうしよう。




 お、炉が暖まってるな。


「砕いた木チップを炭化炉の中に入れろー」


「了解了解工場長!」


 ――炉は少し傾いてて、スクリューで下に運ばれる木材、上に流れる木ガスに別れる。


 スクリューコンベアで端まで移動した木炭は穴から下に落ちる。



 

 前の経験則と歯車の比率からスクリュー炭化炉から出てくるのに7ソルかかる計算――あとで出来上がった仕上がりを見て調整すればおーけー。



 ここまでにゴーレムの手作業は木材の切断と投入そしてスクリュー炉への燃料投入ぐらいである。


 あとは全部自動だ! 素晴らしい!!



「あとは【インベントリ】無しで動けば完璧だな」


「今は【チェストボックス】の製作をしてるので、もう少しお待ちください」

「期待してるよアルタ君!」


 ――【チェストボックス】から水を出して【チェストボックス】でする。


 出し入れだけゴーレムが操作すればいいからこの操作も問題ないだろう。


 そうなるとマザーマシンの製造優先度は当分の間は工場設備、チェストボックス、ゴーレムにしてもらおう。


「出てきた木炭は湿ようにチェストボックスに保管すること」


「分かりました。工場長!」


 ――7ソル後にこの工場で最初の木炭ができあがる。


 その間に鉱山の自動化にも着手しなければいけない。


 やることはまだまだたくさんある。



 /◆/



 稼働した工場を見つめしばし考える。


 ――とある映画に火星はどの国の領土でもないので国際法の適用外となり、海事法が適用されるというエピソードあった。


 ――つまり火星は国際水域ということだ。



 実は映画を見た後に気になっていろいろ調べたことがある。


 先の海事法は、というマイナー条約が前提としてある。



 では異世界はどうだろう? 



 ココもたぶん宇宙に属してるんだから適用されるだろう。


 ならばここも国際水域ということだ!


 なかなか面白い。


 そうなると、この工場は国際水域上にある海洋施設になるのだろうか?


 ところがこの工場、化け物が襲ってきたとき【インベントリ】に収納して逃げられるように基礎に固定されていない。


 つまり――こいつ動くぞ!


 そうなるとこの工場は国際水域を移動する船ってことになる。


 ならば船舶の慣例に従うほうが無難だ。


 つまりこの工場には女性名詞が相応しいと言いたいわけだ。


 これって超面白い!


 ――そんなことを考えていたせいか、ちょっと呟いてしまった。


「やあ、お嬢さん。これからよろしくね」


「………………工場長、私にもにもなにも言いませんでしたよね?」


「ふぇ!?」


 ――ゴーレム達は無機物だ。


 そうなると国際水域を自由に航行する船舶ってことになる。


 ってことはようするに――ゴーレムはみんな女性ってことになるな!


 まってまって! アルタ君。キミにはいつも感謝してるよ!


 だからそんな冷たい視線でこっちを見ないで!!


…………。


 ――ごほん、には他にもいろいろある。


 国家による惑星の全部または一部の所有を禁止するとかね。


 だから本当は植民地にはできない。残念……。


 けどココからが面白い、アメリカで【2015年宇宙法】が成立して、なんと個人・法人による宇宙資源のが認められちゃったんだ!


 ――これは民間ビジネス発展のためにだ。


 私はいま異世界にいる。


 ここは見渡す限り宇宙資源で埋め尽くされている国際水域だ。


 あの森も鉱山も資源開発するならば全部私の所有物になるってことだ!


 最高にクールだ! たぶん何かが絶対間違ってる!!




 まあつまり資源開発を正当化する根拠はあるってこと。


 だからこれからどんどん開発を進めて、絶対にこの森から脱出して見せる。絶対にな!



――――――――――――――――――――


レシピ?


製造工程!


大木 → 薪 → 木チップ → 木炭 + 木ガス

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