第5話 マグマダイバー掘削


 ソル43



【インベントリ】から供給される水により今日も水車は回り続ける。いくつかの行程は【チェストボックス】に置き換わり、ゴーレムが水車を回し続ける。水は必ず回収するが徐々に外へと漏れ出していく……。



 ――【木炭】の量産体制はできたので、今日は鉱山掘削の自動化に取り組む。


「工場長~この液体はどうすればいいですですか?」


「……おっと完全に忘れてた。【木炭】を作っていればトン単位で手に入るし――取りあえず山脈ワームの巣にでも放り投げといて」


「たのしそー」

「行く行く!」

「イーハー!」


 ――ほんと彼女らは楽しそうだ。こいつは負けてられないな。


 さて木酢液は炭化炉が稼働している限り常に産出する資源だ。


 鉱山の前にコイツの扱いを考えておいたほうがいいな。



 炭化工程で乾留により【木ガス・高温】が発生する。


 このガスが外気に触れて温度が低下し液化すると大まかに4つに分離する。


【軽質油】【木酢液】【木タール】【木ガス・常温】この4つだ。



 目の前の液体は1ソル放置してるがまだ分離は始まっていない。


 放置しとくとそのうち、上澄みの【軽質油】、水分豊富な【木酢液】、そして下に沈殿している【木タール】の3つに分離する。




 この3つのうち【軽質油】はエンジンの燃料になる。


 もっとも木材1トンあたり10㎏、ようは1%程度しか取れないって言われてる。


 必要な燃料の量はこれから作るエンジンの性能で決まるから、正直分からない――けど100トン以上は必要だろう。


 そうなると木材は最低でも一万トンを木炭にしないといけない。


 コイツはクレイジーすぎる計画案だ!!


 だからこの軽質油は用途無し。


 残念だけどもっと効率のいい燃料を探さねばならない。




 水分多めの【木酢液】は農薬として使われていたらしい。


 効果のほどは分からないけど正式な農薬じゃないから御察しだろうが無いよりかはマシ。




 【木タール】は……何に使えるんだ?


 防腐剤でいいや。コールタールと同じだろう。


 ということで石ゴーレムの木材部分の防腐処理として有効活用しよう。




 それにしても【木ガス・常温】をそのまま空気中に排出するのはもったいない。


 プールに溜めて分離するまで何十ソルも放置しておくのもいただけない。


  残念ながらゴーレムは上澄みだけ取り出すとか、底にたまった木タールだけ取り出すとかそんな器用なことはできない。


 とにかく装置作って稼働させて、改善してを繰り返して自動化を進めるのだ。


 筋肉で問題を解決できる現代人とは違うのだ。


 原始人いや岩人を舐めてはいけない――本当に仕事の効率悪いから。


「不器用な工場長に言われたくないですです」


「そーだそーだ。一緒に仲良くぶっきーオブ」


 ――ええい、惑わされるな。


 できる限り自動で問題を解決する――これは絶対だ。



 だから少し近代化してやろう。



 /◆/



 ――ということでほんの少し改良して煙突から配管を伸ばして小さい蒸留塔につなげることにした。



 この蒸留塔はスクリュー炭化炉の余熱で常に底が熱せられてる。


 塔の底にはアツアツでも液体の物質が溜まる。


 真ん中に沸騰しない範囲の水ぽい液体が溜まる。


 上部に常温なら液体の油が溜まるって感じに分離する工夫がしてある。


 常温でガスのままの物質、二酸化炭素とか可燃性ガスとかは塔からさらにパイプで運んでタンクに溜めれるようになっている。


 「二酸化炭素を集めて何に使うんだ?」って思うかもしれないけど、不燃性のガスっていうのは燃焼を抑えたり、消化剤としても使えるからあれば便利。


 いつ使うのか――今ではない。まあそのうち需要が出てくるだろう。




「準備オーケー、鉱山開発だ」


「工場長、まずは掘削の自動化ですね」


「そうだ。水車掘削装置を作り、粗削りの【粗鉱そこう】を大量採掘だ」


 ――今のところ最も優れた永久機関だから有用活用しなけれいけない。


 水車様マジサイコー。


「と言うわけで、三脚作って真ん中からクギを地面に打ち込む装置を作ります」


「工場長、もうツルハシいらない?」


「まだ使うから、投げ捨てようとするな!」


「なんだ使うんだ―。それならそういうオブ」


「……ゴホン、水車でパイル……あ~重りを巻き上げて自由落下でクギを打ち込む装置を作る。出来たらさっそく試験だ」


 ――ボーリングマシンと基本構造は同じだからなんとかなるだろう。


 試験場所は鉱山の崖になっているとこ。


 この上にパイルバ……釘打掘削機を設置し掘削していく。


 採れた鉄鉱石は崖の下に落としていくっていうものぐさ仕様。


 ある程度貯まったら回収すればいい。


 このほうが脆弱なゴーレムで運搬するより安全かつ楽チンなんだから仕方がない。



 そしてここからがちょっとした工夫。


 材料工学の試験のひとつに【熱衝撃試験】といういかにも恐ろしそうな名前の試験がある。


 だけどやってることは急な加熱と冷却を繰り返して材料が壊れるのを観察したり壊れないように対策したり割と地味な試験。


 そこでこの概念を流用して、まずボーリングでゴルフホールの穴をつくり、その穴に燃え盛る木材を投入する。


 あとはお手製の空気送り器で酸素を送り、高熱に熱せられた鉄鉱石の穴に水を流し込んで急激に冷やして岩盤に熱衝撃を与えるって寸法さ。


 ツルハシなんか使わずに最初からこうしてればよかった。


 良くも悪くもゲームのイメージってのは影響が大きいってことだ。



 この素晴らしいメソッドに名前を付けよう。



 そうその名も――マグマダイバー掘削だ!




 この熱衝撃による掘削法は正式には【火力採掘】と呼ばれ、古代エジプトなど各地で紀元前から伝わる掘削法である。中世、黒色火薬などによる爆破掘削が台頭するまで、実に数千年間行われてきた伝統的な掘削法だが、今では忘れ去られた古い掘削法でもある。



 ソル44



「木材を燃やせ~えいえいおー」


「水を流せーどひゃーどひゃー」



熱した岩盤に冷水をかけ沸騰の湯気が上がっている。



 ――やったうまくいった!


 熱衝撃がうまくいった!!


 先行して錬金術ボーリングで穴開けて試験採掘がうまくいってよかった。


 熱衝撃与えるまでに結構かかったけど成功だ。


 あとは鉱山を燃やし続けるだけだ。


 ふふふ、もっとだもっと燃やすのだ。



 /◆/



「さて掘削の目処は立ったから次は――」



 ――採鉱のフローを確認しよう!


 鉄鉱山から採掘される【粗鉱そこう】は巨石から砂利まで様々ある。


 扱いづらいので破砕機を使ってゴリゴリ砕いていく。すべて砕くのじゃ。



 砕いた【粗鉱そこう】には不純物が混じってるので選鉱機に大量の水と【粗鉱そこう】を入れて水車で振動を与える。


 この振動により軽い非鉄鉱石と重い鉄鉱石を振り分ける――比重選鉱ってやつだ。



 磁力ドラムで鉄分豊富な砂鉄を選別する磁力選鉱により【精鉱せいこう】する――磁石がないけどな!!


 だから磁力選鉱は今回は省く。



 次に粉状だと保管しづらく、さらに高炉に投入しづらいから熱して焼結す。


 これで粉を固めた【焼結鉱しょうけつこう】ができるはずだ。




「――これで大まかな全体像が見えてきたな!」


「工場長! たいへんです。ぜんぜん理解できなかったオブ!!」


「問題ない。しらないのが普通だし、ゆっくり実践しながら覚えていけばいいよ」


 ――さあ計画は立てた。さっさと破砕機を作ってしまおう!



 /◆/



「工場長! ロープが切れました!」

「なに!?」


 ――ロープそれは遺跡に生えてた雑草で作った紐の束。


 30ソルの汗と涙の結晶……。


 掘削機の重り持ち上げに使っていたが、素人ロープが現場で使えるわけがなかった。


 うん、普通に考えて当たり前だよな。


「おーけー、ならばクランクですこし持ち上げて自由落下を何度も繰り返す振動掘削方式に変更だ」



 /◆◆◆◆◆◆/



 ――なんだかんだ掘削機の改良と台数を増やすことに注力し続けてしまった。


 ネックはやはりゴーレムの力不足。


 掘削した後に水車を動かさなければいけないけど、これが大変。


 丸太を敷き詰めて押したり引いたり、古代人ごっこしてみたけどゴーレムが何十体も必要で――しかも壊れる!


 この案は破棄した。



 次に中世よろしく馬車みたいなのに掘削機を乗せて移動させようとしたけど、労働家畜いないとやっぱりゴーレムがダース単位で必要になるからこれも却下。



 ということで最後は近世さん、こんにちは!


 アルタにトロッコレールを錬成してもらってその上を掘削機が移動することになった。


 【文明の光こうろのひ】の前に鉄道を設置するっていうミラクルファンタジーをやってのけてやった!


 掘削が進むたびにレールを移動させないといけないが、今はこれでいいだろう。




 まだまだやることはある。


 明日からは実際に鉱物の分離作業だ。



 ――――――――――――――――――――


 製造工程


 木ガス・高温 → 軽質油 + 木酢液 + 木タール + 木ガス・常温

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