第2話 古代の記憶


 ――遺跡調査に必要なのはなんだろうか? 


 答え、ヘルメット!


 石の遺跡なんていつ崩れるかわかったもんじゃない。


 頭を守らなくてどうして生き延びれるというんだ!


 私は脆弱なんだぞ!


 ということで中に入る前に荷物の確認と準備をする。


 急だったから持ってきたものは少ないな。


 持ち物:作業着一式、安靴、軍手数種類、耳栓、防塵マスク、作業用ゴーグル、小型LEDライト、デジカメ、メタルマッチ、メジャー(5m)、破れた布、財布(ほぼ小銭)。

 装備品:普段着一式、靴、安全帽、花粉症マスク、軍手、

 スマホ:ネット前提アプリ多数(通信エラー)、表計算アプリ、文章アプリ、C言語、その他


 ――こいつはひどい。


 こんな事になるならサバイバル一式を詰め込んどけばよかった!!


 スマホなんてネットワーク通信エラーとか、これだからアプリってやつは信用できないんだよ!


 災害時や通信不可の時に使えないアプリなんてゴミじゃないか!!


 これから崩れるかもしれない遺跡に入るなら、安全ヘルメットぐらい欲しかったが安全帽で我慢しよう。


 作業着に着替え、安全帽を着け、作業用防塵マスクを着けたとき、ふと別の案を思いつく。


「錬金術で作業用ヘルメット作れるかな?」


「可能です。ただし材質は石か木になります」


「……ないよりましか。木で作ってくれ」


 数分後には木製のヘルメットができあがった。


 ――おお,こいつは便利だ。


 アシストスキルはイメージで望む形状の製品を作れるみたいだ。


 けど無から紐は作れないか……。


 …………そうだ!


 さっきの雑草の茎をよって簡単な紐作ればいいや


 防塵マスクは息苦しいから花粉マスクに換えよう。


 まったく異世界に来てまで花粉症とは情けない。


 遺跡を漂うそよ風。 これは――におい?


「これが異世界の匂いか……」


 ――しまった感傷に浸ってる場合じゃない。


 この遺跡は衣食住の住居になるかもしれないんだから、早めに危険か調べなきゃいかんですよ。


 雑草を採ってきて、葉っぱや根っことかいらない部分をはぎ取って、あとはどうすりゃいいんだ?


 ま、適当に末端で結んでねじっておけばいいだろ。


「硬くて曲がらない……」


「軟らかい草を探しますかマスター」


「いや、細く割くのと叩くのを試してみる」


 ――これだから植物ってやつは生命力強くて困るんだよ。


 木のヘルメットに雑草の紐を通して、本来の遺跡探査を開始する。



 /◆/



 徐々に遺跡の奥に進むが、わずかな文明の痕跡と湧き水しか残っていない。


 ――お、この壁材の煉瓦はモルタルで接着した跡があるな。


 遺跡のどこかに煉瓦窯と粘土層の地層があるのかも。


 湧き水のおかげで脱水にはならないだろうけど食糧は別に探さないといけないな。


「……目ぼしいものは水ぐらいか。あとはこの神殿の内部だけか」


「マスター、奥の部屋に何かあります」


「本当か!」

 ――今までの場所みたいに風化してないといいんだけど。


 遺跡の奥に窓はないのかな? 


 暗くて先が見えない。


 ……こういう時はLEDライト~、見える見えるぞ。


 松があるんだから松明を作ってもよかったが、換気の悪い部屋で煙が充満したら危険な気がする。


 ヒヤリとなってから気づいても手遅れだからな。


「お、これは窓か、植物の根で塞がれてるな……」


 ――となると換気口や光源も本来あったんだろうな。


 いったいどれほどの年月が経っているんだろう。


「マスター見てください。石の人形です。」


 ――儀式用の部屋だろうか少し広い部屋だ。


 部屋の片隅に石でできた人形が置いてある。


 パッとみた感じ模様が彫ってあった形跡はあるが風化して読み取れない。


「む? これは……顔の部分に宝石がはまってる?」


《!?……#!!……?。Θ……Δ……Θ=》


「なんだ!? なにか聞こえる?」


 ――通信機か何かだろうか?


「マスターこの宝石に意識が感じられます。おそらくですが喋っています」


「そんな馬鹿な……」


 ――事実だとしても言語学者じゃないからわからんな。


「アシストスキルでアクセスすれば言語を取得できると思われます」


 ――ノーコストで言語取得とか最高じゃん!


「ただしアクセスした影響により、アシストスキルが変化するかもしれません」


「なるほど……リスクはあるか――今はできるだけ多くの情報がほしい。始めてくれ」


「はいマスター、アクセスします」


 アシストスキルが宝石の中に入り込み、辺りに静寂が訪れる。


 ――やっと一人か……いや最初から一人だっただろうに。


「マスター」


「うお!? びっくりした!」


「問題解決のために錬金術の使用許可あるいは譲渡あるい――」


「うん? そもそもスキルのまともな使い方なんてわからん。譲渡するから全部任せた」


「了解……」



 /◆/



 ――1時間ほど経ったか……このまま無反応だった場合のことも考えたほうがいいかもしれんな。


 その時、カタカタと宝石が動き出し、輝きを増していく。


「聞こえますか――マスター?」


「ああ聞こえる。うまくいったようだな」


 ――あれ? 言語習得だけじゃなかったっけ?


「……はい何とか……なりました」


 ――少し戸惑ったような人みたいな感じがするな?



 ――閑話休題――



 ――どうやら魔石(宝石の名称らしい)の中の人格と記憶が薄れていたので、直接言語のみを取得するのは不可能とわかり、錬金術で再構築したとのこと。


 それでも足らない部分をアシストスキルで補完し、疑似人格を形成したようだ。


「それで得るものは何かあったか?」

「はい、マスター彼女の名前はア……」


「ア?」


「アルタです。私の名前はいいえ、彼女の名前はアルタです。すみませんどうやら記憶の混濁が起きてるようです」


 ――自分がスキルなのか宝石人なのかわからなくなってるのかな?


「……なるほど。それじゃあアルタとして話を続けてくれ」


「まず隣の部屋が素材置き場になっています。そこのアイテムボックスの中にこの石人形と同じゴーレムの素体があります」


 ――素体があれば自由に動けると。


 そいつは自由度が上がっていいね。


「アイテムボックスとはこれか。おお! 手が吸い込まれる! あ、何か掴んだ」


 ――ボックスはインベントリと違い保管量に制限がかかっている箱だぞうな。


 時間が止まっているのか風化することはなく1立法メートル程度なら蓄えることができる。


 ――重いがやっと取り出せた。新品の素体も石材だからしかたないか。


「そのゴーレムには核がないので、この魔石を嵌めてください」


 言われた通り宝石を新しいゴーレムの頭に嵌め込む。


 すると石のゴーレムはぎこちなく動き出した。


「これが体、動かすという事……」


「おお! 本当に動き出した……原理はなんだ? 面白い! とても面白いぞ!! ちょっと分解してみていいか?」


「いいえマスター、止めてください! せっかく復活したのにまた死にたくないです! 目が怖いです! 近づかないで下さい!!」


 ――なかなか人間味ある言動じゃないか。


 しかし、好奇心を抑えろとか無理デスね。


「よいではないか――どうせその魔石さえ無事なら問題ないのだろ?」


「はい、いいえマスター、ゴーレムの素体はまだありますからそっちを調べてください!」


「なに!? 本当か! そいつはいいことを聞いた」


 その後、アルタの記憶を頼りに遺跡中のゴーレムを一ヶ所に集めてまわった。


 ――ただの石の遺跡かと思ったら、何カ所か隠し扉そしてアイテムボックスが設置してあり中からゴーレムが出てきた。


 ただゴーレム以外入ってなかったのはつらい。


 食糧を隠す意味は無いって?


 そりゃそうだ。


 だからインベントリがあって助かったよ。


 なにせ私は肉体労働は専門外だからな。


「ところでアルタはつまり魔術師なのか?」


「いいえマスター、どちらかというと錬金術です。不死の研究に携わっていました。ゴーレムに魂を移す術の開発が主です」


 ――なるほど、だから魔石に意識があったのか。


 他愛のない会話を続けながら遺跡の外にゴーレムを並べていく。


 ――11体は見つかったな。


「マスター、錬金術の知識を基にこのゴーレム達を動けるようにします」


「暴走とかしないよね?」


「はい、マスターの命令はたぶん絶対ですから安心してください。ただしアシストスキルの支援はないので扱いにくいとおもいます」


「おーけー、やってくれ」


 ――少々不穏だが人手が欲しいので了承した。


 アルタは自らのコアとゴーレム・コアを合わせ淡く赤みがかった光がコアを包みこんでいく。


「マスター出来ました!」


 11個のコアを埋め込み動き出すのを見守る。

 

「ア――イ?……オ!」


 短く声を発しながら体を振動させる。そして……


「ヒャッハー!!」

「ウェーイ!!」

「ヒュー!!」


 ――あ、コイツら絶対面倒なタイプだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 レシピ

 木材+雑草=木のヘルメット

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る