第8章 火薬の時代

第1話 全てを取り返せ!


 雨季には大雨、小雨、霧雨、豪雨と様々な雨が流れ落ちる。 それは三日三晩降り注ぐ日もあれば1時間程度のときもある。 

 雨の日に活発な行動をする生物は少ない。 大抵の生物はじっと耐えて活動を控える。 それは魔物も一緒である。



 ソル181



 ――昨日に引き続き各方面から続々と報告がきている。


 残念ながら2進数通信塔はまったく機能していない。


 全方面が危機的な状況なんて想定してなかったんだよ!


 いったいどうしてこうなった?


 …………。


 考えられるのは2つ。


 一つは無遠慮な開発に対するしっぺ返し。


 もう一つは湖の主を盛大に吹っ飛ばしたから。


 ……たぶん湖の主が居なくなって勢力図が塗り変わったのが原因だろう。


 まあ、考えても仕方がない。


 今は目の前の問題を対処しよう。


 昨日の報告の後、豪雨となり遺跡南部の拠点まで魔物は来なかった。


 雨が降り続ける今のうちに作戦会議を始めることにした。



 /◆/



「それでは作戦会議を始める。まずは現状報告を――」


「はい工場長、現在遺跡中央を流れる河川から北部は全域が昆虫型魔物に奪われています――」


 ――北西の見張りやぐら、合成ゴム研究所ともに奪われている状態です。


 雨の影響で水量が上がっているのでこちらに渡ってくることはないでしょう。


「桟橋は撤去したんだっけ? あと鉄橋のほうはどうなってる?」


「はい、桟橋は撤去して渡れなくしました。鉄橋の基礎は頑丈に造ってありますのであとは跳ね橋を設置すればすぐにでも渡れます」


「幸いゴム以外に価値のあるものはないから北は後回しでいいな」


「はい、それで問題ないと思います。それでは次ですが――」


 ――北東の鉱山地帯は水量が低いうちに魔物が侵入して同じく奪われています。


 ですので鉄鉱山と銅鉱山そして蛇紋岩を含むいくつかの鉱床が機能していません。


 河川の水量が上がっているので魔物の数はこれ以上増えることはないでしょう。


 唯一の連絡路である貯水池の橋は撤去したので遺跡にまで来ることはないと思われます。


「鉄と銅が手に入らないのは痛いな」


「はい、手持ちの資源では飛行船を作ることもできません」


「うーん、よし次の報告を先にしてくれ」


「はい、では東部の山脈沿いに関してですが――」


 東方山脈地帯は山脈ワームが戻ってきて鉱山に通信塔、とすべて破壊されました。


 幸いトロッコレールは壊されていないのでワームを撃退できれば炭鉱に行くことができます。


「うーん無理に行軍してレールが壊れでもしたら困るな。対策が思いつくまで放置だ」


「はい、鉱山が動かない以上はそれでいいと思います。次は南部ですが――」


 ――見張りからの報告によると単体ではありますが獣型の魔物に襲われました。


 前に炭鉱で襲ってきたのと同種ですが、ほかにも見たことが無い魔獣が徘徊しているのを目撃したようです。


「南の森はめぼしい資源は無いから魔獣の撃退さえできればいいな」


「しかし問題もあります。新たな鉄鉱資源が得られないのであれば罠も有刺鉄線もいずれ作れなくなります」


「なるほど、こっちも対策が必要になるな」


「最後に農地と湖ですが――」


 ――西部農地は罠を突破されて大イノシシが畑を荒らしています。


 どうやら泥水でトラバサミや落とし穴が無効化したようです。


 さらに奥の湖の向こう側では巨人が目撃されました。


 川を渡ってこようとしていましたが水量の増加で諦めたようです。


「――以上から我々が安全に活動可能な範囲は防壁内側と石油施設のみです」


「なるほど。つまり手元のわずかな物資で戦うか逃げるかしないといけないのか」


 ――今までため込んだ物資はほとんど液体空気工場の再建と水害対策に費やしてしまった。


 特に資源消費をしたのが元湿地帯。


 石油設備は低地なので浸水しやすく常にポンプで掻き出さないといけない。


 それでもダメだった場合はインベントリで強制的に排水は可能だが今度はアルタがつねに張り付かないといけなくなるのでそれはそれで問題だ。


 液体空気工場は破損して停止する可能性があったから元から予備の設備を用意してあった。


 産出量は減ったが再建はすぐにできた。



「これからどうします?」


「何をするにも資源が足りないな……」


「現在の物資で飛行船を作りますか?」


「ナイスジョーク。残念ながらこの程度じゃ気球を作って浮くのが精いっぱいだ。半径1000㎞圏内に人がいない可能性が高い現状では試すのはリスクがありすぎる」


 ……よし、落ち着け。


 自然ってヤツは気が緩んだり自暴自棄になった生物から倒しにかかってくる。


 それも平等にあらゆる生物に対してだ。


 オーケー、人類は今までどんな困難も知恵と筋力で解決してきた。


 パニックになったら筋肉で問題を解決すればいい。


 私はそう教わってきた。


 心優しきパンのヒーローはその拳で、偉大な名探偵はラインバッハで、アメリカンヒーローはあらゆる困難を筋肉で解決してきた。


 だから目の前の問題をこの腕力で解決すればいいんだ。


「工場長は全身打撲で絶対安静なのですから肉体労働は禁止です」


「はいマム、了解だ」


 ――仕方がないので知恵で問題を解決するとしよう。


 実はこっちの方が専門なんだ。


 物事をシンプルに考えよう。


 四方八方から敵対的な生物がこっちを狙ってる。


 そのすべてを撃退しなきゃいけない。


 残念だが共存の見込みはない。



 目標を紙に書くとこうだ。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 目標

 ――生存圏の死守

 ――鉄鉱山の奪還

 ――銅鉱山の奪還

 ――炭鉱の奪還

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「いいね、ちょいと無理をして全部取り返せばいいだけだ」


「いざとなればこのアルタがお守りします」


 ――とても心強いがアルタも戦闘センスはない。


 インベントリ内の物資が底をつけばそこで終わりだ。


 おーけー目標を達成するためにやることは決まっている。


 ――武器を作ろう。


 争わずにここを去りたかったけどこの世界の流儀が弱肉強食ならば仕方がない。


 最後まで戦って抗ってそしてこのクソッタレな土地からオサラバしてやる。


 われわれが使える武器といえばツルハシとオノそしてハンマー!


 ほかには槍と弓矢!


 ということで雨が降っている今のうちに製造だ。



 ソル182



「報告です。木酢液を撒きながら進んだところ山脈ワームは逃げていきました」


「やはりな。雨で匂いが消えたのが原因だったか」


「その後、雨が降ってワームが戻ってきました」


「おおう……、そうかわかった」


 ――このままトロッコレールで炭鉱まで行ければよかったんだが無理そうだ。


 もっとも炭鉱を奪い返せても浸水しているだろうから使い物にならない。


 アルタが行けばすぐなんだが、彼女は私にベッタリだからそれは無理だ。


 モテる男はつらいねー。


「工場長は脆弱ですから私が守ってあげるんです」


「あ、はい」


「工場長! 南部で松明をもって進みました。魔獣は攻撃をためらいました。西の巨人は火を目がけて投石してきました。全滅っす」


「そうか、何にしても火に反応するのはいい情報だ」


 ――他には木酢液でワーム以外を撃退できるか調べてもらったが全滅したそうだ。


 全滅してもコアさえ回収すれば復活するのが不死の軍勢の強みだな。


 さてこれまでの情報をまとめると戦わずに突破するのは無理らしい。


 それでは新しく作った武器で反撃に出るとするか。



 ソル185



 晴れると被害報告がきて、雨が降るとしばしの休息が得られる。


 そんな日々が続き、今日もよろしくない報告が告げられる。


「工場長! 山脈は雨の度に山脈ワームが戻ってきます」


「イノシシが戻ってきて畑の一部を食い荒されました」


「北部の虫と西部のゴリラが湖周辺で戦い始めました」


 ――お、合討ちはいいぞ~。


「さてこれまでの武器の成果を聞きたい」


「はい、弓矢は3m飛びました!」


 ――やっぱダメだな。


「トラバサミで1体倒しました。味方3体がワナ設置中にでやられちった」


 ――ダメじゃん。


「槍で刺しましたけど浅くてやられました」


 ――ダメねー。


「松明もってたら襲われませんでした」


「やはり火には弱いのか……」


 ――すべての敵は火には明らかに反応したようだな。


「新たにつくった窒素ボンベ式吹き矢はどうだった?」


「飛びました! 100発100不中でした。」


「不中ってなんだよ……外したのね」


 ――ノーコン以前にアルタが死角からインベントリ攻撃を仕掛けてもすべて避けるような連中なんだから仕方がないな。


 なんとかゴーレムを強化できればいいんだけど。


「アルタ君、そんなすばらしい案ないかな」


「そうですね……でしたら魔石2つ使用したゴーレムを試してみますか」


「ああ、そういえばいたな。すっかり忘れてたよ」


 ――群体生物の魔石をつなげたゴーレムに来てもらう。


「ハッ! ただいま参りました! 工場長!」


「早速だがこの弓を引けるか?」


「ハッ! お任せください!」


 ――目の前でゴーレムが弓を引くと弦が切れてしまう。


「申し訳ございません! 壊れました!」


「わぉ、もしかして馬力が上がってるのか」


 ――ほかにやることもないし、何ができるかいろいろ調べてみよう。



 /◆/



 次に槍を持たせると槍を破壊。


 頑丈な鉄の体と頑丈な斧を持たせて大木の伐採を指示するとゴーレムの体が破壊れた。


 そっちかよ!


 重りを持ち上げさせたところ75㎏以上を持ち上げられた。


 ……つまり魔石2つで2倍どころか10倍の1馬力以上の力を得た。


 だけど筋肉のような柔軟性と細かな制御が難しいらしく、特に間接部が壊れやすいってことだ。


 ちなみにノーコンなのは変わらずだ。


 以上から新ゴーレムは力はあるが壊れやすく接近戦は不向きでノーコンである――あと暑苦しい。


 まるでダメじゃないか!


 行動パターンが兵隊ポイから兵隊ゴーレムと名付けることにした。


 それでも労働ゴーレムよりマシなので作業の無いゴーレムを兵隊ゴーレムに転換することにした。



 やり方が間違っていたんだ。


 そもそも脆弱な我々が鉄の鈍器で殴り合うってのは趣味に反している。


 そう我々は罠を仕掛けたり、爆弾仕掛けたりもっと凶悪な武器で一方的に戦う方が性に合っているのだ。


 こちらは脆弱なゴーレム二千体と一騎当千のアルタそして私。


 総兵力三千と一の弱小勢力だ。


 いや、私はベッドから起きれないから三千だな。


 相手は進化の末に生まれた凶悪な魔獣かもしれない。


 だがこちらは地球の進化の末に生まれた凶悪な人類という存在だ。


 こうなったらニンゲンの底の無い悪意と終わりのない進化する力科学技術を見せてやろうではないか。


 異世界の化け物どもよ覚悟するがいい!


 ――――――――――――――――――――

 保有設備

 ――石切り場、採石所

 ――レンガ窯

 ――製紙工場

 ――冶金研究所

 ――石油工場

 ――液体空気工場

 ――窒素肥料工場

 ――工作機械群


 喪失設備

 ――鉄鉱山

 ――木材炭化炉

 ――木炭高炉

 ――木タール蒸留所

 ――銅鉱山

 ――電解精錬所

 ――銅線工場

 ――永久磁石製造所

 ――石炭鉱山

 ――コークス炉

 ――コールタール蒸留所

 ――合成ゴム試験所

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