第20話 南大学にやってきた天使

「お、おおおおい……。あの人が南大の正門にいるって本当の話か……!?」

「多分ガセだろ! あの人が南大学に来る理由がねぇもん!」

「い、いや……。さっき見に行ったが間違いなく本物だった……。クッソ美人だしオーラが違ぇ……」

「って、あれマジ情報だったのか!!」

「え……。でも、あの人がここに来る理由なくね……?」

「彼氏を迎えに来た以外にないだろ……。嘘だと信じたいが、それしか理由がない……」

「はぁあぁあぁああ!?!?」

「ひょえぇぇええええええ!?!?」


 時間は5時30分。南大学の校舎内では騒がしさが激しくなっていた。

 最初はガセだと思っていたこの話ーーしかし、時間が経つごとに事実であることが広がったのだ。

 覗き見に行った生徒によって、この南大学でも異名を轟かせているあの人、、、が正門前にいる……と。本当にいると。


 斗真がいる教室は今日の最終講義が終わったばかり。ここからは放課後に移る。自由に動ける時間ともあり、皆はいそいそと帰りの支度を始めている。


「おい、早く行かないと見られないぞ! 急げって!」

「ああ!」

「わたし、一度でいいから見たかったのっ!」

 なんて会話が聞こえるあたり、斗真と同じ講義を受けていた生徒もあの人、、、をお目にしようとしているのだ。


「……ん。だれか有名人でも近くに来てるのかな……」

 のほほんと、そんな声が春の耳に届く。

 そう。その『有名人』が誰かということに気づいていない唯一の者がいる。


「……斗真ぁ。ったく、お前ってやつは……」

「え?」

「もういい。ぼーっとしていないで、お前も早く帰る準備を始めろよな、佐々木さんが待ってるんだろ?」

 斗真は必ず驚くことだろう。……看護科の天使の正体をようやく知ることになるのだから。


「な、なんでそのことを……」

「オレには全て分かってんだよ。どーせ、一緒に帰る約束でもしたんだろぉ?」

 眉を上げ下げしながらニンマリ顔を作る春。この表情は姉の七海にソックリでもある。


「……ま、まぁ」

「ほれ見ろ」

 予想が当たったと、嬉し顔を作って斗真の肩をパンパンと叩く春。だが、それだけではこんなにテンションは上がらない。


『みおちゃん、そろそろ本気で落としに来るからねぇ。斗真君を』

 昨日、七海から聞いたこの言葉が真実だと再確認した瞬間でもあったからだ。

 澪の親友、その弟だからこそ知り得ている情報。本当は斗真にも伝えたいコトであるが、もし二人が付き合った場合の関係を上手くいかせるためにも、内緒にしなければならない。

 七海が澪を大事に思っているように、春も斗真のことを大事に思っているのだから。


「ってか、やるじゃねぇか斗真。この大学に呼び出すってことは、『オレの女だ』なんてアピールすることなんだから。……策士、斗真だな!」

「そ、そんなつもりは全くないって……」

「じゃあ、なんで正門で待ち合わせしてんだ?」

「いや、そのことを全く考えてなかったから……」

「全く考えてないってお前……ハハハッ! なんか斗真らしくて安心するぜ。……ほら、早く行ってやらねぇと、佐々木さんが待たされて可哀想だぜ? 注目浴びてるだろうし」


 春がそう催促した矢先だった。斗真のスマホが『ぴろんっ』と通知を鳴らしながら振動する。


「ごめんハル。少し待ってて」

 ポケットからスマホを取り出す斗真は、すぐに通知が表示されている液晶に目を通す。

『斗真くん。もう少し時間かかるかしら……? ここの生徒さんが何故か私を見てる気がして少し恥ずかしいの……』

 その通知の正体は、澪から送られてきたメール。ーー出来るだけ急いでほしい……との控えめな意図が込められた内容のものでもあった。


「な?」

 送られたメールを見ていないのに、言った通りだろうとの表情を見せる春。

 メールを見た後の斗真の面様から、送ってきた相手を感知したわけである。


「あ、ああ……。それじゃ、俺は帰るから」

「おう。気ぃつけて帰れよ斗真。佐々木さんを事故らせんなよ」

「ぶ、物騒なこと言わないでくれ……」

「冗談だ、冗談。んじゃな、斗真」

「また明日」


 両者手を上げて別れの挨拶をし、斗真は教室を早足で去る。

『急いで』とのメールが来ているとなれば、のんびりと正門に向かうわけにもいかない。


 外で何分、何十分待っていたのかも分からないのだから。

 斗真は校舎から正門に距離を縮めていく。その途中、何度も『看護科の天使が〜』との会話が聞こえて来る。


(近くに来てるのって看護科の天使さんなんだな……)

 他大学でありながらも『看護科の天使』の異名の浸透度は正直異常なほど。そして、正門で待ち合わせしている澪が有名人であるお天使様だと知るのはもうすぐのこと……。


(って、やば。返信まだしてなかった……)

 スマホの電波時計に目を向ける斗真は、『待たせてしまってすみません。今行きます』そのメールを澪に飛ばすのであった。


 ****


 親友の斗真が教室を去った後、

「斗真が羨ましいねぇ〜」

 そんな独り言を吐きながらTwitteeツイッティーをスライドさせていた。

 斗真と同じ、帰るだけの春だが今行けば、二人で話している現場にばったりと会う。そうなれば気まずい。なんて思考の元、少し時間を潰してから大学を後にしようとしたのだ。


 暇つぶしにツイートされている、to be continuedコンテニュードの動画を見ていた矢先だった。


「おおおぉおっ! 春じゃんか!! 」

「おー、まことか! お前も最終講義まで受けてたんだな」

 廊下を歩いていた春の友達である真が、春を偶然発見し声を掛けながら教室に入って来る。


「てか、どうしたよ春。女好きのお前がこんな時間まで教室ココに残ってよー。あのな! 正門にいるらしいぜ、あの看護科の天使様が! いやぁ、僕も今から見に行こうと思ってたんだよ! 一緒行こうぜ!!」

「んにゃ、オレはパース」

 スマホを閉じ、やる気のなさそうに手を振る春は拒否を示す。この反応はまことにとって予想もしていなかったこと。


「え? お、お前……本当に春か!? なんで行かねぇんだ!? お、お前なら飛び込んでいくはずだろ!?」

「。看護科の天使がなんの用事もなくこの大学に来るはずねぇだろ?」

「へ……」

「オレは彼氏持ちのオンナには興味ねーの」

「ん……。って、か、かかかか彼氏……? カレシィィィィィィ!?!?」

「そうオレは聞いたからなー」


 巧みな嘘を使い、看護科の天使……澪の野次馬になろうとしていたまことを阻止する春であった。














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