第18話 看護科の天使と〇〇〇
ーー翌日。
『ぴろん♪』
斗真のスマホが通知が鳴ったのは21時。自室で大学の課題に取り組み……、休憩中のことだった。
勉強机に置いていたスマホに視線を移した斗真は瞳を大きくさせる。
「……」
そのスマホに届いたLAIN通知にはーー
『いきなりごめんなさい、斗真くん。今お時間いいかしら……?』
澪からのメッセージが表示されていた。
『大丈夫ですよ。それでどうしました?』
LAINの画面を開きすぐに返信をする斗真。メールをして画面をそのままにしていたのだろう、澪からの“既読”は一瞬で付いた。
(こんな時間に一体どうしたんだろう……)
メールした内容と胸中で思うことは一緒。疑問を抱きながら澪から次のメールふが届くまで待機する。斗真はLAIN画面を見続ける。そして十分、十分が過ぎた……。
「き、既読無視……なのか、これは……」
斗真がそう思うのも無理はない。LAINはショートメールのやり取りを続けるものだ。既読がつけば遅くとも5分でメールが返って来る。
いくら長文でも何通かに分けて送られて来るため、10分もの時間は開くことはない。
可能性としてあるのはメールを打っている途中で急ぎの用が入るぐらいだろう。
『澪さん?』
なんてメールを打とうとした斗真に、ようやく澪から反応が帰ってきた。
その内容は斗真が予想だにしていなかったこと。
『明日、一緒に帰れない?』
「へ?」
その内容を見た途端、驚きのあまりに声が飛び出る。文字を打ち込んでいた指が完全に止まる。それどころか金縛りにあったように体全部が固まった。
(ふぅ……。課題で疲れてるんだろうな……俺)
普通ならあり得ないメール。
気持ちを落ち着かせるように息をゆっくりと吐き出す斗真は、スマホを勉強机に戻し目を擦る。そして、再び澪のメールに目を通した。
『明日、一緒に帰れない?』
「……」
もう一度目、『ゴシゴシ』と目を擦る。さっきよりも長い時間。ーー見る。
『明日、一緒に帰れない?』
「…………」
今度は両手で頬を『パン』と叩く。ーーそして見る。
『明日、一緒に帰れない?』
「ど、どう言うことだこれ……」
幻覚でも幻視でもなんでもない。澪は確かにそのメールを送ってきているのだ。
スマホの液晶に穴があくほどジッと見続ける斗真は、頭を必死に働かせる。
どんな意図があるのか……と。
だが、答えが全く見つからない。見つけることができない。
気がつけば、澪のメールが届いてから十分が過ぎようとしていた。
『斗真くん……?』
斗真と同じ、時間をかけたことで既読無視をされたと思ったのだろう。澪から連投のメールが来る。
「っ!」
その瞬間、『ピーン』と脳に閃光が走った。ーー唐突のお誘いメール。このタイミング。
「あぁー……! Barの時みたいに俺をからかおうとしてるのか……。あの告白の時に普段の仕返しみたいなことしたからな……」
数日前のこと。
大学の成績を言い合い、負けた方が練習という形での告白をする。そんな条件で勝負をした結果、斗真は澪に告白をした。しかし、斗真は澪に
手紙の告白など予想もしていなかった澪は呆けた表情をしていた。その時の
『すみません、少し席を外してました』
何故誘ってきたのか考えていた、なんて言えるわけもなく誤魔化しを入れた斗真。
『分かりました、明日ですね』
企みが分かってもなお、素直に従うのは澪との関係を崩したくないからだ。
澪との関係が悪くなれば、バイト先である【Shine】にも顔を出しづらくなる。澪もまた然り。
今後の関係のためにも今回は澪の企みに乗り、次に仕返せばいい。なんて考えが斗真にはあった。
『私が斗真くんの大学に向かう形で大丈夫かしら? 確か南大学よね?』
『そうですけど、自分がそちらに足を運びますよ』
『ううん、お互いに帰る方角が南大学側だから私が向かうわ。斗真くんに二度手間をさせるわけにはいかないもの』
『気にしなくて全然大丈夫ですよ? 甘えてください』
『逆 に 甘 え な さ い』
と、ここで強調された文面が現れる。年上の澪らしいメールでもありそれだけ譲りたくないのだろう。その気持ちを読み取った斗真は素直に譲ることにする。
『分かりました。それではお言葉に甘えさせていただきます』
『ありがとう、斗真くん』
『いえいえ、お礼なんて必要ありませんよ。むしろ自分がお礼を言わないとですから。気遣いの方をありがとうございます』
『そんなことないわ……って、これじゃあずっと続きそうね』
『はははっ、そうですね。明日、楽しみに待っていますから』
『私も楽しみにしているわね』
斗真は知らない。知る由もない。
この返信ボタンを押す際、澪は手を震わせてたことを……。頭上に蒸気が発生してしまうほどに顔に熱を溜め込んでいたことを……。
『……あ。それで一つ質問なんですが予定は合いますかね? こっちの講義が17時30分まであってですね』
講義の時間割は各自で決める。同じ大学にいても予定が合わない場合は珍しくない。別の大学同士ならなおさらである。
『大丈夫よ。私のそのくらいの時間になるはずだから』
『それは良かったです』
『それじゃあ……また明日連絡を入れるわね。今日のこと忘れちゃダメだからね?』
『もちろんです。それでは、また明日連絡を待ってます』
その斗真のメールに対し、ふくよかでまるまるとしたレッサーパンダが『OK』としているスタンプを送ってきた澪。
(可愛いな……このスタンプ)
そのスタンプをタップし、詳細を覗けば【れっさーぱんだ! 幸せまんまるんばーじょん!】という名前のもので、100コインで買える有料スタンプだった。
「なんか澪さんらしいな……」
そのメールを見て微笑を浮かべる斗真はスマホの電源を落とし、勉強机に開いている課題に視線を向ける。
「よし、やるか……」
気合いを入れ、利き手にシャープペンシルを握った。
「って、え……」
斗真は思った。ここでようやく気づいた。
先ほどのメールは冗談や仕返しの類いじゃなかったのか……と。
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