第10話 放課後の出会い

 南国公立大学では今日の講義が全てが終了していた。

 現在は放課後。教室はざわついており、皆は帰路につくために教材をカバンに閉まっている。その表情は快活! この時を待っていたようだ。


「ふー。午後からの数英の講義は地獄だよな。途中眠りかけたぜ」

「首が落ちてたけど、ハル……」

「ハハッ、バレてたか」

「席が隣だから自然と目に入るよ。今日の講義のノート貸そうか?」

「いや、写しは出来たから大丈夫だ。いつもありがとうな」

「気にしないでいいよ。その分、俺が大学を休んだ日はノート貸してくれてるし」


 大学の講義では誰かが休んだりしても振り返りはしない。次に進むだけだ。

 休んだ分は誰かにノートを見せてもらって勉強をしてくる。これをしなければ次の講義からは全くついていけなくなるのだ。


「お互いにウィンウィンな関係ってことだな! さて、一緒に帰るか!」

「わ、悪い。今日の講義で分からなかったところを聞きに行こうと思ってて。だから先に帰っててくれ」

「相変わらず真面目だよなぁ、斗真は。……それじゃ、オレは用事あるし先に帰らせてもらうぜ」

「了解。気をつけて帰ってな」

「斗真もな!」


 握り拳をこちらに向けてくるハルに、斗真も握り拳を作ってお互いにごつんと合わせる。

 そして、バックを背中にからったハルは教室を後を見て斗真も準備を始めるのであった。


 ******


「ありがとうございました」

「いや、分からないところを聞きに来てくれるのはワタシだって嬉しい。いつでも聞きにきてくれ」

「はい。では失礼します」

 刻々と色を濃くしていく夕焼け。勇ましいカラスの鳴き声が響き聞こえる。

 あの後、講師に分からなかった点を一時間ほど聞きに行き、現在に至る。


(疲れたな……)

 南国公立大学の偏差値は63と平均を超えている。なおかつ講義内容は高校よりも難しく、90分間講義に集中力を続かせなければいけないために、一度の講義で全てを理解出来る人間は少ないだろう。


(コンビニに寄って帰ろう)

 勉強を頑張ったご褒美ということで、近場のコンビニに足を運ぶ斗真。買うものは決まってる。ワンコインで買えるチョコレートと、税込128円の大きなシュークリームだ。

 疲労を感じている時は自然と甘いものを食べたくなる。


『テテテテテテン♪ テテテテテン♪』

 青、白、緑の三色がメインカラーのコンビニに入店する斗真は迷うことなくお菓子コーナーに向かう。スナック菓子やガム、キャンディーなどが系統ごとに分かれ、客にも分かりやすいように配置されている。


(チョコ……チョコ……。これでいっか)

 チョコレートにも味や種類がたくさんある。ホワイトチョコやイチゴチョコレート。クッキー生地にチョコがコーティングされたもの。中にナッツが入ったものなど。


 斗真が選んだ商品は、Gharaガーラと呼ばれるメーカーの赤いパッケージに包まれたシンプルな板チョコだ。

 財布を利き手、板チョコを左手に持ち、デザート棚に歩を運ぶ。

 ケーキやパフェにクレープ。見るからに美味しそうで全ての商品に手を伸ばしたくなるが、贅沢は控える。


(あったあった)

 最下段に置かれていたお目当のシュークリームを見つけ、ふうの角を掴んだ瞬間だった。


「あ、あら……斗真くん」

「えっ……」

 なんの前触れもなく、声をかけられ声源に振り返る斗馬。


「さ、佐々木さん……!?」

「こんなところで……偶然ね」

 そこには予想もしなかった人物がいた。佐々木も同じ感覚だったのだろう。お互いに驚きの色を示している。


「ほ、本当にそうですね。佐々木さんは大学の帰りですか?」

「ふふっ、斗真くんもそのようね」

 白のカットソーに赤のワイドパンツ、黒のスニーカーを合わせている佐々木ーー及び看護科の天使。

 キレイめなアイテムをカジュアルコーデに取り入れた略称、キレカジ系を着こなしている佐々木は美人さが際立っておりカッコいい。そんな佐々木の右手には缶コーヒーのブラックが握られていた。これがまた佐々木に似合っている買い物だ。


「それにしても……斗馬くんは可愛いお買い物ね? チョコレートにシュークリーム。ふふっ、Barで働いてる大人な斗真くんしか見たことがなかったから、そんな姿は新鮮だわ」

「き、今日は少し疲れてまして……」

 子どもっぽい買い物を見られてしまった。これはなんとも恥ずかしいものである。


「斗真くんのお買い物はそれで終わりかしら?」

「そ、そうですね。これを買いにきましたので……」

「と、斗真くん。……私もこれでお買い物が終わるの」

 ブラックの缶コーヒを見せてくる澪。

「だ、だから……折角の機会でもあるし、一緒に帰らない……?」

「え……?」

「も、もしかして……イヤ? 私と帰ること……」


 細く綺麗な眉を下げ、明らかに表情を曇らせた佐々木。Barの時には見せないその表情に斗真は慌てて否定する。

「そ、そんなことはないです! ただ、びっくりしただけですから」

「そ、それなら良かったわ……。じゃ、私は先にレジに並んでおくから」

「は、はい。分かりました」


 綺麗な姿勢を保ちながら美しい歩きでレジに向かう佐々木は、クレジットカードで会計を済ませ店外に出た。


 ****


(ちょっと待って私……っ。なんであんなことを言ったのっ!?)

 外に出た瞬間、私は一人ツッコミを入れていた。


 決して、決して斗真くんと一緒に帰ることが嫌じゃない。嫌じゃない……けど、心構えがなにも出来ていない。

 ……ただ、一緒に帰りたかったから付け焼き刃のことを言ってしまった。


(大丈夫かしら……私。斗真くんに違和感を持たれないようにしないといけないのに……。好きってバレるわけにはいかないのに……)

 胸に手を当てる。接近されれば『ドクンドクン』と、激しい鼓動が聞こえてしまいそうなほど。

 それどころか、緊張で手足の自由があまり利かない気がする。まるで私の肢体じゃないような……。


(でも、斗真くん……。可愛かった……)

 私は仕事姿、仕事服の斗真くんしか見たことがなかった。今回、プライベートで斗真くんと会ったのは初めてで……私は見ていた。

 種類がたくさんあるチョコレートの中からどの商品を買おうか迷っていたところ。甘いものが好きなのだろう、子どものように瞳をキラキラとさせていた。


(はぁ……。もぅ……。やられちゃった……)

 仕事をしている時のキリッとしている斗真くんしか見ていなかった私からすれば、そんな可愛いお買い物をしているギャップが凄かった……。


(この缶コーヒー、どうしよう……)

 私は右手に持っていたブラックコーヒーに視線を流し、口元を閉める。

 これは飲み物と呼ぶにはとても怪しい一品……。とても苦々しくて私は飲むことが出来ないから……。

 

『じゃあなぜ買ったの?』と言われれば、私が斗真くんを先に見つけたから。

 こんなところで斗真くんと会うなんて予想も出来なかった……。

 だから私も普段通りの服装……。とBarに行く時のように服装はキメていない。ラフな服装だからこそ、もうワンポイント……印象を良くするために何かが欲しかった。


 そして、一つ思い出したことがあった。


『みおちゃんってさ、ブラックコーヒー持ってたらめっちゃ似合いそう!!』

 いつの日かは覚えていない。でも、七海がそう言っていた記憶がある。

 だから七海の言葉を信じてこのコーヒーを買ったけれど……失敗だった。

 ずっと手に持っておいても違和感があるだけ。……あと、ものすごく冷たい。缶だからペットボトルよりも冷えている。


 私は冷えた缶を頰に当て、目を瞑る……。


(……よし、少しだけ落ち着いた。これで大丈夫……。私は大丈夫……)

 その自己暗示が完了した途端ーーコンビニエンスストアの自動ドアが開く。私は斗真くんが出てきたのだと心構えをする。


「すみません。待たせてしまいました」

「……だ、大丈夫よ。そ、それじゃあ……行きましょ……う」

「はい」


(だ、だめ……。落ち着くなんて無理よ……)

 たった一言。斗真くんに声をかけられただけで『バクンっ』と高らかな心音を鳴らす私であった……。













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