第19話 side春と七海。進む時

 満月が南中をーー真上近くを通る0時。

 車通りもかなり少なくなり、近所の家の明かりはほとんど消えている。

 日にち、曜日が変わり……人々が寝静まる時間。


「ふんふふふふ〜ん、ふふふ〜んふ〜ん」

 半袖、半ズボンの涼しそうなパジャマ。椅子に座りすらっとした白い脚をぶらぶらと揺らしている七海は、スマホを見ながらご機嫌オーラを満開に咲かせている。

 そのテーブルの上には、コンビニで売ってある輪切りのレモン。フルーツの盛り合わせ。濃縮還元のぶどうジュースが置かれてある。

 まるで、これからプチフルーツパーティーが開催されるようであった。


「ななみ姉……。こんな夜に何してんだよ」

 そこに欠伸あくびをしながら春がリビングに現れた。何故か腰を片手で抑え続けている状態で。


「お、春じゃん。珍しいね、こんな時間まで起きてるだなんて。どうしたの?」

「ちげぇよ。ベッドから落ちて目ぇ覚めたんだよ」

「あはははっ、小さい頃から変わってないねぇ。その寝相の悪さは。小さい頃、一緒に寝てた時はよくうちを蹴ってたもんなぁ」

「うっせぇ。子どもの時の話はすんな」


 なんて文句を言う春だが、キレているわけではない。ただ単純に照れ隠しだ。

 目覚め後ということで喉が渇いているのだろう。春は冷蔵庫を開けて2Lのペッドボトルを開けて緑茶をコップに注いでいる。


「……で、ななみ姉はこの時間まで何してんだよ。まだ寝るつもりはないんだろ? それを見る限り」

 コップに一杯分の緑茶を注ぎ終わった春は台所で七海に問う。


「あ、春も食べる? このフルーツの盛り合わせ、うちには多すぎる量でさ?」

「って言うよりも、話し相手が欲しかっただけだろ、ななみ姉は。そんな爆買いする時はいつもそうだし」

「それもあるし、食べられないってのも本当ー。だからフルーツあげるからうちの話し相手になってよ。交換条件みたいな感じでいこ?」


「手短に頼むからな。オレ、寝みぃし」

「りょうかーい。でも、コレを聞けば眠気なんてすっ飛ぶと思うけどねー」

「ほー。それは楽しみだな」

 箸などが入っている棚中から果物用のフォークを取り出した春は、七海と対面するようにリビングに座る。


「じゃあ早速、話に移るけど……斗真君の様子はどうだい?」

「どうだいって、澪先輩のことをどう思ってるかってことか?」

 そして、二人で果物を盛り合わせをつまみながら夜話を始めた。


「うんうん。あれから少し時間も経ったし、ちょっとは聞いておきたくってね。斗真君、みおちゃんのこと何か言ってた?」

「あぁ。今日偶然そんな話しをしてこう言ってたな。『文句の付けどころもないよ。あれである方がおかしいくらいだと思う』って」

「ほぉう。流石は斗真君! みおちゃんのことをちゃんと分かってるじゃん!」

 斗真の発言は、澪からすれば最高級の褒め言葉だろう。親友の七海にしても肩を上下に振って嬉しさを表に出している。


「南大学の男子が選ぶ、隣に連れて歩きたい女性第一位も澪先輩だし、妥当だよ妥当。ちなみに二位は、同じ東大学に通ってるほのかさんらしいけどな」

「そんなランキングがあるんだ? って、二位とかうちに言われても知らないんだけど……」

「因みに、年上好きが澪先輩推しで年下好きがほのかさん推しらしい」

「だから知らないって!」

 ベッドから落ちた腹いせというわけではないが、夜のテンションということでハイになっている春は、以前斗真がしてきた口撃を七海に使用する。


「今度、写真あれば貰ってくるよ」

「じゃ、頼んじゃおうかなー。二位に挙がるってことは相当な可愛い子だと思うし」

「オレも詳しいことは知らねぇけど、かなり可愛いらしい」

「ふーん。って、話逸れてる! 今はみおちゃんの話題してよ! 斗真君が言ってたのはそれだけ? みおちゃんをベタ褒めしてただけ?」

 一時的に話しが脱線してもしっかりと戻す能力がある七海。そして、肝心なことを外していなかった。『まだ他にもある?』と促す流すように『褒めていただけ、、?』と聞くあたり……。流石は七海だ。


「あー。こうも言ってたな。『佐々木さんのことを一人のお客さんとして見ている部分があって、まだ女性として見れていない部分があるんだ』って。そりゃ仕方がない部分だよな。澪先輩は斗真がバイトしてるBarの常連らしいし」

「ふっふっふ、やっぱり、、、、斗真君はそう見てたか」

 これは七海が予想していた通りのこと。勝ち誇ったような圧倒的ドヤ顔を春にかましている。


「なんかその顔、微妙にキマってるな」

「お、写真撮る? 一枚500円。100連写で1万円」

「いらねぇよ。1円の価値もないだろ」

「うっわー。人の顔に価値なんてつけるから春はモテないんだよーだ」

「ななみ姉が値段つけたんだろ、自分に。で、なんでそんなに得意満面なんだよ」

「これは新情報なんだけど〜。みおちゃん、そろそろ本気で落としに来るからねぇ。斗真君を」

 七海はさぞ当たり前に、普段通りの口調で言った。そして、輪切りのレモンを手でつかんで口に入れた。


「……は、はぁ!?!?」

「ちゃんとうちの言いつけを守ってるようだし、斗真君の相談にも乗ってるから春にも教えちゃおうと思って」

「いやいや、はあ!?!?」

 こんなカミングアウトをされても、すぐに思考は追いつかないだろう。


「斗真君はいつまでみおちゃんのことをお客さんとして見られるのか見ものだーってね。うちとみっちり計画立てて、みおちゃんに抜かり無し! 春は斗真君の恋の相談を頼むよ〜? きっと忙しくなるからねぇ、にししし」

「はぁぁあああ!?!?」

 真夜中ーー七海の口からとんでもない事実を聞き、春の驚きに満ちた声がリビングを支配するのであった……。



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