第23話 ポケッモンとお買い物(2)
その後、夕食の材料を一通り買い終わった二人。レジに向かうためにお菓子コーナーを抜けようとした矢先だった。
「……あっ」
唐突に小声を上げた澪。隣に歩いている斗馬はその声を偶然に拾うことが出来た。
「どうかしました?」
「な、何もないわ……」
なんて言う澪だが足は見事に止まっている。ご丁寧に視線がとある商品で止まっていた。
(あれか……)
斗馬はその商品に近づき自然に手に取った。自身もその商品に興味がないわけではなかったのだ。
「ちょこエッグ。懐かしいですね……」
「……っ、そ、そうね」
子どもっぽいと思われるのが嫌だった澪は無関心を意識して斗真に返事をする。しかし……あの分かりやすい行動と反応を示していたのなら、ちょこエッグに惹かれていることは誰にだって分かること。
ちょこエッグとは、フルタ製菓株式会社が開発したおもちゃ付きのチョコレート菓子のことである。今までに販売されたチョコタマゴには、名探偵こなん、ドラエモンなど大人気アニメのキャラが入っており、売り上げはかなりのものらしい。
今回、二人が見つけたちょこエッグは6種類のポケッモンのキャラが入ったものだった。
「えっと、今回のピックアップは……」
箱の側面を見ながらどのようなキャラが入っているのかを眺める斗馬。
「ピカチューにゼニカメ、お、ルカリヲも入ってるのか……。欲しいなぁ……ルカリヲ」
「わ、私……2匹持ってるわよ、ルカリヲ」
「えっ、そうなんですか!?」
「ふふっ、今度持ってくるわね。斗真くん、欲しそうだから」
「あ、ありがとうございます……」
年甲斐にもなく、がめついところを見せてしまった斗真はどこか恥ずかしそうに礼を言う。
「澪さんはもう全種類持っているんですか?」
「ううん、あと一種類で全部揃うのだけれど……最後の一つが全然当たらなくて……」
同じポケッモンが好きだと察した澪は、斗真の横に並び、膝を曲げながら商品を目線を合わせて一緒に吟味する。
「このピックアップされてる中で一番好きなポケッモンは誰ですか?」
「……ゲンガよ」
「おお……。どく、ゴーストタイプのポケッモンですか」
「そう。私、ゴーストタイプのポケッモンが大好きで……。斗真くんはかくとうタイプが好きなの?」
「タイプで好きとかはないんですけど、ルカリヲは特に好きなんですよね」
「……ふふっ。なんか斗真くんらしいわね」
「そ、そうですか……?」
「ええ、とっても」
そんなポケッモンの会話に花を咲かせる二人。
共通の話題を見つけた……! と、澪が見せる笑顔の回数がかなり増えている。子どもっぽいと思われる。そんな心配は消え去ったようでもある。
「それで話を戻すんですが……澪さんはあと一種類、何を持っていないんですか?」
「……ゲンガよ」
「あ」
この瞬間ーー不意に真顔になって暗い声音になった澪を見て、斗真はいけないことを聞いてしまったと悟った。
推しがなかなか当たらない。そんな摩訶不思議な状況に陥っているようだ。
「私、ちょこエッグを20個も買ってるのにゲンガが当たらないの……。もしかして少なく入れてたりするのかしら……」
「そ、そんなことはないとは思いますよ……」
本当に当たっておらず、喉から手が出るほどゲンガが欲しいのだろう。真面目な顔でありえない推察している澪。
だが、体感的にそう思ってしまうのは理解出来ないことはではない。
ちょこエッグ一個の値段は約200円。それを20個。金額にして4000円。かなりつぎ込んでいると言える。
「20個買ったってことは結構同じキャラが当たってるんじゃないですか?」
「ピカチューが10匹当たったわ」
「10匹ですか……。け、結構偏ってますねそれ……」
ちょこエッグの箱を見ながら、少しだけ恨めしそうに答える澪。
運だということが頭の中で分かっていても、10匹被ってしまうというのはなかなかの災難だろう。
「お友達にも斗真くんと同じことを言われたわ。……私が逆の立場だったら同じ言葉をかけているでしょうし……」
「そのピカチュ10匹は家に飾っているんですか?」
「ううん、友達にあげたわ。推しのゲンガなら全部飾っていたでしょうけど」
なんて言い終えた澪は、『ん』と小さな声を出して立ち上がった。
これは『そろそろレジに向かいましょう』との合図でもあった。
「……コンプリートまであと1匹。ここまで来たら当てないとですよね」
斗真は商品棚に出ている5個のちょこエッグを全部
「えっ……」
「あっ、これは自分の奢りですから気にしないでください。ゲンガが当たると良いですね」
斗真はにこやかな笑みを浮かべながら、澪同様に立ち上がった。
月のお小遣いが決まっているのか、贅沢を控えるようにしているのか。ちょこエッグが欲しいとのオーラを出しながらも、『買わない!』と我慢した澪。
コンプリートを目前にしてもなお、しっかりと自制が効いている澪を見て斗真は応援したくなったのだ。
「そ、そんな大丈夫よ。ちょこエッグを5つ買えば1000円もするのだから……」
「6分の1でしか当たらないルカリヲを1000円で確実にもらえるんですから、自分の方がお得なんですよ」
気を遣う澪に対し、斗真はしっかりとした計算で説得する。
1000円のおもちゃのルカリヲ。これを『高値』言う者もいるだろうが、表情をコロコロと変えている澪を見れただけでなく、コンプリートに貢献出来るかもしれないのだから、『損をした』なんて気持ちにはならなかった。
「……そ、それで斗真くんは良いの? 本当に……?」
「もちろんですよ。それに、自分は奢りたい相手にしか奢りませんので甘えてくだされば……と思います」
自分の気持ちを上手く伝えた斗真は澪の半歩先を進む。向かう先はレジ。その途端、澪から腕をちょんちょんと
「ん……?」
と、斗真が振り返った瞬間ーーその視界に移ったのは、
「ありがとう、斗真くん……」
上機嫌に目を細めて子どものように頰を
「あっ、やっ……。き、気にしないで……くだ、さい……」
その喜色満面の表情に、思わず見惚れしまう斗真であった……。
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