第21話 side澪、斗真との放課後その(1)
(な、なんか周りに人がいっぱい集まってきたけれど……もしかして私、不審者扱いされているんじゃないかしら……)
正門前でスマホをいじりながら斗真くんの到着を待つ私は、そんな不安に駆られていた。
何故か正門付近に南大学生が集まってきている。
そして、帰宅するために正門を抜けた南大学生は、私の顔をまじまじと見ている気がする……。
(うぅ……。落ち着かない……。逃げ出したい……)
でも、落ち着かないからといってここで逃げ出すわけにはいかない……。
私は今日、斗真くんと一緒に帰る約束をしたのだから……。
もし、この約束を叶えられないのならあの苦々しいブラックコーヒーを3つ……いや、5つ買ってもいい。……私はその覚悟でここにいる。
(と、とりあえず今日のことを確認しましょう……。一緒に帰るっていう第一ミッションはクリアできそうだから、次はーー)
私は七海と一緒に考えた“あの作戦”をスマホのメモ欄にも記してある。斗真くんが来るまでは復習する時間に当てるのが一番だ。
七海が言うには、これをしっかり実行出来たなら斗真くんは私を意識してくれるらしい……。
だから抜かりはないようにする。私の目的を叶えるためにも、絶対にさせたい……。
『うん、頑張らなきゃ……』
なんて気合いを入れた時だった。
『タッタッタッ』とわたしの方に駆けてくる足音が一つ。私は、その音に反応するように振り返った。
「……っ!」
やっと来た。私が会いたかった人が……。
「す、すみません、佐々木さん。お待たせしました」
「だ、大丈夫よ……」
ドクン、心臓が勢いよく跳ね……私は息が詰まってしまう。緊張で手が震える……。今、斗真くんの目を見たら立ち直るのに時間がかかると思った私は、視線を彷徨わせて平然を保とうとする……。そんな時だった。
「え……。か、看護科の天使が……」
「男と待ち合わせ!?」
「う、嘘だろ……」
「しかも、うちの学生……」
「あれ、彼氏……?」
「……じゃね?」
「それ、大ニュースじゃねぇか……」
(……っっ!!)
あろうことか、このタイミングで正門付近に集まっていた南大学生からそんな声が聞こえ漏れてくる……。
(斗真くんが私の……私の……か、彼氏だなんて……)
か、顔から火が出るくらいに恥ずかしい……。今、斗真くんと顔が合わせられない……。
私は思わず顔を伏せてしまう。
「……へ」
何故かそこで斗真くんが呆けた声を漏らした。
「……」
「……あっ。と、とりあえずここから出ましょうか……。その、いろいろと注目を浴びてますので……」
『……こく』
私は斗真くんの意見に頷いて賛成する。声を出したかったけれど、気持ちの昂りから、声が上ずってしまいそうで心配だったから……。
****
「……ねえ、斗真くん」
「はい、何でしょうか?」
「さ、さっきの南大生はどうして正門付近に集まっていたの……? も、もしかして私のことを不審者とか見ていたのかしら……」
時間が少し経ったことで、私は少しだけ冷静を取り戻した。
そこで、どうして南大学生ーー略して南大生あの場に集まっていたのか斗真くんに聞いた。
「え、不審者……ですか? 佐々木さんが?」
「そ、そうよ。コソコソ話もしていたから、警察を呼ばれるかと思ったのだから……」
「佐々木さん、それは誤解ですよ」
「誤解?」
「本人を前にコレを言うのはなんですけど……佐々木さんって、『看護科の天使』さんなんですよね……?」
「……っ!!」
斗真くんの口から初めてそのワードを聞き、私は口元に手を当てて目を大きくする。
ま、まさか斗真くんにその恥ずかしい異名を知られているとは思わなかったから……。
「自分もさっき知ったんですけどね……。正門で佐々木さんと話した時に他の生徒からその声が聞こえてきましたので……」
「そ、そう……」
「それで、ですね……。佐々木さんは有名人ですので、皆は
「私なんかを見ても何も面白くないはずなのに……って、斗真くん」
あまりスッキリはしないけれど、正門前に集まっていた理由は分かった。
あと、一つ私が気になっていることがある。いや、これは不満だ。
私は斗真くんを責めるような声色で呼ぶ。腰に手を当て瞳を細める。めいいっぱいの不満を表した。
「は、はい……?」
「……
こんなことに限って鋭い斗真くんは、コレを言っただけで私が何を伝えたいのか理解してくれるだろう。
強要するのは間違っていると思う。斗真くんのペースに任せるべきだとも思っている。
(でも……、好きな人には少しでも多く名前を呼ばれたいもの……)
甘えなのは分かってる。でも、甘えても斗真くんは怒ったりしないから利用してしまう。
「そうでしたね、
「……ぅ、それでいい……わ」
(笑顔で呼ばなくても……良いのに……)
人懐っこい顔でこちらに目を向けてくる斗真くんに、私はぎこちなく顔を背けてしまう……。長い髪をいじってすぐに横顔を隠す。
年上としてのメンツを保つためにも、今の顔は斗真に見られてはいけない……。
名前を呼ばれただけで恥ずかしがるだなんてこと、人見知りの三歳児じゃない、私……。
「ど、どうかしましたか?」
「な、なんでもないわ……」
名前を呼ばれるのは嬉しいけど、呼ばれるだけ恥ずかしくなってしまう。本当に不便極まりない……。
でもそれは慣れるまで……。だからこそ、たくさん名前を呼んでもらう必要がある。
それに、今日こそは斗真くんにやられっぱなしの状況に陥るわけにはいかない……。今日こそは私が斗真くんをやっつける番だ……。
「と、斗真くん。……この後ってお時間ある……?」
「時間ですか? 今日はバイトもないのでありますよ」
「……わ、私も時間が空いているの」
「そうなんですね」
「…………わ、私も時間が空いているの」
「はい」
「……あ、空いているの……だけれど……。私も……」
「……」
「…………」
「…………」
長い無言が生まれ、私は今すぐにでも穴に頭から入りたくなる……。
私に誘う勇気があれば良かったけれど、そんなのはない……。
(だ、だってこのお誘いをしたら……デ、デートに行こうって言ってるようなものだから……)
この静寂、私のしつこい追求が原因なのは分かってるから。それでも、斗真くんと一緒に過ごすためにはーー
「ーーもし良かったら、どこか
『こくり!』
斗真くんのお誘いに私は大きく首を縦にふる。
(やった……っ)
嬉しさから顔が緩まってしまう……。今すぐにでもスキップしたくなるほどに体が軽くなる。
「と言っても、寄る場所ってどこかありますかね?」
「わ、私……今日買い出しの日なの。だから、つ、つつ……つ付き合ってほしい……」
「分かりました。ここからだと24時間営業の
「だ、大丈夫よ……」
「では行きましょうか」
「ええ……」
そうして、私たちは一緒に
その間も斗真くんはさぞ余裕そう……。
(覚悟してなさい……斗真くん。この立場、絶対に逆転させてあげるんだから……)
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