第8話 side梅とお友達と
「う、うめちゃん……。週末のことだけど許可取れた……かな?」
「ああ、それワタシも気になってた!」
斗真の妹ーー梅が通っている高校の昼休み。学校の机を三つ繋げてお弁当を広げる梅と二人の友達は、週末の予定について話し合っていた。
「うん! 許可が取れたから大丈夫。愛ちゃんと夏美ちゃんは何時くらいから梅の家に来れそう?」
「わ、わたしは何時からでも大丈夫だよ」
「ワタシは午前中からがいいなぁ。遊んでると時間過ぎるの早いからさ!」
愛と呼ばれる少女は、気が弱く大人しい。いつもおずおずとしていて小動物を思わせるほどで……毎度のこと構いたくなる。
薄い眉にぎりぎりかからないくらいのショートの髪。梅に負けず劣らずの華奢な身体。雪のように白い肌を持ち、丸っこいタレ目の瞳からは優しさが伺える。
その一方でサーフィンが趣味の夏美は、小麦色に肌が特徴的で実に健康的な肌をしている。スカートも短くし、艶のある太ももが他の女子よりも露わになっている。うなじまで伸びた茶髪を黒のヘアゴムで結び、いつもポニーテールの髪型だ。三角に尖った八重歯が見えるほどに屈託のない笑みを見せる夏実からはいつも元気がもらえている。
「じゃあ、午前中からで大丈夫?」
「う、うん……っ。それでお願いします……」
「よっし! 週末が楽しみだー!」
梅の家に行くことが決まったものの、それからの予定は決めてはいない。これが三人で遊ぶ時の通常のスタンス。近くに大型ショッピングモールやボーリングなどがあるが、遊ぶ時は基本的に家の中。映画鑑賞や漫画にトランプ、ガールズトークなどで時間を潰している。
「ただ、にいがいるからそこだけはごめんね。どこかに出かけてくれたら助かるんだけど……」
家で遊ぶことに伴って、家族の者がいるとなると変に気を遣う。だが、こればかりはどうしようもないため、前もって言っておいた方が何かと助かるだろう。
「ううん、大丈夫だよ……。斗真おにいさん、すごく良い人だから……」
「それはワタシも同意! 毎回思うんだけどウメちんの兄ちゃんってめっちゃアタリだよねー。あんな兄ちゃんがいるのめっちゃ羨ましい」
「は、はぁ!? あ、あんなにいが? それはないって絶対」
『いやいや』と片手を振りながら全力否定する妹の梅。これが照れ隠しだということに、愛と夏美は気づいていなかった。
「分かってないのは、ウメちんだけだって。お茶注いでくれたりとか、クッキー用意してくれたりとか、ワタシ達にあんなに気を遣ってくれる人はホント居ないよ。ね、愛?」
「う、うん、あんな素敵なおにいさんがいていいな……って思う。わたし、お姉ちゃんだから自分がしっかりしなくちゃ……だから……。甘えられたり出来るのも、羨ましい……」
兄や姉がいない愛にとって甘えられるのは両親だけ。兄に甘えたい、姉に甘えたい。そんな感情が芽生えるのは当然のことである。
「ワタシのとこは兄ちゃんいるけど、ガミガミうるさいし普通に入れ替えてほしいよ……ってこんなこと言っちゃ可哀想か! あはは」
「……ま、まぁ。にいの悪いところは考えないと見つからないけど……」
「でしょ? あれだけ優しいと文句の一つも出てこないって。それに、ウメちんの兄さん普通にカッコいいし。ね、愛?」
夏美は『ニタァ』とした笑みを見せながら、愛に話題を振った。
「そっ、それは……それは…………」
この手の話題に関して、愛は弱い。弱過ぎる。たったこれだけの会話で耳まで赤くしている。夏美が意味深な笑みを浮かべていたのは、その弱点を理解していたからだ。
「はい! 愛も認めるくらいだから自慢の兄ちゃんだって。正直、週末にウメちんの兄ちゃんに会えるのも楽しみにしてるくらいだし。ねー、愛?」
「っ……。ぅ……。そ、それは…………」
すかさず夏美の追撃。愛はもう顔を下に向け、恥かしそうに身体をじもじとさせていた。
「めっちゃ頭の良い南国公立大学に行ってるらしいし、性格も良いし、彼女さんは絶対いるだろうねー。ってか、いなかったら引くくらいある」
『こ……こくり』
なんて持論を持ち出した夏美に、愛も小さく頷く。
「元カノ10人くらい居そう」
『……こくりこくり』
続く夏美の持論。愛も二連の相槌。
「ちょ、なんかそれ彼女を取っ替え引っ替えしてるみたいじゃん……。にいはそんなことしないって」
「ごめんごめん。言い方が悪かった。ウチの言いたいことはそれだけアタリ兄ちゃんだってこと!」
『……コクコク』
先ほどから夏美と愛の口からは、斗真の悪口は何一つ出てこない。むしろべた褒めである。
「な、なんかそこまで言われると悪い気はしないけどさ? にいに言ったら絶対喜ぶよ」
「ち、ちょぉっ。流石にこの会話のことは言わないでよ!? これを伝えられたらワタシ恥ずかしいし! 愛もやばいと思うし! これはガールズトークってことで内密!!」
「うん……。う、うめちゃん……。お願いします……」
褐色の肌からほんのりと頰をピンクに色付かせる夏美。慌てた様子を見せる夏美だが、愛は懇願するほどに頭を下げている。
「分かってるって! その代わり、週末は絶対遊ぼうね」
「うん……っ!」
「それはもちろん!」
一通りの会話を終わらせた三人は、ここでようやくお弁当に手をつけていく。
お箸で卵焼きを口に入れる梅は、
(にいってそこまで評価高かったんだ……。ま、まぁ……おかしくはないと思うけど……)
誰にも聞かれないし……と、心の中で素直に呟くのであった。
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