第17話 斗真の相談と春の想像

 澪と七海が某作戦を立てている時間ーー斗馬が通っている南大学も放課後を迎えていた。

 斗真と親友の春がいる場所は学生食堂。講義終わりにご飯を食うも良し、会話をするスペースとして活用しても良しだ。

 ただ、ここは食堂。満室の場合は喋りの空間として使うのは控えなければならない。それはここに通う学生皆が弁えていることでもある。


「んで、あれからどうだ? 斗馬。美人な佐々木さん、、、、、との進展は」

 今だに春は斗真に打ち明けてはいなかった。

『美人な佐々木さん』が麗常看護大学に通っているあの看護科の天使だと言うことに。

 もちろん、これには理由があり……斗真に気後れ、、、をさせないようにするため。

 相手がこの南大学でも異名を轟かせている者だと知れば、奥手になってしまうかもしれない。

 上手く進展させるためにも、今は言うべきではないと踏んでいたのだ。


 そう……、春は確信を得ているわけではないが、姉の七海との会話でこう感じていた。

『看護科の天使、佐々木澪は斗真のことが異性として気になっている』のだと。


「進展って……言えるようなことは特になにも……あ、昨日偶然コンビニで会ったんだ」

「ほお! コンビニで出会うってのも珍しいもんだな! んで、そこから?」

「え、えっと……その時に手に持ってたのがチョコとシュークリームで……それを佐々木さんに見られて恥ずかしかった……って感じで……」

 今でも思い出すあの日。親しい友達ならまだしも、Barの常連でもある佐々木にこの買い物を見られるのはかなり恥ずかしかった。この記憶はすぐに忘れられないだろう。


「……おいおい、なんだその子どもが選ぶような組み合わせは……。まぁ、クソ美味いもんだけどよ」

「逆に佐々木さんが持ってたのはなんだと思う?」

「ははー。なるほど。斗真と一緒の商品だとか言うオチだろ?」

「そ、それならまだ良かったんだけど、佐々木さんが持ってたのはブラックコーヒーでね」

「ブラックコーヒーってカッケェ……」

「物凄く大人っぽくて似合ってたよ。一つのファッションにしてるみたいに」

 こう話す斗真は予想すら出来ないだろう。

 澪はアクセサリーの要領でブラックコーヒーを買っただけであって、飲料と疑うくらいにその飲み物が苦手であるということに。

 ーーこの事実を知るのはもう少し先のことでもある。


「まぁ、斗真の言いたいことは分かる。男としちゃなんかアレだわな、メンツが立たないみたいな」

「ああ……」

「でもそれくらいじゃなんとも思わないだろ。むしろ評価が上がったんじゃないか? バーテンってことは大人っぽい風を演出して、コンビニで会った時はシュークリーム的な姿を見せたわけだろ?」

「え? シュークリーム?」

 全く理解ができない例え。斗真がキョトンとする理由も頷けるだろう。

 もし、これで春の言いたいことが分かるのなら大したものだ。


「だから、大人っぽい姿と子どもっぽい姿を見せたことでギャップを見せられたかもしれないってことだ。その買い物を見ても嫌な顔とかしなかっただろ?」

「それはもちろん。佐々木さんは優しい人でもあるから」

「それなら印象が上がったーなんてプラス思考で行こうぜ? 甘い物が好きな男なんてそこら中にいるんだから気にする必要ねぇよ」

「確かにな……」

 頬杖を付きながらドヤ顔を見せてくる春だが、姉の七海との約束をちゃんと果たしている。

『相談をしてきた時にはちゃんと協力をしてあげること』を。

 そして、しっかりと斗真の悩みを解決に導いている。


「で、一緒に買い物をしただけじゃないんだろ? 斗真のことだから、佐々木さんの家まで送っていったんじゃないかと予想するが」

「正解……」

「ほー! 結構良い感じに進展してるんだな。そんじゃあ一つ聞くが……もしその佐々木さんが彼女になった場合はどうだ?」

「文句の付けどころもないよ。あれである方がおかしいくらいだと思う」

「ふうん。………まぁ、当たり前だろうけど」

 ここでボソリと発する春。


「何か言った?」

「んにゃ、なんにも」

 春だからこそ、『当たり前』と断言出来る理由がある。それは姉の七海と澪が関わりがあるから。

 七海は友達自慢をする時は全部こうだ。

『みおちゃんがねー?』『みおちゃんはねー!』と続き……『だからすっごい良い人なんだよ!』と終点地に着く。

 その時の楽しそうに話している姿と、嬉しそうな表情を見るだけでも澪の性格は把捉することが出来る。


「だが、なんかま腑に落ちない、、、、、、感じがするな、斗真?」

 そして、春はこう察していた。


「な、なんでもお見通しか……」

「親友だしな。で、話してくれるか?」

「分かったよ。……俺自身、佐々木さんのことを一人のお客さんとして見ている部分があって、まだ女性として見れていない部分があるんだ」

「……なるほどねぇ。斗真がそう捉えても無理のない話ではあるな。その相手は斗真がバイトしてる先の常連さんでもあるらしいし」

 常連というのは厄介なもので……親友の関係にある男女が恋人の関係に発展するようなもの。

 見方を変えるには時間がかかってしまうものだ。


「まー、斗真がそこを詳しく考えても意味のない話だって。佐々木さんのことが女性として気になり始めたら自然とそういう目で見るはずだしな」

「……春がそう言うなら、そうかもしれないね」

「まぁ、焦らずゆっくり行くようにな」

「ありがとう」

 そうしてこの話題は終了し、二人は南大学で出た課題を取り組み始めた。


 春は課題を進めながらもこんな想像を働かせていた。

 ーーあの看護科の天使が本気で男を落としにきた時、どんなことをしてくるのか……と。


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