Barで働く俺をからかってくる年上彼女。お酒のせいか、すぐに顔が真っ赤になる

夏乃実 (旧) 濃縮還元ぶどうちゃん

第1話 好きなわけじゃない……?

 高層ホテルのような白塗りの校舎。全面ガラス張りの窓。花々が咲き誇る敷地面積の広い校庭。

 正門から校舎までの距離は約100メートルほど。他を寄せ付けないほどの立派な門構えからは他を圧倒するほどの雰囲気を醸し出している。

 ゴミ一つ落ちておらず、装飾的設備の大きな噴水がシンボルともなっているココ。


 専門系の分野で全国一の倍率と人気。偏差値69を誇る4年制の麗常れいじょう看護大学。

 校舎や校内の綺麗さと、とある財閥の寄付金によって学費がかなり安いということから爆発的人気を放っているのである


 現在の時刻は朝の8時15分。

 麗常れいじょう看護大の三年生になったばかりの佐々木 みおは、とある用事を済ませて教室に戻る。そして、自席に座ろうとした時ーーとある者にツッコミを入れた。


「な、なによ……七海。そんなに顔をニヤニヤさせて……」

「いやぁ、流石はみおちゃんだなーって思って。この看護大に入って今日で通算38人斬り……。お相手さん、南大学の王子プリンスって呼ばれてた人だよ? 格好良かったのになんでまた振っちゃうのかなー。ホント勿体無い」


 はぁ。ため息を吐きながらまんまるの黒い瞳を細めているのは海堂 七海。

 サラサラの黒髪を持った童顔で、騒がしくもあり頼りにもなる人物だ。七海はこの看護大に入ってからの友達で、親友と言っても過言ではない仲。そんな二人の席は隣同士であった。


「告白の場を覗くだなんて関心しないわよ、七海。一体どこから私を見ていたのよ……」

「正門に呼ばれていたんだから、覗きにいけたんだもん」

「もぅ、覗かない努力をしなさいよね……。こんなお話をするの、恥ずかしくないわけじゃないんだから」

「あはは、ごめんごめん。次は気をつける!」

「反省の色が全く伺えないわ……」

 てへっと、握り拳を頭に当てる七海をジト目で見つめる澪。澪の言葉通り、七海は反省をしていないだろう。なんたってこの注意をするのは数十回にも登るのだから。


「でもさー、前から思ってたんだけど……これはみおちゃんが告白されなければいい話でもあるよね?」

「そ、それはどう言う意味よ……」

「みおちゃんにこんなことを言うのもなんだけどー、どうして誰とも付き合わないの? さっき振ったお相手さん、みおちゃんの彼氏さんでも不釣り合いじゃないと思うし、彼氏を作ったなら告白をされる回数も減ると思うからさ?」


「……そ、それはそうだけれど、好きじゃない人と付き合いたくはないのよ。私は私が好きになった人と付き合いたいの」

「んー。その気持ちも分かるけど、片想い状態からのお付き合いもうち的にはアリだと思うんだよなぁー。付き合ってからお相手のことを好きになることもあるだろうし?」


 価値観は人それぞれ。両想いになってから付き合いたいという人もいれば、相手のことを知れば好きになるかも……との考えで付き合う人もいる。

 澪は前者を推し、七海は後者を推している。澪のクラスでリア充、、、、の割合は60%と非常に高い。この数字を叩き出しているは麗常看護大学に通っているとの箔もあってのことだろう。

 澪の親友である七海も付き合っている彼氏がいる。


「もぅ、どうして七海は私を付き合わせたがるのよ……」

「だってー、みおちゃんは恋愛に興味がないわけじゃないんでしょ? うちの彼氏のお話、興味深そうに聞いてくるしー」

「そ、それは七海が『聞いて聞いて』って言うから」

「でもでも、『それでどうなったの!? 続きは!?』とか、腕をわきわきさせて急かしてくるじゃん!」


「そ、そんなこと今までで一度もしたことはないわよっ! 急かしたりしてるのは認めるけれど……」

 綺麗な猫目を伏せ、両人差し指をツンツンと合わせる澪は頰を朱色に染めていた。


「つまりさ! 彼氏さんが欲しくないわけじゃないんでしょ!?」

「う、うん……。それはそう……よ」

「それならすぐ行動に移した方がいいって! 『看護科の天使』ってみおちゃんの異名は他の大学にも浸透しているんだからすぐに彼氏が出来るはずだし!」

「え、何その異名……。今初めて聞いたのだけれど……。看護科の……て、天使? 私が……?」

 異名のことを全く知らなかった澪は、きょとんと首を落としながら自身を指差した。


「えっ、なんで本人が知らないの……!? まぁ、みおちゃんらしいけど……」

「私らしいって……」

「誰がその異名をつけたのかは分からないけど、正しいからねぇ。みおちゃんの成績はトップ中のトップだし、美人だし、優しくお世話もしてくれそうだし。……ねー、天使ちゃん?」

 なんて言い終え七海はニヤリといたずらっ子の笑みを浮かべながら澪に接近する。その距離は目と鼻の先だった。


「ほらぁ、毛先までツヤのあるブラウンの髪! 長くて細い眉! ぱっちり大きな猫目! ちっちゃいピンクの唇! 左右対称の小顔! 細身の体型の身長160センチに推定Dカッーー」

「ーーや、やめなさいっ。まだ続けるのなら、鼻をつまんで息を出来なくさせるわよ」

「んーんー!?」

 蚊を百発百中で叩き倒せるほどの的確さ、俊敏さで七海の口を塞ぐ澪。腕の力だけではなく、体重を乗せた口塞ぎに七海は白旗を上げる他ない。

 大学が大学だけに、女性が9割を占める麗常れいじょう看護大学。このクラスには男子はいないため、シルエットを公表されても穴に入りたいほどの羞恥心は襲ってこない。


「す、すびばせん……」

「全く……。その様子じゃ看護師になってからの七海が心配だわ……」

 ーーそして、澪が呆れながら口を解放させた瞬間だった。

「い、息を出来なくさせようとした人が言うセリフじゃない……」

「あら、またやられたい?」

 七海の正論に口撃のカウンターを食らわす澪は意味深に表情を緩ませる。目は笑っていない。


「そ、そそそそそういうわけじゃないから! 今のは気のせい気のせい!!」

「そう言うことにしてあげるわ。……特別に」

 我慢するように小さな口に力を入れる澪は大人の対応を見せる。だが、七海に向ける瞳は優しさに染められたもの。七海の性格、その良さを知っているからこその対応でもある。


「あー。みおちゃんに彼氏さんが出来たらうちと同じように接するんだろうなぁ。ちょっと寂しいかも」

「えっ……?」

「みおちゃんってさ、好きな人が出来たら絶対に尽くすタイプだよね。もちろん良い意味で」

 親友の七海ももちろん澪の性格を理解している。内面を知っている。どう言った気持ちを持って先ほどの対応をされたのか分かっているからこその感想である。


「す、好きな相手なら当然じゃない……。七海だって彼氏さんにそうしているのでしょう?」

「あはは、その通りではあるんだけど」

 から笑いを見せながら頰をぽりぽり掻く七海は、何かを思い出したように『あ!』と大きな声を出した。


「そう言えば今までに聞いてなかったんだけど、みおちゃんに好きな人とかいないの? もし居るのならうちも協力するよ?」

「っ……い、いないわよ、そんな人」

 定石とも呼べる質問。冷静に返せたつもりの澪であったが、視線を彷徨わせてしどろもどろになってしまう。よくよく見れば両耳が赤くなっていた。


「ん!? い、今の反応おかしかったぞ!? もしかして好きな人いるのッッ!?」

「だ、だから居ないわよ……」

「ホントかなぁ〜?」

 ーー疑ぐりの目。


「も、もし好きな人が出来たのなら七海に相談するわ……。こ、これで良いでしょ?」

「うん! じゃあそうしてもらおうかなっ!!」

「……」

 好きな人は誰か。そんな追求を避けるために『相談』という餌を撒く澪。話を逸らされたことに気が付くのは、ごく一部の人間だろう。それほどに上手い話題の散らし方だ。


(そ、そう……。私はあの人のことが好きなわけじゃない……。ただ、面白い反応をしてくれるから、からかっているだけ……なのよ……)

 誰にも気づかれることのない心の声で、言い聞かせるように独り言を吐く澪であった。


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