第39話 side澪、お見舞い②
私は恥じらいで身体を縮こまらせながら、
その斗真くんの言い分はこう。
『澪さんの友達に用事が出来たらしくて、代わりにお見舞いを頼まれた』と。
「お、お見舞いの代わりって……」
斗真くんが言う私の友達は間違いなく七海のこと。
連絡先を持っていなくても斗真くんの友達である弟を経由すれば簡単にやり取りができる。そして、決定的なのがお見舞いの話をしたのは七海だけだもの。
「はぁ。完全にやられちゃったのね……私は」
七海の策略にまんまと乗せられたのだと、全く気づかなかったと、少しだけ悔しい気持ちになる。
『みおちゃん大丈夫? もしかして風邪引いちゃった?』
このメールを送った時点で七海は斗真くんにお見舞いを任せようとしていたのだろう……。
七海は私の大好きな人を知っているから。
私をびっくりさせようとの思惑は分かった。でも、理解出来ないことが一つある。
(斗真くんがお見舞いに来てくれたのは本当に嬉しいけど……一体どう言うことなのよ七海……。これじゃあ恋敵に塩を送っているようなものじゃない……)
七海の真意が何も掴めなかった。
このキッカケを作ることは七海にとってデメリットでしかない。私には逆にメリットしかないのだから。
(実は七海は斗真くんのことを気になっていない……? ううん、そんなはずがないわ……。だって斗真くんの話をしている時の七海は、彼氏の話をしていた時と同じ表情だったもの……)
この確信があるからこそ答えが見つけれない。正解を導けることはなかった。
(七海に直接聞くしかないのね……)
なんて、解決法を探し出していた時だった。
「み、澪さん。大丈夫ですか……?」
「っ」
玄関外でずっと待ってくれている斗真くんが気遣いをしてくれる。
「あっ、ご、ごめんなさい。と、扉を開けるから少しだけ待っててくれないかしら……」
「大丈夫ですよ。分かりました」
斗真くんをさらに待たせることで罪悪感を感じる。
少しでも時間を短縮させようと、バタバタ床を走りながら自室に足を踏み入れた。
(斗真くんには綺麗でいる私を見せたい……)
小物入れからつげ櫛を取り、ベッドの上にある置き鏡の角度を変えてお手入れを始める。
時間にして5分。長いかもしれないけれど一生懸命頑張って短縮したほう。
「こ、これで大丈夫……。うん。大丈夫……よね」
髪を整え終わった後に念入りに鏡に目を通す私。ちゃんと毛先まできちんと揃っている
「あとは鏡を戻してベッドのシワを伸ばして……」
自室の気になったところを直し、
(うん……。これ斗真くんにお部屋を見られても大丈夫ね)
残る作業は残り一つ。玄関扉を開けて斗真くんと顔を合わせるだけ。
私はゆっくりと玄関に向かう。
(うぅ、緊張するわ……)
でも、こんなところで
斗真くんを取られたくない。私が一番に斗真くんと付き合うのだから……。
その気持ちが私を強くする。
「中に入っていいわよ、斗真くん」
『ガチャ』と利き手で扉を押し開けた私は、何事もないように斗真くんに顔を合わせた。
「ん!? み、澪さんの自宅にですか!?」
「そ、それ以外に入れる場所はないと思うわよ」
斗真くんは今の私をどう思っているのだろう。落ち着いているのか、落ち着いていないのか。
実際は後者。私は全心全力で平然を装っているだけ。『緊張』というで名詞が頭いっぱいに広がってパンクしそうだった。
大好きな人をお部屋に招き入れようとしている。当然のこと……。
「い、いや。それはなんて言うかまずいというか……、自分はお見舞い品を……」
「わ、私のお友達は
「……っ。ち、違うことはないですよ。ただ自分が緊張してるだけで……」
「リラックスして大丈夫よ」
なんてセリフは私自身に対しての言葉でもある。
斗真くんの優しさで私の胸は締め付けられたように苦しくなる。バクバクと激しい鼓動が鳴り止まない……。
私を傷つけないために、気遣わせないように『看病するだなんて聞いてない!』って言わないんだもの。ウソを言ってるだなんて微塵も感じていない。
(斗真くんってば、ホントにお人好しなんだから……)
あとひと押しで斗真くんをお家に招き入れることができる。思わず小さな笑みをこぼしてしまった。
「えっと、澪さんの自宅に親御さんがいらっしゃったりは……」
「今まで言ってなかったかしら。一人暮らしをしているって」
「言ってませんよ!?」
「斗真くんを驚かせちゃったわね、ごめんなさい」
私の両親が住んでいるところはここから電車で30分程度。私の通う大学が遠方にあるから一人暮らしをしているわけじゃない。
自立するために、と両親から一人暮らしを余儀なくされた。
「あの……こ、こんなことを言うのはアレなんですが、看病って言っても何も手伝えることはあまりないですよ……? それでも良いんですか?」
「もちろん。斗真くんが私の隣にいてくれればそれで……。ううん、それが一番嬉しいわ」
「……わ、分かりました」
本心が前に出てにっこりしてしまう私。斗真くんは斜め下に視線を逸らしながら頷いてくれる。
(あれ? 斗真くんの顔、どことなく赤いような……。夕日のせいかしら……)
「それじゃあ中に入って。そのお荷物、私が持つわ」
「澪さんには持たせられませんよ。熱あるんですから」
「大丈夫よ。熱はないから貸して?」
「え?」
「……あっ!」
ここで何事もないようにしていたら誤魔化しは効いていたのかもしれない。でも、私は『しまった……』なんて表情を見せてしまった。
「今、熱はないって……言いませんでした?」
疑惑を持った斗真くんの目が私を見つめてくる。
(何か言わないと……言わないと斗真くんが帰っちゃう……。それだけは、イヤ……)
頭をフル回転させる私は、言ってはいけないことを第一で考える。
もう熱は治った、これだと。このワードを言ってしまえば、斗真くんが看病する必要性はなくなるも同然……。
(……もう、これしか方法が……)
必死に考えるけれど、これと言って良い案が浮かばない。
浮かんだのは私が中高生の頃、よく友達が使っていたことだけ。背に腹はかえられない。恥ずかしいけれど、ウソにウソを重ねるけれど、言うしかなかった……。
「ほ、本当はね……。お、女の子の日で……休んだの」
「あっ……」
視線を上下左右に動かしながら、私は弱々しく口にした。
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