第51話 我慢の限界と同じ覚悟……

 前書きを失礼致します。


 所用で立て込んでおり更新が遅れてしまいました。

 久々の投稿で内容を忘れていると思いますので、前話の50話を再度読んでいただければ理解しやすいかと思います……。


 本当に申し訳ございません。


 ****


「本当、大変な目に遭ったわ……。みんなして私をイジメるのだから……」

「澪さん有名人ですからね。気持ちは分かりますよ」

 口元を小さく尖らせ可愛らしい悪態を吐いている澪に斗真は面白そうに微笑みながら同意した。


 現在、お互いの大学が終わり合流することが出来たところ。

 夕焼けが始まり空が朱と金に染まっている。写真に収めたいほどの綺麗な風景を瞳に映しながら一歩一歩足を進めていた。


「もしかして斗真くんも私をイジメる人?」

「自分が主犯になってイジメるかもですね」

「もぅ……。そんなところだけイジワルよね。斗真くんは」

「すみません、澪さんの反応を見たくって」

「もし斗真くんが周りと一緒になったのなら、一番につことにするわ。思いっきりにね」

「ちょ……それ冗談抜きの口調じゃないですか」

「ふふっ、本気だもの」


 澪と斗真の二人は仲睦まじい会話を広げながらバイト先のShineに向かっている。今日は斗真のシフト日。そして……澪は告白をする勇気を持ち合った日でもある。


「あ、その手提げバッグ持ちますよ。自分の片手空いていますから」

「ついさっき主犯になるかもだなんて言った人とは思えないセリフね……」

「あれはほんの冗談ですから」


 そう言って笑みを浮かべた斗真は自身の空いている方の手を差し出した。

 確かに斗真の提案は有難いもの。気遣ってくれたことは澪にとって嬉しいことだが、今日だけは別であった。


 この手提げバッグを渡したなら斗真の両手は塞がることになる。

 そうなれば昨日の約束、、、、、をすることは不可能になってしまう。

 今日は『手を繋いで帰る』という約束をしているのだから。


「斗真くんは本当に私の荷物を持つつもりなの?」

「……な、何か問題がありますか?」

「問題ありまくりよ……」

「……で、ですよね」

「えっ? ですよねって少しおかしいわよ?」

 

 先ほど自ら疑問符をつけて話を振った斗真がこうして同調したのだ。澪からしたら違和感が生まれるのは当たり前だ。


「澪さんはその……、昨日の約束のことを言っているんですよね……?」

「っ、そ、そう……よ。って、覚えてたのなら早くして……。私、斗真くんが手を繋ぎやすいように逆手にバックを持ち替えているのだから……」

「すみません……。澪さんが気を遣ってくれたことも分かっていたんですけど上手くタイミングが掴めなくて……。自分、こんなことに慣れていないので……」


 これは斗真からした約束。申し訳なさを滲ませながら夕日の色に染められた頰を人差し指で掻く。

 こうしてたわいもない話をしている時に『手を繋ぎましょう』だなんて台詞はなかなか言えるものではない。

 恋愛経験が豊富でない斗真だから仕方のないこと。そして……澪もまたしかり。


「タ、タイミングが掴めないのなら……い、今握って、いいわよ……」

 下を向きながら立ち止った澪はおずおずと白い手を斗真に近づける。両耳は真っ赤になり今にも逃げ出しそうである。


「だ、大胆……ですね」

「わ、私だって慣れていないのだから……こうした不器用なことしか出来ないのよ……。わ、悪い?」

「悪いなんてことは……。すみません、自分がもっとしっかりしていれば」

「そ、そんなこと言うのなら……早く握ってよ……。周りから変な目で見られるから……」

「そ、それは早く言ってください……」

「早く手を繋いでくれない斗真くんが悪いわよ……」


 今の構図的に澪が斗真に手を差し出ている状態。手を繋ぐためにこうしているも、周りの人々は男の荷物を女に持たせようとしていると勘違いされていた。

 やはり、筋力のある男が荷物を持つというのは一般的な気遣いなのだ。


「で、では……失礼します……ね」

「う、うん……」

 緊張が滲んだ声音を出しながら昨日と同じように斗真は澪の手を包みこむ。

 澪の機転があり、不慣れながらも約束を守ることが出来た。


「……」

「……」

 のだが、手を結んだ時から会話が発生しなかった。

 バイト終わりの深夜と違い、今は人通りも車通りもある。『あ、手を繋ぐためだったのね』と言いたげに周囲から生暖かい視線を向けられている。

 静寂と周りの様子から気恥ずかしさが一気に吹き出す。


「あ、あの……」

 この状況を少しでも打破しようと無理やり声を捻り出した斗真に、澪は艶のある長髪を揺らしながら首を横に振った。


「無理をして喋ろうとしなくても大丈夫よ、私はこんな時間も好き、、だから……」

「っ、そ、そうですか。それなら……このままで」


 ドクン、と息が詰まるほどに心臓が跳ね上がる。たった二文字の言葉だが、斗真にとっては平常ではいられない。

 夕日のせいか、それとも別のなにかか、顔全体に赤みがかっていた。小ぶりの唇を一文字にして足元を見ている澪。赤面を隠しているのだ。


 いつも動じることのない大人な澪がこうした行動を取っている。可愛らしいギャップを目の当たりにした斗真。


「……」

 もう、我慢の限界であった。自身の想いを抑えることに……。

 バイトが終わった時、澪に伝えよう……。斗真の歯車は大きく動いたのである。


 その後ろをつけている者が一人いた。銀色に輝く刃物をバッグに仕舞い入れて……。


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