04.今の私なら余裕ですよ
「なるほど……ちょっと信じ難いですが、話はだいたい分かりましたよ」
そう言いながらも、尖がらせた唇はそのままのナーシェ。
「ほんとに、アレはしなかったんですね?」
「アレ?」
「挿したり入れたりするやつです」
「言い方っ! っていうか、それじゃ入れっぱなしだろ……」
先ほどから、立ったまま眉を
一方、ナーシェと一緒に店を訪れたライラは、今はソファーに背を預け、タクマさんが運んできたコーヒーを無表情で
夜は一つだけだったランプも、今は四つ
「ただ、いくら貴族様と言ってもですよ?
「ああ……悪かった」と、ニコラが俺の隣で肩を
「坊やが精霊じゃないと分かっていればあんなことはしなかったんだが……」
「精霊でもそうじゃなくても、ダメなものはダメです! とにかく、エロ丸は私のものです! 話があるなら私を通してしてください!」
両手を挙げてムキーッと顔を
「(俺はナーシェのもの?……この世界のサーヴァントは、そんな、所有物みたな言われかたが普通なのか?)」
『さあな』
「(ヘリオドール……昨夜から、なんだか素っ気なくない?)」
『べつに』
ったく、なんなんだ?
俺、ヘリオドールに何か変なことでも言ったっけ?
「ところで……ですよ、エロ丸……」と、こちらへ向き直るナーシェ。
「なぜ精霊じゃないことを教えてくれなかったんですか」
頬を膨らませ、抗議の色も
「それは、なんていうか、まあ、なんとなく気が進まなくて。……っていうかさ、そろそろ
「うるさい破廉恥丸!」
破廉恥……。
「言っておきますけど、一緒に行動することと信じ合うことは同じじゃないのです。今後一切、私に隠し事はしないでください」
「わ、分かった分かった」
「分かったは一回でいいです!」
とりあえず、言いたいことを言い終わって大きく息を吐き出すと、ようやく落ち着いたのか、険相を緩めてテーブルに着くナーシェ。
自分のカップと全員のカップの中身を見比べて――、
「なんで私だけミルクなんですか?」と、タクマさんに尋ねる。
「ん? ナーシェちゃん、コーヒー苦手じゃなかった?」
「それは昨日までの私です。今の私なら余裕ですよ。ニコラと一緒のにしてください」
そうなんだ、と言いながら、もう一つカップを取り出すと、サーバーからコーヒーを注いでナーシェの前に差し出すタクマさん。
一口啜って「うにゃっ!(>ε<;)」と顔を
「……で、精霊じゃなければ、蘭丸はなんなんですか?」
ゴクリと飲み込んだあと、何事もなかったかのようにナーシェが話を続ける。
まあ、こうなったからには仕方がない。
転生という事実がどう受け取られるのか未知数だが、かと言ってこの世界の常識もまだよく分からないので、いい感じに取り繕うこともできない。
正直に転生するまでの
ニコラにも昨夜はそこまで詳しい話はしていなかったので、俺が話し始めると、隣で耳を
一通り話が終わったあと、口火を切ったのはナーシェだった。
「道理でおかしいと思ったんですよ」
「ん? 何が?」
「私がイメージしたのは、孤児院の絵本で読んだ〝伝説の姫騎士〟です。当然女型の精霊が出てくるかと思っていたんですけど……」
「けど……なんだよ?」
ナーシェが片目を
「どう見ても青二才のデカチ――」
「あ――っ、もういいっ! 分かった! それ以上言うな!」
俺が青二才なのは否定しないが、なんかこいつに言われると腹が立つな。
とそのとき。ガシャン、と派手な音を立て、何かが床で砕ける。
「た、タクマさん?」
ナーシェが、驚いた様子でタクマさんに声を掛けた。
「ああ、ごめんごめん、手が滑ってカップを落としてしまった。中身は空だったからよかった」
「珍しいですね。私じゃあるまいし、タクマさんがカップを割るなんて」
ハハハ……と、しゃがみながら苦笑いを零すタクマさん。
「それより、ナーシェちゃん、もしかして蘭丸くんの召喚って、あのヘリオドールを使ったのかい?」
「はい……ん? タクマさんにヘリオドールのこと、話したことありましたっけ?」
「あ、ああ、前にちょっとね……」
タクマさんが、しゃがんでカップの破片を拾い集めながら続ける。
「それより、みんな、そろそろ朝食でもどうかな? 簡単な物しか用意できないけど、話はそのあとにでもまたゆっくりと」
言われてみれば、少しお腹が減ったな。
ナーシェが八時過ぎに来たと言ってたけど、それから一時間くらいは経っているだろうか。窓も時計もない部屋なので、すぐに時間感覚が狂ってしまう。
「今、何時頃だろ……」なんとなく独り言ちると――
「午前九時だな」と、隣に座っていたニコラがすかさず答える。
「あれ? どこかに時計でもある?」
「いや。しかし、体内時計は鍛えてあるからな」
「ほんとかよ!」
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