09.秘密基地
「それで……どうしたの、その子?」
リスタの体を調べていたニコラが、ライラを振り仰ぐ。
「グリーンタウンで
「とりあえず、傷は消しましょうか」
ライラがベルトポーチから一本の
「
「どうした?」
詠唱を中断したライラを
「いえ……今、この子の
「じゃあ、
昨日聞いた話によれば、
但し、
ライラが首を振りながら、
「いえ、それは大丈夫。前回のリキャストタイムが七時間くらいだったから、今の怪我を治すことは可能よ。ただ……」と、再びリスタを見下ろす。
「普通に施術してもらおうと思えばキュアはかなり高額だけど、この子にそんな大金を払えたのかしら」
「そうだな……。スリ行為を繰り返していたようだし、払って払えないことはなかったかもしれないが……」
そう答えるニコラも、本当にそうだとは信じてはいないような口ぶりだ。
スリを繰り返してまで借金を返済しようとしていた人間が、その一方で、大金を払ってスクロールによる施術を受ける――。
怪我の程度によっては致し方なかったと考えることもできるが、やはりちぐはぐな印象は
「それならまだいいのだけど……」と、表情を曇らせたままライラが続ける。
「痛みによる恐怖を植えつける目的で暴力を振るい、散々痛めつけたあとで治癒を繰り返す……そんなことをやってる人たちもいると聞くので、もしかしてと思って」
再び詠唱を開始したライラを眺めながら、ガツンと後頭部を殴りつけられたようなショックを受ける。
言われてみれば確かに、借金を取り立てるだけの相手にあんな暴力を振るっていた理由が思いつかない。
まさかあいつら……そんな酷いことをこの子に!?
みるみる顔や手足の傷が治っていくリスタを見ながら、しかし、さっきのライラの言葉が頭にこびり付いて、気持ちが落ち込んでいく。
「終わったわ」と、ほとんど表情を変えないまま施術を終わらせるライラ。
「リスタ……だいぶ酷い暴力を受けていたようだけど、ライラにもその痛みは伝わっているんだよな?」
「そうね、伝わっている……と言えば伝わっているけれど、実際に傷を負っているわけではないから。脳が痛みとして認識しないようブロックしているのよ」
「そんなことできんの!?」
「あまりに酷い痛みであれば無理だけど、訓練次第である程度までは……。この子の受けた痛みも、私に伝わる分は、程度で言えばげんこつ一回程度よ」
「じゃあ、もしかして俺の頭の傷も……」
「蘭丸くんの頭の傷程度なら、ほとんど私には無痛で施術できたんじゃないかな」
なんなら、今からでも治してあげようか?と、俺の顔を見て顔を
どちらか言うと鉄面皮のようなクールビューティーかと思っていたんだけど……こんな笑顔も見せることがあるのか。
「さっさと治してもらってればいいものを、無駄な痩せ我慢をしたせいでビクトールにも途中で逃げられちゃって、まったくもう……」
と、ライラとは対象的に苦りきった表情でホットミルクを
こいつ、登録料がゲットできなかったの、どんだけ悔しかったんだ?
「これ、ここで預かってもらってもいいか?」
部屋の隅に備え付けられた棚を指差して質問するニコラ。
左手には、いつの間に外したのか、先ほどまで身に着けていた腰布を持っている。
「ええ、構わないけど……どうしたの?」
腰布を取ったニコラは、白いミニのプリーツスカートに、バンドで固定されたサイハイブーツ。
トップスはベストのようなデザインの
先ほどまでの格好と比べると、かなり動き易そうな出で立ちだ。
朱色の
「ちょっと、あの剣士たちの話していた内容で気になる言葉があってな」
「気になる言葉?」
聞き返した俺の方を見ながら、ニコラが立ち止まって言葉を繋ぐ。
「蘭丸も聞いていただろ? あいつら、三十万揃ったあとでも『金が揃えばいいって話じゃない』と言っていた」
「そう言えば……」
「ガルドゥグループ、私は賭博場関連の仕事しか
賭博の方も十分黒かったけどな……。
「個人的に少し調べてみたいこともあるから、しばらく留守にするよ。終わったらまた、ここに顔を出せばいいかい?」
「はい!」と元気に答えたのは、ナーシェだ。
「私か、いなければ先輩に声をかけてください。ここが私たちの秘密基地ですので」
えっ!?と、ライラが驚いた表情でナーシェを振り返る。
どうやら、聞いていなかったらしい。
ニコラが出て行ったあと、ライラの住居の
と言うよりも、ナーシェがそう言いだした時点でライラが諦めていた節もある。
どうやら彼女も、俺と同様、ナーシェに振り回されている
「夕食はどうする? うちだと三人で食べられる場所なんて、この部屋くらいしかないけれど……」
「私、あそこに行ってみたいです! 最近新しくできたお店……」
ライラが、寝息を立てて横になっているリスタを見下ろしながら言葉を繋ぐ。
「そうね。少し静かにしてあげたいし、外へ食べに行きましょうか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます