10.ドンドンボリー
リスタを部屋に残し、三人で食事に出かける。
目指していたお店〝ドンドンボリー〟は、飲食店街に入ってすぐの場所にあった。
「あっ、ここです、ここ! 最近出来た鉄板焼きのお店ですよ。入ってみたかったんですよ!」
店頭に置いてあった
席に着くと、店員がテーブルの真ん中に備え付けられている鉄板を持ち上げ、下に炭火を敷いてくれた。どうやらここで注文したものを焼いて食べるらしい。
そこそこ混雑はしているが、完成品を待つよりはすぐに食べられそうで良かった。
おすすめを訊くと〝オクのみ焼きセット〟というのが人気らしいので、とりあえずそれを三人前注文する。
「ご新規いただきました~♪ ぽんぽこぽ~ん♪」
厨房へ戻っていく店員の背中を眺めながら、なにやら既視感を覚える。
「モダンなお店ね」と店内を一瞥したあと、ナーシェの方へ向き直るライラ。
「それで、今日もギルド登録はできなかったの?」
「そうなんですよ。今日はイイ線までいってたのに……蘭丸がビクトールに負け、ビンゴでも負け、金貨も取られて踏んだり蹴ったりです」
一生言われ続けそうな勢いだな。
もう、全責任がほぼ俺にあるみたいな言い方になってるし。
「そもそも、ギルド登録なんてお金を貯めてから行けばいいだけの話だろ。イイ線いくとかいかないとか……そんなチャレンジングなもんじゃないだろ」
「お金なんて貯めててもいつの間にかなくなりますからね。ある程度の
〝
「その、アセットマネジメントとやらの運用成績というか……戦績はどうなの?」
「い、今のところは、と……トントンくらいです」
目が泳いでいる。
「オブラートに包まなくていいから、正直に言え」
「オブラート無しで、いいんですか? それだと、ゼロですよ」
「……え?」
「ゼロです。勝った
「おまえ……オブラートの意味、分かってんのか?」
思っていた以上に酷い。ゼロって……逆に難しくね?
それでよく、あんなに夢中になれるな。
飲み物と具材入りの器が運ばれてきたところで、一旦会話を中断する。
テーブルに置かれた器の中を見ると、何かの粉や水、卵で作られた
店員の説明によると、肉はオークのものだけを使用しているので〝オクのみ焼き〟というらしいが、どんな動物なんだろう。
「そういえばさ……」
オクのみ焼きを焼きながら、今度は俺が口火を切る。
「あのリスタって子、もしかしてナーシェの知り合いか?」
「ああ……えっと……知り合いというほどではないですけど……よく分かりましたね?」
「おまえ、金貨をあげるとき『リス
「そうでしたっけ? よく覚えてないですが」
リスタの方が年上だと断言できるほど見た目に差はない。それに……
「よくあだ名をつけてるから聞き流してたけど、リスタと聞いていきなり〝リス姉〟は、やっぱ不自然だ…………って、あ! それ、まだ焼けてないぞ!」
ナーシェが、片面しか焼いていないオクのみ焼きを口に運ぼうとするので慌てて制止して、全員分の生地を鉄ヘラでひっくり返していく。
「蘭丸は、お節介男子ですか」
「せめて世話好きとか、もうちょっとマシな言い方があるだろ……。ナーシェみたいなのを見てると、ついつい手を出したくなるんだよ」
「相性はいいってことですね、私たち」
「そうでもない。んなことより……リスタがおまえの知り合いって話――」
「ああ、え~っと……多分、私が孤児院に入った時にいろいろお世話をしてくれたリス姉で間違いないと思います。見た目がまったく変わっていたので私も最初は気づきませんでしたけど、リスタと聞いて思い出しました」
あら?と、ライラが顔を上げる。
「孤児院で? 私は、記憶にないけれど」
「先輩があそこへ来る前に、リス姉は里親が見つかって孤児院を出ていきましたからね」
あの
「んじゃ、今でも親と一緒に暮らしているってことか?」
「それは分かりませんけど……私が孤児院に入ったばかりのころ、獣人ということでみんなと馴染めなかった時も、リス姉だけはずっと私を気遣ってくれました」
「ほう……今のあいつあからじゃ全然想像できないな」
「ちゃんとお礼も言えないままお別れしてしまいましたが……カード勝負でおやつを男の子に取られた時も、一ヶ月分のデザートを賭けて負けた時も、リス姉が全部肩代わりしてくれました」
やってることが今と全然変わらないな、こいつ。
「リス姉が貯めていたお小遣いをこっそり増やしてあげようと思って、カチンコで全部
「それもう、お礼じゃなくて土下座した方がいいだろ!」
とにかく、昔のリスタは優しい女の子だったらしいことは分かった。
今はどうしてあんな風になってしまったのか分からないが……あの出で立ちだし、きっと何か事情があるのだろう。
ドンドンボリーを出てライラの店に戻ったのは、一時間ほど経った後だった。
「思ったより遅くなっちゃったわね……あら?」
入り口のドアに手を掛けたライラが、首を傾げて動きを止める。
「どうした?」
「ドアが開いてるわ。確かに、鍵をかけて出たはずなんだけど……」
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