03.精霊サイズ
「あれあれ? 起きたのですか?」
女の子の声と共に、ガチャリと部屋のドアが開いた。
入ってきたのは、十歳前後の少女……いや、眉の下あたりでパツンと切りそろえられた前髪が幼く見せているが、実際はもう二つ三つ上かもしれない。
狐? それとも、狼だろうか?
おそらく、前世から通じて実物を見るのは初めてなんじゃないだろうか。
「起きたというか……俺、そんなに寝てたのか?」
「そうですね。かれこれ三時間くらいにはなるでしょうか。そんな寝心地の悪いクソベッドでよく眠れましたね」
「クソベッドだと思ってるなら、もうちょっと何とかしてくれ……」
「まさか精霊さんが、爆睡状態で現れるとは思ってもいませんでしたので、特になにも用意してなかったのですよ」
精霊?
そうか、こいつが俺を……というか、ヘリオドールを召喚したのか。
一応、精霊じゃないと正直に言った方がいいんだろうか?
『それはお前の自由だが……説明はかなり面倒臭いぞ』と、ヘリオドールが俺のモノローグに反応する。
「(そうだな……とりあえず精霊ってことにしておくか)」
ベッド脇の袖机に着替えらしきものを置きながら、さらに少女が続ける。
「とりあえず、これを着てください。今、知り合いからお下がりを譲ってもらってきただけなので見た目は我慢してくだ……って、ちょっとぉ! 急に毛布をはだけないでくださいよっ!」
大きなグローブを着けた両手を持ち上げ、慌てて顔を覆う少女。
……が、指の隙間から、
「見てんじゃん」
「み、見てないですよ、人聞きが悪いなぁっ! 精霊サイズがなんぼのもんかなんて、全然まったく興味はありませんのでっ! 早く下着を履いてください変態!」
そもそも、俺をここに寝かせてる時点で、いろいろ全部見られてるんじゃないか?
少女の、大きくはだけたシャツからのぞく黒い見せブラに目がいく。
そんなことを考えているうちに、年齢にしては明らかに大きな彼女の胸に、いつの間にか下半身が反応してしまっていた。
「わわわっ、変態精霊! 私の胸を見てそんなもの反応させないで下さいよ、いやらしい! いくら立派なものを付けてるからって、私はなびきませんよ! すでに心に決めた方がいるっ……いるのです!」
「やっぱ、しっかり見てんじゃん。そもそも俺、どっちか言うと、A寄りのBくらいの方が……」
……ん? A寄りのB? なんの話だ?
前世に何かありそうだけど、どうせヘリオドールは教えてくれないんだろうな。
とりあえず、知らない世界にもう少し戸惑うものかと思っていたが……意外と冷静な自分に驚く。上手く感情の波が伝わってこないような、そんな感覚だ。
ヘリオドールがいたことも勿論だが、前世の記憶がないということも、今の時点では良い方に働いているのかもしれない。
借りた下着を身に着けると、ようやくケモミミ少女も落ち着いた様子で、顔を覆っていた両手を下に下ろした。
「それにしても、おかしいですね。私が召喚したのはたしか……」
「ん?」
「ああ、いえ、なんでもありません。……ところで、武器はないのですか?」
「ぶき?」
「私が狙っていたのは、最強最悪のクソ強いスーパーレア剣士ですよ? 剣がなければただのポンコツチ〇コじゃないですか」
こいつ、ちょいちょい口が悪くないか?
……というか、今さらだけど、言葉、通じるんだ!
『言葉に関しては、俺がお前の脳の中で自動的に翻訳してやるから心配するな。お前の言葉も、自動的にこの世界の言語に変換しておく』
「(へえ……便利なもんだな。で、剣とやらはどうすりゃいいんだ?)」
『何でもいいから見繕ってもらえ。我が付いている限り、剣の形さえしていれば、この下界の生物に遅れをとることはまずあるまい』
用意された黒のカーゴパンツとブーツを履き、ノースリーブセーターに腕を通しながら、ヘリオドールに言われた通りのセリフを繰り返す。
「何でもいいからある物を貸してくれればいい。剣の形さえしていれば、遅れを取ることはまずない……らしい」
「おお! おおおお――……っ」
振り向けば、ケモミミ少女が両手を口に当てて目をウルウルさせている。
「ど、どうした?」
「い、いえ……生まれてからこのかた屈折十二年、ようやく頼りになりそうな精霊さんが当たったなぁ、と思いまして」
「苦節、な」
「今回の精霊ガチャは大成功です」
「ガチャ!?」
ヘリオドール……ちゃんと、正確に訳してるんだろうな?
俺が着替え終わったのを見て、ミニのプリーツスカートをふわりと靡かせながら少女が踵を返す。
「そういうことなら、早速武器屋へ向かいましょう、デカチ〇コ!」
「変な名前付けんなっ!」
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